在宅医療における最も困難な局面の1つは,生命維持装置を装着した小児患者さんのご家族から,延命治療の中止を求められることかもしれません。特に人工呼吸器を装着した重篤な状態の小児に関して,ご家族の苦悩は計り知れません。成人患者とは異なり,小児では本人の意思確認が困難であり,ご家族の代理決定にゆだねられることが多くあります。加えて,わが国では,延命治療の中止に関する明確な法的・倫理的ガイドラインが確立されておらず,現場の医療者の個々の判断にゆだねられているのが現状です。
今回は,長期人工呼吸管理を要する脳性麻痺の小児患者さんのケースを通じて,在宅医療における延命治療中止への対応について考えます。この問題は,医学的判断のみならず,倫理的・法的・社会的側面を包含する複合的で高度な課題であり,在宅医療に携わる医師にとって,避けて通れない重要なテーマだと思います。
Case:脳性麻痺の小児患者の母親の訴え
アヤカちゃん(5歳,仮名)は,脳性麻痺で人工呼吸器を装着しています。病歴やケアの内容などの情報は表1の通りです。このアヤカちゃんのお母さんから,次のような相談を受けました。

「5年間ずっと,アヤカを見てきました。アヤカが長生きしたいんだったら,これからもずっと見てあげたい。アヤカが生きたいというなら,私たちが死ぬまで見てあげたいと思っています。これまでも何度も,『助けられない』と言われてきました。ここ1年は悪化して,入院の間隔が短くなり,何度も入院して,入院するたびに『今が山だ』と言われてきました。今回の入院時は,良くなって家に帰れる確率はゼロとまで言われました。
これまでの病院主治医には,『アヤカは痛い治療やしんどい治療をもう十分頑張ってきたから,これ以上はしないでほしい』と言って,先生もそれを考慮してくれました。強心薬や昇圧薬,心臓マッサージはしないでほしいと毎回お願いしていて,それを理解してくれていたんです。
