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第3回:自然免疫(innate immunity)の感染限局化時が,抗ウイルス薬の至適投与時期:自然免疫は前駆期を形成し,感染を限局化・軽症化する[英国はなぜアビガンを求めたのか?]

登録日: 2026.07.14 最終更新日: 2026.07.14

白木公康 (富山大学名誉教授/北陸予防医学協会)

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クルーズ船でのハンタウイルス肺症候群の集団感染が注目される中で,日本からアビガンが英国に提供されるというニュースが流れた。そこで,本連載ではアビガンについてまとめてみる。

<連載>
第1回:ハンタウイルス肺症候群対策として,アビガンを英国に提供
第2回:アビガンが新型(鳥)インフルエンザに必要な理由
第3回:自然免疫(innate immunity)の感染限局化時が,抗ウイルス薬の至適投与時期:自然免疫は前駆期を形成し,感染を限局化・軽症化する

自然免疫

自然免疫の作用機序

自然免疫(innate immunity)には,好中球,マクロファージ,樹状細胞,natural killer(NK)細胞,ランゲルハンス細胞などが関与する。これらがウイルスなどの異物を認識し,ケラチノサイトやマクロファージによってサイトカインを産生し,炎症を起こす。そして,皮膚に発赤が生じ,免疫担当細胞が集簇する。ランゲルハンス細胞は皮膚の樹状細胞・抗原提示細胞として,異物に対する情報をT細胞に伝達し,抗原特異的細胞性免疫を誘導する.

ランゲルハンス細胞と紫外線

ランゲルハンス細胞は皮膚の樹状細胞・抗原提示細胞として,異物に対する情報をT細胞に伝達し,抗原特異的細胞性免疫を誘導する。なお,ランゲルハンス細胞は紫外線感受性なので,紫外線の露光部ではランゲルハンス細胞の機能は低下するが,遮光部では健常である。自然免疫の重要性は,単純疱疹や水痘の症例における紫外線の露光部と遮光部における病変の分布密度や重症度の対比により,photodistributionとして,自然免疫の抗ウイルス活性が可視化できる1)

自然免疫の抗ウイルス活性

単純疱疹と水痘での症例(図1)のように,紫外線によってランゲルハンス細胞が傷害されると,自然免疫の抗ウイルス活性は低下し,重症化する。単純疱疹では神経終末全体に,水痘ではウイルス血症を通じて広範囲に密度が高く皮膚で増殖して,顕微鏡レベルのmicrolesionを生じる。それを自然免疫が認識し,遮光部のように,ほとんどのmicrolesionは除去され,一部が抗原特異的獲得免疫で水疱が形成され,液性抗体が産生される。露光部ではLangerhans細胞が傷害され,露光部のようにmicrolesionが除去されず,すべてのmicrolesionが水疱に進展する。紫外線の露光部では,ウイルスが広がったことにより微小病変が高密度に形成され,それらのすべてが発赤・膨疹・水疱の経過をたどる。一方,遮光部では,自然免疫の抗ウイルス活性により病変はあまり形成されず,まばらな分布となる。自然免疫の抗ウイルス活性が微小病変の発生自体を制御し,病変を限局化し,軽症化する―その作用の重要性がわかる2)3)

自然免疫の重要性

また,自然免疫は,液性免疫と細胞性免疫という獲得免疫への単なる橋渡しというわけではない。前述した通り,自然免疫自体が強い抗ウイルス活性を持ち,ウイルス感染症を軽症化させるのである。自然免疫はウイルス感染症の発症前に,サイトカインによって発熱,感染部位の発赤やアロディニア(触るだけで痛い,ピリピリ感など)等の前駆症状を形成する。すなわち,ウイルスに感染してから,潜伏期を経て,自然免疫による前駆期から,液性免疫・細胞性免疫という獲得免疫によって疾患特有の症状を呈して,回復するという経過をたどる。

抗ウイルス薬の至適投与時期は前駆期

浅野・須賀らは,水痘の家族内感染での未発症者を対象に,潜伏期間約14日においてアシクロビルの前半7日間投与群と前駆期を含む後半7日間投与群を比較した。前半投与群は抗ウイルス薬の効果はなく通常の水痘の症状を呈した。前駆期を含む後半投与群は,無症状・不顕性か,軽症水痘であった4)

性器ヘルペスでは,前駆症状を感じてからのファムシクロビル1日投与療法により,3分の1は水疱やびらんを発症しない〔patient initiated therapy(PIT)療法〕5)6)。ファムシクロビルは,リン酸化体の細胞内半減期が長いため,再発時のウイルス増殖期間をカバーすることができるからである。

以上から,抗ウイルス薬の至適投与時期は,自然免疫によりmicrolesionが限局化できる前駆期となる。何らかの前駆症状に気づいたときが,「抗ウイルス薬の至適投与時期」である2)

抗ウイルス薬では期待できない“即効性”

抗ウイルス薬の作用機序

図2は,帯状疱疹の皮疹の進展を示したものである。自然免疫による発赤・膨疹から水疱に至る過程を示しているが,抗ウイルス薬を投与してからも,病変は増悪している。

インフルエンザウイルスや単純ヘルペスウイルスは感染後約6時間で,次の細胞への感染が始まる。抗ウイルス薬に感受性がある細胞では,ウイルスが感染細胞で核酸合成を始めるまでは薬剤の最高血中濃度(Cmax)で効果は有効となるが,核酸合成をした細胞においてはではCmax効果がない3)。したがって,ウイルス感染病変の周辺の新規感染細胞に対しては抗ウイルス薬が有効で,広がりを止めることができる。

なお,生体内ではウイルス感染した細胞は死なないので,感染病変の中心部の感染細胞は抗ウイルス薬投与下でも,ウイルスを産生し続ける。その結果,細胞性免疫の標的となり,細胞性免疫による強い攻撃が継続されることで病変は増悪し,回復に時間がかかるようになる。

帯状疱疹に関与するのは遅延型・過敏症型の細胞性免疫だが,その代表である漆かぶれやツベルクリン反応では,既経験の免疫の場合,3日目にピークが来る。同様に,帯状疱疹でもウイルス増殖が続くため,膨疹・水疱のピークは治療開始から3~5日遅れる。図2の症例でも,治療7日目の皮疹でも炎症が続いている(図2e)。

抗ウイルス薬の有効性の評価

抗ウイルス薬治療を開始した1日目(図2a-2)の状態から,炎症が増悪したら(図2b,c),「皮疹が悪くなっているので,抗ウイルス薬が効いていない」という感想を持つのは当然である。抗ウイルス薬の有効性は,新生水疱の出現など,ウイルス感染拡大を阻止できているかどうかで評価する。細胞性免疫の成熟による炎症域の拡大による病変の拡大と膨疹から水疱への進展は免疫応答なので,抗ウイルス薬は(免疫抑制薬ではないので)抑えることはできない。しかし,もとの病変の拡大は認めるが周囲に新規の病変は発生していないので,抗ウイルス薬としては著効を示したこととなる。

コロナウイルス感染による肺炎の患者に抗ウイルス薬を投与しても,症状ウイルス感染の拡大でなく,細胞性免疫の成熟により,増悪することがある。この帯状疱疹の皮膚病変に対する効果をイメージすれば,免疫抑制薬併用の有効性を理解することができる。

細菌感染症とウイルス感染症

細菌感染症で起こる炎症は,増殖した細菌が起こす炎症である。そのため,約1時間で1回2分裂する細菌に対して1日間抗菌薬を服用すれば,細菌数が激減して炎症は収まり,その効果を実感できる。つまり,抗菌薬自体が抗炎症作用を示したわけではない。

ウイルス感染症ではウイルスが増殖して,ウイルス感染巣に対する免疫応答により,炎症が起きる。抗ウイルス薬の効果はウイルス感染の拡大阻止であるため,治療開始から数日間は病変部の炎症は進行し,見かけ上は,病変部は増悪する,ということを理解しておくべきである。

各種ウイルス感染症における,抗ウイルス薬の至適投与時期

前述の通り,抗ウイルス薬の至適投与時期は,ウイルスの広がりに対する最初の生体反応である自然免疫による前駆症状が始まるとき(前駆期)である2)

新型コロウイルス感染症(COVID-19)

新型コロウイルス感染症(COVID-19)流行の当初は,厚生労働省から「発症から4日間は自宅待機」と告知されていた。しかし,新型コロナウイルスでの発熱は前駆症状にあたるため,5日目以降では抗ウイルス薬の至適投与時期を逸していた。なお,日本感染症学会の抗ウイルス薬の使用基準は「呼吸困難の出現時」とされていたが,これは,上記の細菌感染症に対する投与であり,抗ウイルス薬の投与時期ではない。臨床ウイルス学会からも,ウイルス感染症では手遅れになるとして“抗ウイルス薬の早期投与の必要性”を提言していた。

現在は,臨床ウイルス学会からの提言のように,COVID-19に承認されている薬剤(経口薬)は,発症から3日以内に投与開始となっている。

COVID-19のアビガン投与時期は,インフルエンザで実施されている発症48時間以内の投与を提言した7)。ちなみに,アビガンのCOVID-19に対する臨床試験では,アビガンの投与開始時期は,37.5度以上の発熱発症からプラセボ群で5.7(±2.8)日で,アビガン群4.8(±2.3)日であった8)

インフルエンザ,コロナウイルス感染症,性器ヘルペス

インフルエンザやコロナウイルス感染症では上気道粘膜が発赤して発熱が始まる時期が,性器ヘルペスでは皮膚の発赤やアロディニアのある時期(自然免疫のサイトカイン等による局所・全身症状誘導時)が,抗ウイルス薬の至適投与時期である。

前駆期は,自然免疫がウイルスの増殖を抑制しはじめる時期である。この時期に,自然・獲得免疫と抗ウイルス薬でウイルス感染細胞巣からの感染の広がりを阻止することができれば,ウイルスの広がりは最小限となり,また,軽症ですむ。

なお,性器ヘルペスでは,前述のPIT療法が勧められている。

帯状疱疹

帯状疱疹では,アロディニアや発赤の出現時期が前駆期に該当し,抗ウイルス薬の3日以内の投与で効果が認められる。やはり,自然免疫による前駆期の投与がベストである2)

帯状疱疹では,ウイルス抗原や感染細胞に対する自然免疫の誘導が早く,また,強ければ,前駆症状はあっても水疱などは生じない「無疱性帯状疱疹」となる。一方,免疫不全者やランゲルハンス細胞の密度が低下している高齢者では,自然免疫の誘導は遅く,また,弱くなる。そのため,免疫不全者や高齢者では,後根神経節内と神経束内にあるシュワン細胞でのウイルス増殖と,脊髄後角神経への感染により誘導されるアロディニア等の前駆症状が長く続き,さらに,皮膚で自然免疫によるウイルス感染の限局化が起こらず,ウイルス感染細胞巣が大きく広がる。広範囲のウイルス感染細胞巣に対して,自然免疫による発赤が一斉に出現し,そこから膨疹・水疱の形成に進展する重症帯状疱疹となることがある。なお,前駆期が7日以上続けば,免疫不全疾患を疑う必要がある9)。感染細胞の運命と免疫担当細胞との反応の理解は,ウイルス感染症の病態に必要である。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS),ハンタウイルス肺症候群

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS),ハンタウイルス肺症候群への感染の疑いがあり,PCRで血液中にウイルスが検出されたら,アビガンのpreemptive投与が考えられる。

SFTSとハンタウイルス肺症候群への曝露による感染・発症率はエボラウイルスの濃厚接触ほどは高くない。ただし,曝露が疑われれば,一般的には,以下の診断手順が考えられる。

SFTS

山口県では国内で最初にSFTS患者が報告されたが,同県内の皮膚科の先生方は,マダニに咬まれた方へのフォローをしていると聞いた。すべてのマダニがSFTSウイルスを持っているわけではないので,マダニに咬まれたら潜伏期間の約2週間は朝と晩に検温して,発熱があれば,SFTS,日本紅斑熱,ライム病を疑い,医療機関の受診を勧めている,と言う。

なお,より確実に,効率よく曝露後予防をするなら,以下の手順となる。マダニの吸血時間は長いので,体にマダニがまだ付着していれば,医療機関で吸血中のマダニを除去する。そして,マダニの抽出液で,SFTS,日本紅斑熱,ライム病等のPCRを行う。SFTSウイルスに感染していたマダニであれば,ウイルス検出時(潜伏期)から発症までの期間に相当する期間にアビガンを予防内服することが曝露後予防となる。

日本紅斑熱やライム病であれば細菌感染症なので,テトラサイクリン系抗菌薬で治療を行う。

ハンタウイルス肺症候群

ネズミ等のハンタウイルスをもつげっ歯類やその排泄物・汚染物に接触するか,ハンタウイルス肺症候群感染者・発症者と接触し,感染が疑われる場合には,潜伏期間の1~5週間(通常約2週間)は,朝と晩に検温して,発熱や咳等の呼吸器症状があれば,医療機関の受診を勧める。

そのほかのウイルス感染症

エボラ出血熱では致死率が高く,また,接触機会が明確であったので,曝露後予防としてアビガン10日間服薬が実施された10)。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症では,曝露後予防として72時間以内に28日間の抗HIV薬服用により,針刺しで注入される約1μLの血液が体内に入るので,血清中の感染性ウイルスと感染リンパ球等による感染も阻止されている11)

以上,ウイルス感染においては,自然免疫による抗ウイルス活性を示す前駆期が,抗ウイルス薬の至適投与時期であることを解説した。

【文献】

1) Gilchrest B, et al:Pediatrics. 1974;54(2):136-8.

2) Shiraki K, et al:Pharmacol Ther. 2022;235:108121. 

3) Shiraki K, et al:Viruses. 2021;13(8):1547. 

4) Suga S, et al:Arch Dis Child. 1993;69(6):639-42;discussion 642-3.

5) Patel R, et al:Int J STD AIDS. 2017;28(14):1366-79.

6) Patel R, et al:Int J STD AIDS. 2015;26(11):763-76.

7) 白木公康:医事新報. 2021;5064:56-7.
https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_17158

8) Shinkai M, et al:Infect Dis Ther. 2021;10(4):2489-509. 

9) Dworkin RH, et al:Clin Infect Dis. 2007;44 Suppl 1:S1-26.

10) Jacobs M, et al:Lancet Infect Dis. 2015;15(11):1300-4.

11) Allan-Blitz LT, et al:Clin Infect Dis. 2026;82(1):21-4.


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