
❶ 肺線維症(間質性肺炎)って何?
(1) 肺線維症(間質性肺炎)の概要
「間質性肺炎」「肺線維症」─聞き慣れない方も多いのではないだろうか? 間質性肺炎は,種々の炎症・線維化が肺の間質を中心に起こり,肺容積が減少して拘束性換気障害をきたし,最終的には呼吸不全へと進行しうる疾患群である。慢性経過のものと急性経過のものが存在し,多くは治癒が難しい難病である。急性経過のものは週単位で命に関わることもある。肺線維症(pulmonary fibrosis:PF)とは,間質性肺炎のうち主たる病変が線維化である場合に使用される。また,間質性肺炎(肺線維症)のうち臨床的に原因不明のものを特発性と,何かしらの原因が同定できるものを二次性と言い,二次性には膠原病合併間質性肺疾患,過敏性肺炎,じん肺,薬剤性肺障害などが含まれる(図1)1)。以上をまとめると,PFとは「炎症・線維化といった病的変化により,進行性に肺が硬くなり縮んでしまい,膨らみにくくなるため呼吸が苦しくなる病気」と包括してよい2)。

(2) 疾患の重要性と日本での現状
特発性肺線維症(idiopathic PF:IPF)は患者数が比較的多く,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIP)の代表格である。多くの症例で進行性であり予後不良であること,原因不明ということから,2000年にまず疾患概念が国際的に整備・統一され,薬剤開発のために臨床試験が盛んに行われてきた。20年前は診断はできるが治療はできない難病であったため,臨床的に興味を持つ呼吸器内科医も少なかった。
しかし,2022年の人口動態統計を見ると,間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)の死因順位は全死因の中で11位,呼吸器系疾患の中では肺炎,肺癌についで3位である。したがって,呼吸器内科専門医としても,疾患についてしっかり理解し,治療を必要とする人にそれを届けることが必要な時代となった。
一方,本邦では,健康診断時に無症状の画像異常で発見される例も多い。CTで網状影・すりガラス影と表現される所見を「間質影」と言い,これが間質性肺炎の所見に該当する。しかし,医師・患者双方の認知度の低さから,これらの所見が認められても専門医へ紹介されないままになっている症例も多いと推測される。医療者からは「どの程度であれば紹介したらよいのか?」という声を耳にする。また,患者からは「ネットで調べたら3〜5年で死ぬ病気と書いてある。私はあと数年しか生きられないのですか?」と質問される。
(3) 早期発見と専門医連携の重要性
しかし,早期発見できれば,予後が悪いというわけではない。根治はできないし難病ではあるものの,適切に治療開始のタイミングを計ることができれば,QOLを維持しながら日常生活を送ることが可能である。一方で,ILDは進行すれば合併症に留意する必要もあり,時に致命的でQOLを大きく損ねる可能性が高い疾患である。したがって,専門医との連携をぜひ考慮して頂きたい。一般的に「難解で,何をどうしたらよいかわからない」という意見が多い本疾患群について,本稿が少しでも皆様のお役に立つものになれば幸いである。
❷ 治療できるの? 治療に関するエビデンスと実際
(1) 治療エビデンスの変遷と抗線維化薬の登場
2000年初頭,IPFは治療に対するエビデンスはほぼ皆無であった。欧米ではプレドニゾロン+アザチオプリン+N-アセチルシステイン(内服)が唯一,効果を期待できる治療として,主に重症例に使用されていた。本邦では,軽症例はN-アセチルシステイン吸入療法により,重症例はプレドニゾロン+シクロスポリンAにより治療されていた時代がある。しかし,これらはPANTHER試験により死亡率や入院率を上昇させると報告され,IPFには使用されなくなった。
2005年に本邦でIPFを対象に,ピルフェニドンをプラセボと比較した前方視ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が実施され,治療後1年における%肺活量(%VC)が悪化する割合を1次アウトカムとした。その結果,実薬群は有意に%VCの悪化を抑制する(=進行を遅らせる)ことが証明された。この結果を受け,ピルフェニドンは世界初の抗線維化薬として本邦で承認され,治療が可能になった3)。さらに2014年,ニンテダニブをプラセボと比較する国際前方視RCTが,%努力性肺活量(%FVC)を1次アウトカムとして実施され,その効果が証明され使用可能になった4)。現在までにこれら2種類の抗線維化薬が使用できる5)。
また,%FVCの低下割合は死亡リスクと相関することが実証され,サロゲートマーカーとして確立し,臨床試験や治療効果判定,病勢進行の評価の一部として使用されている。現在も本疾患を対象とする多くの臨床試験が行われており,第三の抗線維化薬が臨床で使用可能となることが期待されている。
(2) 治療開始の考え方と薬剤選択・副作用管理
IPFは肺が硬く縮んでしまい線維化していくため,根治が難しい疾患ではある。QOLが維持できているうちに,副作用に留意しながら,適切な時期に治療を始めることが肝要である。治療によって病状を明瞭に改善することは難しいが,進行を遅らせることはできる。したがって,症状がない,または軽い早期のうちに治療を始め,現在の生活をより長く維持することが目標となる。
ピルフェニドンとニンテダニブの治療効果について直接比較した臨床試験はないが,複数のメタ解析などではほぼ効果は同等とされている。副作用のプロファイルとしては,両者ともに肝障害と下痢・食欲不振がある。他に,ピルフェニドンでは光線過敏症が認められるため,遮光やサンスクリーンを使用するといった生活指導が必要となる。一方,日常臨床ではニンテダニブは特に下痢に苦慮することが多く,ロペラミドをはじめとする様々な整腸薬・止痢薬を駆使し,QOLを担保し,長期内服が可能な環境をつくることが必要である。食欲不振で体重が減少すると呼吸困難が増悪することが多いため,薬剤調整は専門家により行われることが望ましい。

