クルーズ船でのハンタウイルス肺症候群の集団感染が注目される中で,日本からアビガン®が英国に提供されるというニュースが流れた。そこで,本稿ではアビガン®についてまとめてみる。
エボラ出血熱の針刺しでの感染を阻止した薬剤はアビガン®のみ
日本では,アビガン®(ファビピラビル)はインフルエンザ薬として条件つき承認となっていた(図1)。2014年の西アフリカでのエボラ出血熱(以下,エボラ)の流行の際に欧州諸国はその対応に参加していたが,エボラ患者への対策として,医療関係者は感染防御服等に加えて,アビガン®を曝露後予防に携行していた。日本では知られていなかったが,アビガン®が曝露後予防に有効とされていたため,携行していたようだ。その際,エボラ患者に針刺しをした2名の医療関係者と他の6名の濃厚接触者は,アビガン®で感染が阻止された1)。エボラウイルスは皮膚に接触しただけで感染するため,針刺しでは確実に感染するとされたが,アビガン®の曝露後予防の有効性から,同薬への信頼度は高かった。エボラウイルス感染患者の針刺しで死を覚悟して,祈るような気持ちでアビガン®を服薬する医療関係者の心情は,臨床現場で働く医師なら理解できると思う。

この欧州の方々の経験が,今回の英国からのハンタウイルス肺症候群対策でのアビガン®提供要望につながったと思われる。
抗RNAウイルス薬アビガン®の特徴と作用機序
アビガン®はRNA依存性RNA合成酵素のヌクレオチドの取り込み口をブロックすることにより,ウイルスRNAの合成が停止する。そして,細胞内のウイルスRNAと体内のRNA負荷(ウイルス量)を軽減はアビガンだけである。その結果,細胞内外のウイルスRNAはtoll like receptor(TLR)-3,7,8,9に認識されずに,シグナル伝達やサイトカイン産生を阻止し,重症化の抑制につながる2)3)。
アビガン®は抗RNAウイルス薬として,「広い抗ウイルススペクトルを持つ」「耐性ウイルスを生じない」「ウイルスが複製できなくなることで,ウイルス量が軽減する」「細胞内と細胞外へ放出されるRNAの劇的削減によりサイトカイン産生を抑制する」という特徴により,ウイルスによる臓器傷害とRNAウイルスに特徴的なサイトカインストーム(コラム参照)を抑制するため,致死性RNAウイルス感染症に対しての「切り札」とされる。
西アフリカでのエボラ流行時のアビガン®使用
2014年の西アフリカでのエボラ流行の前に,感染マウスでのアビガン®の有効性が示されていたので,アビガン®が治療薬候補となった4)5)。世界保健機関(WHO)での薬剤の使用に関する会議で,薬効を確認できるプラセボ対照試験が提案された。筆者と旧知の間柄である抗ウイルス薬専門家の米国アラバマ大のWhitley博士がプラセボ対照試験の実施を強く押したようだ。そして,「プラセボでは30%が死亡する」と「アビガン®なら生き残る」という感染マウスでの結果をふまえた上で,どちらを選択するか,くじで決めることになった。しかし,西アフリカ諸国の保健大臣達は「自国民にはプラセボは使わない」と主張したので,プラセボを使わないで,体制が整うまでの患者群と,体制が整ってアビガン®で治療した群を比較して,効果を判定することになった。「自国民を1人でも多く救いたい」という西アフリカ諸国の希望に沿った形となった。
エボラ患者の針刺しに対するアビガン®の曝露後予防は,その有効性を実感するには充分であった1)。JIKIスタディは,交通機関もなく停電が頻繁にある地域で実施され,PCR検査はCt値で評価するなど,困難な環境であったようである6)。また,論文に発症日等の詳細がないように,現地の患者から発症日や症状の聞き取りを行うのも難しかったようである。子どもは除外することを想定していたが,子ども連れの家族が来たら,親だけを対象にすることもできず,子どもも対象にしたようである。JIKIスタディの位置づけは,次回の流行で生かせるように,有効性を確認するための経験としたようである。
中国はシエラレオネ・中国友好病院で試験を実施して,アビガン®治療群の全生存率は対照群よりも有意に高かった〔56.4%(22/39) vs. 35.3%(30/85),P=0.027〕と報告した7)。
なお,この流行後,精巣にウイルスが残り,次の感染源になることが確認された8)。
JIKIスタディのグループはこの経験を生かして,次の流行の際はアビガン®の有効性のエビデンスをつくる予定とした。2016年にスペインの抗ウイルス薬学会にて,WHOフランス代表でエボラ担当のKieny博士は筆者と話す中で,「次の流行があれば,アビガン®のエビデンスをつくることだ」と言っていたのを覚えている。Kieny博士は専門であるエボラワクチンの治験に参加して,エボラの流行は終わった。
2018年にはコンゴ民主共和国でエボラの流行があった。筆者は,アビガン®のエボラに対する有効性を示すエビデンスを確認できると思った。そこで,アビガン®をWHOに備蓄し,WHOの判断でアビガン®が使用できる体制になるよう,働きかけた。また,現地からアビガン®の要望があると聞いたので,内閣官房にアビガン®提供を依頼した。繰り返しになるが,致死性RNAウイルス感染症はウイルスの臓器傷害とRNAによるコロナワクチンのRNAの1週間連続接種のようなサイトカイン症状・サイトカインストームが伴うことで重症となる。アビガン®は単にウイルスRNA合成を阻害する薬剤ではなく,細胞内と細胞外のRNA量を減らし,サイトカインストームも予防・治療する「切り札」の薬剤である。アビガン®はエボラ感染動物での有効性が示され,2例で針刺しの曝露後予防でエボラへの薬効が確認され,シオラレオネでは有意の治療効果が示された。エボラへの薬効を経験して,臨床的有効性試験を計画した現地の医療関係者からの要望に,その真価を知らない感染症専門家の判断があったためか,アビガン®が現地に送られることはなかった。他の選択肢がない薬剤の求めに,送付しない決定は人道上の問題だと思った。その結果,当然,世界的にはエボラの治療薬候補から脱落した。
コンゴ民主共和国での流行では,抗体製剤とレムデシビルが使われた。エボラに回復期血清が有効であることから予想されていたように,抗体製剤の有効性は示された9)。
エボラ治療で重要なことは,流行株により抗原性の差が大きく,ワクチンと抗体製剤は流行株に特異的なので,すべての流行で使用できるとは限らない,ということである。2026年6月現在のコンゴ民主共和国およびウガンダでのエボラ流行で検出されているブンディブギョウイルスには,これまでのワクチンや抗体製剤は有効ではないようだ。しかし,抗ウイルス薬アビガン®は,流行株に関係なく有効で,株に対応したワクチンや抗体製剤が準備できるまでは,患者には治療薬として,医療関係者には曝露後予防として,使うことができる。
わが国では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療でもアビガン®を承認
2024年6月にアビガン®は重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)の治療薬として承認を得た。
動物実験では,アビガン®はSFTS感染マウスに対して150mg/kgと300mg/kgの投与で有効であった(なお,インフルエンザ感染マウスに対して100mg/kgと200mg/kgの投与で有効であった)。そして,その後,ヒトでのSFTSの臨床試験が行われ,有効性が確認され10~14),SFTSの治療薬として承認されたという次第である。
ハンタウイルス肺症候群感染動物に対するアビガン®の有効性
米国ユタ州立大のGowen博士らのグループは,動物のハンタウイルス肺症候群15)やSFTS11)などへの感染実験でアビガン®が有効であることを示してきた。ハンタウイルス肺症候群感染ハムスターの実験では,致死性感染症である同疾患において,アビガン®100mg/kgを投与し,全例生存させた。
これまでの動物実験では,エボラウイルス,SFTS,インフルエンザの感染マウスに対して,アビガン®100~200mg/kgを投与し,すべてにおいて有効性が示された1)12~14) 16)。
アビガン®は,ハンタウイルス肺症候群の動物での投与量の有効性から,ヒトでの臨床効果も期待できると思われる。
「アビガン®は切り札」の意味
2010年,アビガン®のインフルエンザ臨床試験時に,マスコミの方々がアビガン®の生殖毒性について取材に来られた。その際,アビガン®の説明の前に,以下の質問に答えてもらった。
「女性なら本人が,男性なら奥さんが,妊娠しています。新型インフルエンザ(H5型)に罹ると3人に1人は死亡します。動物実験から,アビガン®で助かる可能性はあるが,胎児障害の可能性があるという設定で,『アビガン®を服薬せず,3分の1の死』か『アビガン®を服薬しての生』,どちらを選びますか?」
すると,皆さん考え込んでいたが,全員が「アビガン®を服薬しての生」を選んだ。「胎児障害(の可能性について)は?」と聞くと,「妊婦が生きていないと,子どもも生まれない」とのことであった。そして,次のように答えてくれた。
「アビガン®は,生きるか死ぬかという感染症に使う『切り札』です。これまでに取材した専門家達はこのような薬だとは教えてくれませんでした」
「踊る大捜査線」の青島刑事の「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」のセリフのように,アビガン®の生殖毒性を「会議室」で考える薬ではなく,感染者の1/3が死ぬ感染症で,生きるか死ぬかを診察室という究極の「現場」で判断する「切り札」の薬である,と納得されたようであった。
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アビガン®は,エボラには針刺しを含む濃厚接触に有効であり1),ハンタウイルス肺症候群には動物実験で有効であった15)。2026年6月現在,コンゴ民主共和国およびウガンダで,エボラが流行している。ワクチンと抗体製剤はエボラに有効ではあるが,流行株の抗原性に対応できるまでには数カ月はかかる。今回の流行では,この血清型で困っている。一方,アビガン®は血清型に関係なく,即座に,患者には治療薬として,医関係者には曝露後予防として使える。前述した,2018年のコンゴ民主共和国での流行時,現地からのアビガン®の要望に対応していたら,アビガン®がエボラ治療薬から脱落することはなかったと思っている。そして,「ハンタウイルス肺症候群対策として,アビガン®を英国に提供」と「エボラ対策として,アビガン®をコンゴに提供」というニュースが,同時に発信されていたかもしれない。
今回,ハンタウイルス肺症候群への対策のため,アビガン®が英国に提供されるということだが,もちろん,使われなくてすむのであれば,それに越したことはない。
コラム RNAによるサイトカイン症状
エボラなどのウイルスによる臓器傷害には,RNAによる臓器の強い炎症とサイトカイン症状(サイトカインストーム)が関係している。実はこの症状は,多くの人がコロナワクチン接種後の発熱や倦怠感として,すでに経験している。
皆さんはコロナワクチンが30μgまたは100μgのmRNAからできていることはご存じだと思う。このワクチンが三角筋に注入されると,ワクチン内のリポソーム成分より,大量のRNAがTLR-3,7,8,9を介してサイトカインを産生する。すると,局所では筋肉の腫脹と疼痛と熱感が発生し,全身反応としては発熱や倦怠感等が4日間ほど続く。マウスの大腿にワクチンを注入した場合には,2時間で血液,脂肪組織,肝臓等にリポソーム(RNA)が確認され,その後,全身の組織に分布する17)。ヒトの三角筋にワクチンを注入した場合,静脈を介して心臓→肺→心臓→全身の順にリポソーム(RNA)が分布する。内臓での炎症がある場合も,三角筋の腫脹と同じく,接種後4日まで発症すると考えられる,とある18)。また,ワクチン後の剖検例では,ワクチンと死因は関連しない症例が多かったが,サイトカインストームによる全身の臓器の炎症が認められた症例があったようだ19)20)。
以上から,ワクチン中のRNAが,局所や全身の細胞外のRNAによるサイトカインを誘導して,サイトカインによる炎症症状を経験していると考えれば,致死性RNAウイルス感染症で,感染細胞内のRNAが誘導したサイトカインと,細胞外のRNAによるサイトカインの症状が重なり,重症なサイトカインストームを起こすことが理解できると思う。コロナワクチンによる反応は1回の投与によるものであるが,重症RNA感染症では,感染細胞から病期の間,放出されたウイルスRNAによるコロナワクチンの症状を呈し,エボラでは感染肝臓細胞で,COVID-19では肺でウイルスを産生し,それぞれ,肝炎と肺炎を起こすが,これに細胞内ウイルスRNAによるサイトカインにより,感染細胞周辺の炎症は強く,肝炎や肺炎は重症肺炎や重症肺炎となる。感染細胞でのウイルス増殖は1週間以上続くので,毎日コロナワクチン接種しているように,サイトカインによる炎症症状は続く。
年齢の高い医師であれば,全身感染症である麻疹や水痘の患者を診たことがあるだろうが,RNAウイルスである麻疹では高熱と重症感が出るが,DNAウイルスである水痘では必ずしも高熱は出ない。また,帯状疱疹はDNAウイルスの増殖によるが,必ずしも発熱は起きない。このように,RNAウイルスのサイトカインは,病原性に大きく関わっている。
以上から,致死性RNAウイルス感染症では,ウイルス増殖とサイトカイン産生による強い臓器傷害と感染細胞内のRNAによるサイトカイン誘導と,コロナワクチンで経験した全身性の細胞外のRNAによるサイトカイン誘導での症状をイメージして頂きたい。そうすると,アビガン®がRNA量(ウイルス量)を減少させるという意義と,アビガン®が,ウイルスの増殖抑制によって細胞内のRNA量と感染細胞から全身に放出されるウイルスRNAをともに減少させることで,RNAによるサイトカイン誘導による症状や病態の軽減に有効であり,それがアビガンの致死性RNAウイルス感染症に必須であるという真価も理解して頂けると思う。
【文献】
1) Jacobs M, et al:Lancet Infect Dis. 2015;15(11):1300-4.
2) Shiraki K, et al:Pharmacol Ther. 2020;209:107512.
3) Shiraki K, et al:Pharmacol Ther. 2022;235:108121.
4) Smither SJ, et al:Antiviral Res. 2014;104:153-5.
5) Oestereich L, et al:Antiviral Res. 2014;105:17-21.
6) Sissoko D, et al:PLoS Med. 2016;13(3):e1001967.
7) Bai CQ, et al:Clin Infect Dis. 2016;63(10):1288-94.
8) PREVAIL Ⅲ Study Group:N Engl J Med. 2019;380(10):924-34.
9) Mulangu S, et al:N Engl J Med. 2019;381(24):2293-303.
10) Tani H, et al:mSphere. 2016;1(1):e00061-15.
11) Gowen BB, et al:J Virol. 2017;91(3):e01942-16.
12) Furuta Y, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2002;46(4):977-81.
13) Suemori K, et al:PLoS Negl Trop Dis. 2021;15(2):e0009103.
14) 厚生労働省医薬食品局審査管理課:Report on the Deliberation Results (Avigan Tablet 200 mg). 2014.
https://www.pmda.go.jp/files/000210319.pdf
15) Safronetz D, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2013;57(10):4673-80.
16) Hayden FG, et al:J Infect Dis. 2022;226(10):1790-9.
17) Yang R, et al:Signal Transduct Target Ther. 2021;6(1):213.
18) 厚生労働省:新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について. 2022.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000973390.pdf
19) Murata K, et al:Front Immunol. 2022;13:967226.
20) Nushida H, et al:Leg Med (Tokyo). 2023;63:102244.