心房細動(AF)例に対しては、「節酒」と同様、「カフェイン制限」も推奨すべきだろうか。わが国の「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」では、上室期外収縮に対するカフェイン摂取制限をクラス「Ⅰ」で推奨している。一方、2023年米国AFガイドラインは、AF例に対するカフェイン制限を「無益」とする(ただし依拠するエビデンスのほとんどは、「非AF例におけるAF新規発症リスク」についてのデータ)[Circulation. 2023]。
そして11月7日から米国・ニューオーリンズで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会では、「除細動で洞調律回復に成功したAF例では、コーヒーをやめないほうが再発リスクが低い」とするランダム化比較試験(RCT)が報告された。カリフォルニア大学(米国)のChristopher X Wong氏が報告したDECAF試験である。額面通り受け取って良いものだろうか。指定討論者による批判も含め、紹介する。
【対象と方法】
DECAF試験の対象は、コーヒーを常飲する「持続性AF」例中、待機的電気的除細動に「成功」した200例である(除細動後にAFが持続した例は除外)。これら200例を、コーヒー「継続」群と「中止」群にランダム化し、6カ月間観察した。「継続」群が飲用するコーヒーはカフェイン入りとし、「中止」群ではカフェイン入りコーヒーだけでなく、カフェイン抜きコーヒーやコーヒー以外のカフェイン飲料も摂取を禁じた。
1次評価項目は6カ月間における「臨床的に検出された、30秒以上持続するAF/心房粗動」再発である。ただしAFの経過観察は患者主治医に任されており、検査時期や期間、デバイスなどの手順は統一化されていない(他方、上記1次評価項目発生の有無は、DECAF試験チームが心電図など必要なデータの提供を受け再判定)。
なおスクリーニングの対象となった1965名中427名は、「コーヒーを控えたくない」と試験参加を断っている。つまりこの200例が「一般的」なコーヒー常飲AF例を代表していない可能性もある。
これら200例の背景因子は、平均年齢が69歳、男性が71%を占めた。AF診断からの期間は中央値でおよそ2.5年。直近のAF継続期間中央値は60日だった。また16%にアブレーション既往があり、52%が抗不整脈薬を使用していた。
【結果】
・コーヒー摂取量(自己申告)
試験開始時のコーヒー摂取量は、週7杯(中央値)だった。ランダム化後、「継続」群ではそのまま「7杯/週」(中央値)で推移したが、「中止」群では速やかに「0杯/週」(中央値)まで低下し、6カ月後まで維持された(試験開始30日後、90日後、180日後に確認)。一方コーヒー以外のカフェイン飲料(茶やエナジードリンク)、カフェイン抜きコーヒーの摂取量は、試験期間を通じて両群間に差はなかった。
・AF再発
その結果、1次評価項目である6カ月間の「30秒以上持続するAF/心房粗動」(AF再発)発生率は、コーヒー「継続」群で47%となり、「中止」群(64%)に比べ、ハザード比は0.61の有意低値だった(95%CI:0.42~0.89)。6カ月の治療必要数(NNT)は「6」である。
カプランマイヤー曲線は両群とも、観察開始数日後から、急峻な立ち上がりを認めた。そして両群曲線の乖離も試験開始「直後」から始まり、およそ60日後まで差は拡大。その後はほぼ平行のまま推移した。すなわち、コーヒーを中止後すぐさま、AF再発が多発した形である。
なおコーヒーがAF再発にリスクを及ぼすとすれば、両群を併合した「1日コーヒー摂取量とAF再発」の関連(後付解析)も見たかったところだが、残念ながら今回は報告されなかった。
【考察】
指定討論者として登壇したローワン大学(米国)のAndrea Russo氏は、本試験の留意点として以下を指摘した。
・除細動後のAF検出方法が統一されていない(検出漏れの可能性)。
・評価項目はAF再発「率」で妥当だったのか、「AF負荷」(burden)も評価すべきではなかったか(AF負荷は近年、その高値に伴い脳卒中や心不全リスクが上昇することが明らかとなり、AF例の新たな心血管系リスク因子として注目されている。先述米国AFガイドラインでも、AF負荷軽減を目指した早期からのリズムコントロールの重要性を強調)。
・試験開始時の「アブレーション既往」率は、有意差には至らなかったものの、コーヒー「継続」群(20%)のほうが「中止」群(12%)よりも多かった(AF再発リスクに影響した可能性)。
同氏は、より大規模かつ、綿密に設計されたRCTが必要ではないかと結論している。加えて記せば、本試験の結果を「除細動未施行の発作性AF」例に外挿するのは適切でない。そのような発作性AF例に対して、カフェイン摂取はどのように指導すべきだろうか。
DECAF試験に対する外部資金提供の有無は公開されなかった。また本試験は報告と同時にJAMA誌ウェブサイトで公開された。