
❶ 逆流性食道炎・非びらん性胃食道逆流症の概要
胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は,胃酸を含む胃内容物が食道内へ逆流することにより,胸やけや呑酸などの症状を呈する疾患である。GERDのうち,内視鏡で食道粘膜にびらんや潰瘍などの粘膜傷害を認める場合を逆流性食道炎と呼び,粘膜傷害を伴わないものは非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)に分類される(図1)。

近年,わが国においてもGERD患者は増加しており,有病率は約10%と推定される。特にNERDがGERD全体の半数以上を占めるとされる。
逆流性食道炎の発症における代表的なリスク因子としては,男性,食道裂孔ヘルニア,肥満などが知られている。一方NERDは,逆流性食道炎とは必ずしも同一の病態ではなく,女性に多いこと,食道裂孔ヘルニアの頻度が低いこと,むしろ低体重者に多いことなどが特徴とされる。NERDでは,逆流が近位食道にまで到達することが症状出現に関与する。さらにプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)抵抗性NERDでは,酸逆流だけでなく非酸逆流や近位食道への逆流が症状と強く関連することが示されている1)。
GERDは消化器症状にとどまらず,狭心症などの虚血性心疾患と鑑別を要する胸痛の原因となる場合がある。また,咽喉頭への逆流による慢性咳嗽などの呼吸器症状を呈することもあり,診断時には幅広い視点が求められる。GERDが及ぼす影響を図2に示す。

❷ 逆流性食道炎の内視鏡分類
ここでは逆流性食道炎の内視鏡所見(ロサンゼルス分類)についておさらいする。ロサンゼルス分類は,1994年にロサンゼルスで開催された世界消化器病学会で紹介された逆流性食道炎の内視鏡分類である。ロサンゼルス分類では,内視鏡的に観察される明らかな粘膜傷害の広がりの程度によりGrade分類される。粘膜傷害とは,「より正常に見える周囲粘膜と明確に区分される白苔ないし発赤を有する領域」と定義される。粘膜傷害の長さが5mm未満のGrade A,5mm以上のGrade B,粘膜傷害の融合を認めるが全周の75%未満のGrade C,75%以上のGrade Dに分類される。
わが国では,このロサンゼルス分類にGrade NおよびGrade Mを加えた改訂ロサンゼルス分類が標準的に用いられている(図3)2)。内視鏡写真を図4に示す。
Grade分類は酸の逆流の程度,治療の反応性,PPI維持療法中の再発リスクなどとの相関が示されている。



❸ 難治性GERDの病態生理
「酸が原因」とは限らない
GERDの治療は,PPIやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の登場によって大きく進歩し,多くの症例では酸分泌抑制療法によって症状改善が得られる。しかし実臨床では,一定数の患者で治療抵抗性が問題となる。これがいわゆる「難治性GERD」である。
「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)」では,
•PPI抵抗性GERD:標準量のPPIを8週間内服しても食道粘膜傷害が治癒しないand/or GERD由来と考えられる逆流症状が十分に改善しない状態
•P-CAB抵抗性GERD:ボノプラザン20mgを4~8週間内服しても食道粘膜傷害が治癒しないand/or GERD由来と考えられる逆流症状が十分に改善しない状態
と定義されている。
ここで重要なのは,難治例の多くが,単純に「酸が抑えきれていない状態」ではないという点である。特にNERDを中心とする症例では,症状の背景が多層的であり,酸逆流のみでは説明できないことが少なくない。
NERDは主に以下の3つのタイプにわかれる(図5)。

①過剰な食道内酸曝露時間を有する:胃酸の逆流が関与
②食道の感受性亢進により逆流症状がみられる逆流過敏性食道(弱酸性逆流)
③逆流とは無関係に症状がみられる(機能性胸やけ)
特にNERDでは,粘膜傷害が乏しい一方で症状が強く,知覚過敏や心理的要因が関与するケースも多いとされる。したがって難治例に対しては,酸分泌抑制薬を漫然と増量するのではなく,症状の背景を整理しながら病態を見きわめる視点が不可欠となる。
・逆流過敏性食道(reflux hypersensitivity):少量の酸あるいは非酸性のGERにより症状が誘発される。
・酸曝露:病的な胃酸逆流(酸曝露の増加)により症状が出現する。
・知覚過敏:逆流との関連を認めず,食道知覚過敏が主因と考えられる。
※補足:酸曝露と知覚過敏の病態は明確に分離できるものではなく,一部でオーバーラップする。
❹ 外来対応の思考プロセス
難治性GERD診療では,ガイドラインが推奨する食道インピーダンス・pH検査などの精密検査は重要である。しかし,一般外来では必ずしも実施可能とは限らない。検査設備の限られた診療所や中小病院においては,「次に何を考え,どう動くか」という思考プロセスこそが診療の質を左右する。
外来で難治例を診る際には,以下のStep 0~3で整理すると実践的である。Step 0は治療全体を通じて並行して実践し,Step 1以降は順に進めていくことを前提とした構成である。
Step 1:本当に治療抵抗性かを見きわめる
Step 2:GERD以外の疾患を除外する
Step 3:酸か,酸以外かを切りわける
▶Step 0は治療全体を通じて並行して実践し,Step 1以降は順に進める。
(1) Step 0:生活習慣指導を並行して実践する
難治性GERDに対する外来対応では,生活習慣指導をすべての治療段階で並行して行うことが基本となる。薬物治療に加えて生活習慣指導を適切に組み合わせることで,症状改善が期待できる。ランダム化比較試験では,肥満者に対する減量,喫煙者への禁煙指導,夜間症状のある患者に対する遅い夕食の回避,就寝時の頭位挙上が有効とされている4)。また前向きコホート研究では,睡眠中の体位を詳細に解析した結果,右側臥位や仰臥位に比べて,左側臥位では食道の酸曝露時間が有意に短縮することが示されている5)。
•喫煙者への禁煙指導
•夜間症状のある患者に対する遅い夕食の回避
•就寝時の頭位挙上
•睡眠中の左側臥位
(2) Step 1:本当に治療抵抗性かを見きわめる
まず確認すべきは,薬剤が適切に使用されているかどうかである。外来で「PPIが効かない」と訴える患者の中には,内服タイミングや服薬状況の問題により,十分な治療効果が得られていない例が少なくない。さらに,服薬方法を一工夫することが有効な場合もある。
PPI抵抗性症例では,まず服薬方法を再確認する。PPIは食後に活性化されるプロトンポンプを標的とするため,食前投与が有効となる。加えて半減期が短いため,倍量1回投与よりも2回分割投与で血中濃度を維持することが有効な場合がある6)。また,重症例では,初期治療としてP-CABの4週間投与が第一選択として提案されている。
この段階では,薬剤を変更・追加する前に,服薬方法,投与期間,薬剤選択の妥当性を丁寧に見直すことが重要である。
•投与期間(PPIは8週,P-CABは4週)
•服薬のタイミング
•重症度に応じた薬剤選択

