クルーズ船でのハンタウイルス肺症候群の集団感染が注目される中で,日本からアビガンⓇが英国に提供されるというニュースが流れた。そこで,本連載ではアビガンⓇについてまとめてみる。
<連載>
第1回:ハンタウイルス肺症候群対策として,アビガンⓇを英国に提供
第2回:アビガンⓇが新型(鳥)インフルエンザに必要な理由
抗RNAウイルス薬アビガンⓇの作用機序と特徴
アビガンⓇの作用機序
アビガンⓇは細胞に取り込まれると,リボースとリン酸が付加され,三リン酸体となる。ヌクレオチドは,ウイルスのRNA依存性RNA合成酵素(RdRp)を介して,RNAに取り込まれる。しかし,アビガンⓇの三リン酸はヌクレオチド部分が大きいので,RdRpの取り込み口をブロックして,RNA鎖の合成を停止する1)2)。そのため,RNA鎖は伸長しないで,短いRNAで停止する。このように,アビガンⓇはRNA鎖に取り込まれないので,新たなウイルスRNAの合成を阻止し,細胞内のRNA負荷(viral load)を軽減し,体内での感染拡大も阻止する。
RNAウイルス感染によるサイトカイン誘導
RNAウイルスに感染すると,細胞内で合成されたウイルスRNAは,toll-like receptor(TLR)-3,7,8に認識され,シグナル伝達が行われて,多種のサイトカイン類を産生する。そして,細胞外に放出されたウイルスは,TLR-3,7,8,9を有する細胞により,ウイルスRNAが認識され,NF-Bを活性化してサイトカイン産生を行う1~4)。このように,RNAウイルス感染は,細胞内と細胞外でTLRを介してサイトカインを誘導し,発熱と強い炎症反応を起こさせる。
致死性RNAウイルス感染症では,免疫ができるまではウイルスの増殖と感染の広がりにより,臓器傷害が発生し,RNA負荷(viral load)も大きくなる。そして,サイトカインの制御ができない“サイトカインストーム”と呼ばれる重篤な病態を誘導し,重症肺炎による呼吸困難も発症し,死亡率も高くなる。
一方,単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV)感染細胞では,このような強力なサイトカイン誘導はみられない。しかし,インフルエンザウイルスに感染したP388D1細胞内と細胞外では,RNAによりサイトカインが誘導される5)6)。なお,アビガンⓇは,オセルタミビルよりも,TNF-α産生,ならびに,感染マウスの気管支洗浄液中のTNF-α,IL-1α,IL-6を有意に抑制した7)。
リバビリンとの比較
抗RNAウイルスRdRp阻害薬リバビリンはRNA鎖に取り込まれることによって,相補鎖合成時にミスマッチ・読み間違いが起きる。これにより,ウイルスが増殖できない致死的変異(lethal mutagenesis)となり,ウイルス増殖を阻止する。リバビリンはRNA合成を許して,ウイルスの広がりを阻止する。一方,アビガンⓇはRNA合成を許さず,ウイルスの広がりを阻止する。リバビリンもアビガンⓇも致死性RNAウイルス感染動物で同様の治療効果が期待されたが,アビガンⓇはリバビリンに比べ,圧倒的な有効性を示した。
アビガンⓇの特徴
アビガンⓇはRNA合成を阻止することでRNA負荷(viral load)を軽減するため,致死性RNAウイルス感染症,つまり,新型インフルエンザ,エボラ出血熱,重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS),ハンタウイルス肺症候群で有効性を示した8~11)。致死性RNAウイルス感染症では体内で免疫ができるまで,ウイルス増殖と感染拡大が続くことにより臓器障害を起こし,細胞内と細胞外でのウイルスRNAによるサイトカイン産生・サイトカインストームにより重症化する。しかし,アビガンⓇによる治療では,アビガンⓇが感染細胞内でRNA合成を阻止することで感染の拡大を阻止し,細胞内と細胞外のウイルスRNA負荷(viral load)を軽減し,TLRのシグナル伝達やサイトカイン産生・サイトカインストームを阻止するため,重症化の抑制につながる1)2)。
抗RNAウイルス薬アビガンⓇは,「抗ウイルススペクトルが広いこと」「耐性ウイルスを生じないこと」「ウイルスRNA合成を阻止することによるRNA負荷(viral load)軽減」「サイトカイン産生抑制」という特徴を持つので,致死性RNAウイルス感染症の「切り札」とされる。
なぜ新型インフルエンザにアビガンⓇが必要なのか?
新型インフルエンザと他の致死性RNAウイルス感染症との比較
新型インフルエンザでは,他の致死性RNAウイルス感染症との共通点として,「誰も免疫を有していないため,免疫ができるまでの体内での増殖時間が長くなることによる感染の広がりと臓器傷害」「抗ウイルス薬投与下での,増殖に伴う耐性ウイルスの出現」「ウイルスRNAによるサイトカイン産生・サイトカインストーム」が挙げられる。異なる点として,「人に適応すると短期間で大流行を起こすこと」が挙げられる。
耐性ウイルスの出現
ちなみに,小児では季節性インフルエンザに対して十分に免疫がないので,インフルエンザウイルスの体内での増殖期間が長く,オセルタミビル治療開始から5日後までに18%に耐性ウイルスが検出されている12)。ただし,季節性インフルエンザでは5日間無治療でも,ウイルス増殖はあるが,症状自体は落ちつく。「耐性ウイルスは流行するのか?」という疑問があるが,2013/14シーズンには北海道でオセルタミビル耐性A(H1N1)pdm09型ウイルスが流行した。なお,ウイルスが変異しても,ヘマグルチニン(HA)の増殖能と病原性には大きく影響しない。したがって,新型インフルエンザでオセルタミビル耐性ウイルスが出現すれば,病原性を損なうことなく,流行を起こすことが想定される。
2013年3月末から中国で流行した鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染者139名中137名が入院し,125名が肺炎または呼吸不全を呈し,そのうち103名中65名がICUにて治療を受けた。47名(34%)が,発症から21日後(中央値)に死亡した13)。発症からオセルタミビル治療開始,ならびに発症から急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)発症までの期間は6~7日(中央値)であった。したがって,わが国に新型インフルエンザが持ち込まれた場合には,季節性インフルエンザとは異なり,体内での増殖期間は10日以上のため,前述の小児例をふまえると,体内で増殖中のウイルスからオセルタミビル耐性ウイルスが出現することは避けがたいと思われる。
アビガンⓇの「耐性ウイルスを生じないこと」という特徴は,個人レベルでは,耐性ウイルス増殖による肺炎等の再燃が起こらないことを意味する。また,社会レベルでは,インフルエンザ流行の始まりから終わりまで,アビガンⓇの有効性が保持されることを意味する。
ウイルスが産生する細胞内RNAと細胞外のウイルスRNAが,TLRを介してサイトカインを誘導して,感染による肺炎を重症化させる。細胞内と細胞外でウイルスRNAとTLRを介したサイトカイン産生とサイトカインストーム,ならびにウイルス増殖に伴う直接の臓器障害などを起こし,全身症状を重症化させる。オセルタミビルはウイルスの感染拡大を阻害するため感染は広げないが,ウイルスRNA合成自体は阻害しないので,体内の感染細胞ではウイルスRNAがつくられ,また,新しく産生されたウイルスも感染細胞表面にとどまる。このように,オセルタミビルでは,アビガンⓇのように,サイトカイン産生に関わる体内の総RNAを減らすことができない。一方,アビガンⓇはウイルスRNA合成自体を阻止するので,上記の症状の軽減が期待できる。
以上のことから,アビガンⓇは致死性新型インフルエンザにおいてもその薬効が発揮できるので,抗インフルエンザ薬として国内に備蓄されているわけである*。
*:コロナウイルスは2本鎖RNAで,RdRpに対して校正酵素を有する。そのため,コロナウイルスに対して標準的なRNAウイルス阻害薬では,RNAに取り込まれても校正酵素で除去されるので,効果がない。なお,アビガンⓇは,RNAウイルス(通常のインフルエンザウイルス以外)では,高い薬物濃度が必要となる。
最後に
新型インフルエンザでもアビガンⓇの早期投与を
新型インフルエンザでは誰も免疫を有していないので,体内で増殖期間が10日ほど続くことにより,下気道・肺での合併症発症は避けがたく,死亡率も30%近いと考えられる。また,抗インフルエンザ薬での治療中に体内で耐性ウイルスに置き換わり,再増殖する可能性もある。そのため,新型インフルエンザ対策には,前述した通り,「抗ウイルススペクトルが広いこと」「耐性ウイルスを生じないこと」「ウイルスRNA合成を阻止することによるRNA負荷(viral load)軽減」「サイトカイン産生抑制」などの好ましい特徴を持つアビガンⓇが必須であると思う。
なお,健康成人におけるインフルエンザの前駆期は,自然免疫(innate immunity)に誘導されたサイトカインによる発熱から始まる。発熱は,生体とウイルスとの闘いの始まりなので,この時期(早期)から抗ウイルス薬を服薬することで,ウイルス増殖と体内での感染拡大を抑えて,RNA負荷(viral load)を軽減し,耐性ウイルス出現のリスクを低下させることが望ましい(総ウイルス量が少なければ,耐性ウイルスが生じる確率も低下させることができる)。
新型インフルエンザにおいて妊婦へのアビガンⓇ投与は?
なお,アビガンⓇは生殖毒性があるので,妊婦と妊娠の可能性のある女性には禁忌である。「新型インフルエンザで,妊婦あるいは妊娠の可能性のある女性へのアビガンⓇ投与はどうしたらよいか?」への回答としては,「不要である」となる。
妊婦の場合,家庭内のインフルエンザ患者と濃厚接触することで,感染する。濃厚接触日の1~2日後から,抗体や細胞性免疫が誘導できるまで,妊婦でも使用できるオセルタミビルの予防内服を続ける(使用後に抗体上昇を確認する)。自然免疫(innate immunity)期から,感染拡大を防ぐ能力が強くなり,生体の防御機構も働く。そのため,オセルタミビル服薬期間が長くなっても,感染領域は上気道に限られており,増殖ウイルス量も少ないので,不顕性感染で感染免疫を獲得する。また,耐性ウイルスが出現する可能性は低くなる。不顕性感染で感染免疫を獲得する。そして,妊婦に獲得免疫・液性免疫ができれば,胎盤を通して移行抗体が胎児に,出産後には母乳を通してIgA抗体が新生児に付与される。
自然免疫(innate immunity)の重要性とアビガンⓇの生殖毒性と催奇性については,連載第4回で詳述する。
コラム アビガンⓇの耐性ウイルスができない理由
アビガンⓇは,RdRpのヌクレオチド取り込み部位に作用する。アビガンⓇは構造が大きいため,ヌクレオチドの取り込み口を塞ぐ(いわば「通せん坊」をする)ことでRNA合成を阻害する。
実際に,インフルエンザウイルスおよびポリオウイルスをさまざまな条件下で長期間培養し,耐性ウイルスの分離が試みられたが,遺伝子変異は認められたものの,いずれもアビガンⓇに対する感受性は維持されていた14)15)。また,インフルエンザウイルスについてはアビガンⓇ耐性変異が報告されているものの,単独で十分な増殖能を有する耐性ウイルスは示されていない16)。さらに,インフルエンザ患者において,アビガンⓇ投与前後のウイルス感受性に変化は認められていない17)。
以上より,アビガンⓇはRdRpの機能維持に不可欠な部位に作用するため,この部位に耐性変異が生じるとRdRp活性そのものが失われ,ウイルスは十分に増殖できなくなる。そのため,臨床的に意味のあるアビガンⓇ耐性ウイルスは出現しにくいと考えられている。
【文献】
1) Shiraki K, et al:Pharmacol Ther. 2022;235:108121.
2) Shiraki K, et al:Pharmacol Ther. 2020;209:107512.
3) Kiso M, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107(2):882-7.
4) Sidwell RW, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2007;51(3):845-51.
5) Kurokawa M, et al:J Med Virol. 1996;50(2):152-8.
6) Kurokawa M, et al:Antiviral Res. 2010;85(2):373-80.
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8) Oestereich L, et al:Antiviral Res. 2014;105:17-21.
9) Gowen BB, et al:J Virol. 2017;91(3):e01942-16.
10) Tani H, et al:mSphere. 2016;1(1):e00061-15.
11) Safronetz D, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2013;57(10):4673-80.
12) Kiso M, et al:Lancet. 2004;364(9436):759-65.
13) Li Q, et al:N Engl J Med. 2014;370(6):520-32.
14) Daikoku T, et al:J Microbiol Immunol Infect. 2018;51(5):581-6.
15) Daikoku T, et al: J Pharmacol Sci. 2014;126(3):281-4.
16) Goldhill DH, et al:Proc Natl Acad Sci U S A. 2018;115(45):11613-8.
17) Takashita E, et al:Antiviral Res. 2016;132:170-7.