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FOCUS:「諦めない・止めない」2型糖尿病合併CKD G4–5期治療

登録日: 2026.03.27 最終更新日: 2026.04.09

山内真之 (虎の門病院腎センター内科医長)

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虎の門病院腎センター内科医長
山内真之
2004年京都府立医科大学医学部卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院にて公衆衛生学修士号取得後,ジョスリン糖尿病センター研究員,金沢大学大学院(医学博士)を経て2021年より現職。糖尿病合併CKDの診療・学術活動を行っている。
私が伝えたいこと
◉G4-5期は「終わり」ではなく,腎・心血管イベントや死亡リスクが最も高まる「最後の介入チャンス」のステージであり,この時期の治療がその後の透析予後や生命予後を左右する。
◉RCTの適格基準の制約ゆえにG4-5期の一次エビデンスは乏しい。しかし,RCTの事後解析,系統的レビュー/メタ解析,RWDを統合すると,RAS阻害薬,SGLT2阻害薬,非ステロイド型MR拮抗薬,GLP-1受容体作動薬は,いずれも「G4-5期だから一律に諦める薬剤ではない」ということが見えてくる。
◉eGFRが30や15を下回ったという数値だけを理由とした機械的中止や新規導入の躊躇を支持するデータはない。安全性(高カリウム血症,低血圧,栄養障害など)が担保される限り,原則は継続を軸にしつつ,必要に応じて新規導入も検討すべきである。
◉「G4-5期だから,もう仕方ない」と治療をゆるめるのではなく,血清K値,血圧,栄養状態などを総合的に評価しながら,これらの薬剤を基盤に,「どこまで攻めるか/どこで引くか」を患者とともに決めていく「諦めない・止めない」治療戦略を実践したい。

❶ はじめに

G4-5期(eGFR<30mL/分/1.73m2)の慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD),とりわけ2型糖尿病合併CKDでは,腎・心血管イベントの発生率が高く,死亡リスクも上昇している12。この残存リスクをいかに減らすかが臨床上の課題である。

一方で,eGFR<30mL/分/1.73m2(以下,単位は省略)を広く含む心腎保護薬の無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)は限られ,ガイドラインの推奨には空白が残る3)~7。では,「推奨が薄い=導入をためらう/中止する」べきなのだろうか。

本稿では,このエビデンスの薄い領域で臨床医がどのように治療戦略を組むべきかを,

①RCTの事後解析・サブ解析

②系統的レビュー/メタ解析

③リアルワールドデータ(real-world data:RWD)

という3つの情報源を横断的に読み解き,提示する。

❷ G4-5期の現状と課題:疫学とエビデンスの空白

(1) イベントリスクの高さ

わが国の「糖尿病性腎症病期分類2023」において,第4期はCKD G4-5期に相当する8。Furuichiらの報告1では,病期が進むにつれて腎・心血管イベントのみならず死亡も増加することが示されている。特に,G4-5期では,腎複合イベント(透析導入,血清Cr値の倍化,またはベースラインからのeGFRが50%以上低下)が,100人年当たり32件と高頻度である(11

加えて,海外コホートも含めた検討では,進行CKDにおいて心血管イベント,感染症,死亡のリスクが著明に増加することが繰り返し報告されており2,G4-5期は「腎だけでなく全身のイベント多発期」であることを念頭に置く必要がある。

(2) 心腎保護「四本柱」のエビデンス:現状と限界

2型糖尿病合併CKDでは,腎・心血管イベント抑制の「四本柱」(RAS阻害薬,SGLT2阻害薬,非ステロイド型MR拮抗薬,GLP-1受容体作動薬)が,複数のガイドラインで推奨されている(213)~7。しかし,いずれの薬剤もG4-5期を広く含むRCTは総じて限られており,「G4-5期にどこまで攻めてよいか」が臨床上の悩みとなっている。本項では,各薬剤の概要を整理し,詳細は各項目で述べる。

(1)RAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB)

古典的大規模RCT(RENAAL試験9,IDNT試験10)は,主にG2-3期を対象としており,G4-5期に関する直接のエビデンスは乏しい。一方,進行CKD患者を対象に,RAS阻害薬の中止と継続を比較したレジストリ研究や前向きコホート研究では11)~15,中止が全死亡,心血管イベント,腎代替療法(RRT)移行のリスク上昇と関連することが報告されている。さらに,STOP-ACEi試験16では,G4-5期でRAS阻害薬を中止してもeGFRの改善はみられず,むしろ腎代替療法への移行が多い傾向が示された。これらをふまえ,ガイドライン34は,「高カリウム血症などの安全性上の問題がなければ原則継続」を推奨している。

(2)SGLT2阻害薬

2型糖尿病合併CKDを対象あるいはCKDを対象に行われた主要RCTであるCREDENCE試験17,DAPA-CKD試験18,EMPA-KIDNEY試験19では,対象となる組み入れeGFR下限がそれぞれ,30,25,20と異なるが,いずれの試験でも腎複合アウトカムの改善やeGFRスロープの緩徐化が示されている。さらに,最新のメタ解析〔SGLT2 inhibitor meta-analysis cardio-renal trialists’ consortium (SMART-C)〕20では,eGFR<30を含むサブグループ解析でも腎アウトカムのベネフィットが一貫しており,G4期においてもリスク・ベネフィットのバランスは良好であると報告されている。

RWD解析も含め,eGFR<30の患者でもSGLT2阻害薬の腎・心血管保護効果が維持される可能性が高いと考えられる。

(3)非ステロイド型MR拮抗薬(フィネレノン)

FIDELIO-DKD試験21およびFIGARO-DKD試験22は,2型糖尿病合併CKDにおいてeGFR≧25を対象に,腎複合アウトカムおよび心血管複合アウトカムの低下を示した。G4期の症例数は限られるものの,FIDELITY統合解析23では低eGFR帯でも効果の方向性はおおむね一貫していたと報告されている。

心不全を対象としたFINEARTS-HF試験24でもeGFR<30の症例は少数ながら含まれており,腎機能低下例でも心不全アウトカム改善のシグナルが得られているが,G5期に特化した腎アウトカムのエビデンスは依然として限定的である。

(4)GLP-1受容体作動薬

大規模心血管アウトカム試験(CVOT)やメタ解析により25,GLP-1受容体作動薬は心血管イベントや全死亡を低下させるだけでなく,尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の進展抑制や腎複合アウトカムの抑制効果を有することが示されている。さらに,FLOW試験26では,2型糖尿病合併CKD(eGFR 25~75,UACR 300~5000)を対象に,週1回セマグルチド1.0mgを投与することが腎複合アウトカムとeGFRスロープを改善することが確認された。

一方で,G5期についてはRCTによる直接エビデンスが乏しく,ガイドラインでは腎機能に応じた減量は不要としつつも,低eGFR帯では嘔気・嘔吐,脱水,低血圧,低栄養・過度の体重減少などの有害事象管理を重視するよう求めている。

以上をふまえ,本稿では「G4-5期だからといって諦めて止める」のではなく,各薬剤クラスのRCT,系統的レビュー/メタ解析,RWDを総合的に評価し,「どこまで攻めてよいか/どこで引くべきか」を実践的に考察する。

関連コンテンツ 解きほぐすDKD治療薬〈現場での考え方と使い方〉:山内真之著,B5判,19頁。4つのDKD治療薬のエビデンスと処方例,注意点を整理し,実際の治療選択に役立つ視点を提供するコンテンツ。症例を通して,治療導入のタイミングや治療選択における筆者の治療戦略を紹介する。

❸ RAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB)

(1) G4-5期におけるガイドライン上の位置づけ

2型糖尿病合併CKDでは,アルブミン尿(A2/A3)がある場合には,ACE阻害薬またはARBを最大耐容量まで使用することが推奨されている3)〜7。eGFR低値そのものは禁忌ではなく,「高血圧+持続するアルブミン尿」が主な適応である。一方で,正常血圧かつアルブミン尿のない症例に対しては,RAS阻害薬をルーチンに開始すべきとするエビデンスは乏しく,必須ではないと整理されている。

開始・増量後は,2~4週ごとに血清Cr値と血清K値を再検することが推奨され,血清Cr値の上昇がベースライン比で30%以内であり,血清K値が許容範囲(おおむね<5.5mEq/L)であれば,継続や増量を検討するとされる。一方で,血清Cr値がベースライン比で30%以上上昇した場合や,対処困難な高カリウム血症が生じた場合には,減量や中止を含めた対応を行う。なお,ACE阻害薬とARBの併用は,有害事象増加のため禁忌とされている。

G4-5期についても,これらのガイドラインは「高血圧とアルブミン尿があれば,原則としてRAS阻害薬を継続し,認容できる範囲で最大耐容量をめざす」という立場を一貫しており,eGFRの低下を理由とした一律中止は推奨していない。

筆者のまとめ

G4期では,アルブミン尿(A2/A3)および高血圧があれば,導入・最大化を原則とする。G5期についても,ガイドラインでは「高カリウム血症や症候性低血圧がなければ継続」を基本としており,新規導入も,血圧,血清K値を慎重に評価した上で個別に検討する,というスタンスが妥当である。

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