経カテーテル的左心耳閉鎖術(LAAC)が、心房細動(AF)例の脳塞栓症予防として注目を集めている。ワルファリンに対する非劣性はすでに、2つのランダム化比較試験(RCT)で確認され(PROTECT-AF[JAMA. 2014]、PREVAIL[JACC. 2014])、またDOACに対する非劣性も、血栓塞栓症既往例(35%)を含む「塞栓症著高AF」が対象であれば、確認されている(RCT"PRAGUE-17"[JACC. 2020])。
しかし、診療ガイドライン上の推奨は日米欧とも、「考慮してもよい」というクラス「Ⅱb」である。エビデンスが不十分なためだとされる。
その文脈から期待されていたのが、本学会で報告されたRCT"CLOSURE-AF"である。「出血高リスク」だが抗凝固療法が必要と考えられたAF例において、LAACと至適薬剤治療が比較された。報告したのはシャリテ・ベルリン医科大学(ドイツ)のUlf Landmesser氏。「LAACはDOACを基礎とする至適薬剤治療に非劣性」という当初仮説は、残念ながら否定された。
【対象】
CLOSURE-AF試験の対象は、「CHA2DS2VAScスコア≧2」かつ「出血高リスク」の非弁膜症性AF 888例である。ドイツ42施設で登録された。「出血高リスク」の定義は「HAS-BLEDスコア>3、または出血既往あり、あるいは推算糸球体濾過率:15~29mL/分/1.73m2」である。抗凝固薬が用いられる試験では除外されることの多い「出血既往例」も除外されていない。
平均年齢は79歳。CHA2DS2-VAScスコア平均は5.2、HAS-BLED平均は3.0だった。この集団をLandmesser氏は、「我々がLAACを施行している患者群に近い」と評価している(記者会見)。
【方法】
これら888例は、「LAAC」群と医師判断「至適薬剤治療」群にランダム化され、盲検化なしで観察された。「LAAC」デバイスの内訳は、WATCHMAN FLXが44%、Amplatzer Amuletが42%だった。一方「至適薬剤治療」群では、適応があれば全例、DOACを基礎薬として服用した。
【結果】
平均3年間観察の結果、1次評価項目である「脳卒中/塞栓症・CV死亡/原因不明死亡・大出血(BARC分類3以上)」初発の発生率は、「LAAC」群:16.8%/年、「至適薬剤治療」群:13.2%/年となり、「LAAC」群で有意に高リスクとなっていた(ハザード比[HR]:1.28、95%CI:1.01~1.62)。カプラン・マイヤー曲線の差は、試験開始2年後以降6年目まで、一貫して広がり続けた。
1次評価項目の内訳を見ると、両群とも最も多かったのは「CV死亡/原因不明死亡」(「LAAC」群:9.5%/年 vs. 「至適薬剤治療」群:7.8%/年[HR:1.25])。次いで「大出血」(同:7.4 vs. 6.2%/年[同1.21])、「脳卒中(梗塞・出血)」(2.7 vs. 2.7%/年)、「塞栓症」(0.3 vs. 0.1%/年)だった(HRはいずれも有意差なし[検出力不足])。
なおLAACデバイス留置成功率は98%だった。
【考察】
指定討論者のJeff Healey氏(マクマスター大学[カナダ])は以下を指摘した。
まず、LAAC群の「留置周術期出血」を除外すると、「大出血」(LAAC群でHRが1.21の高値傾向)発生数は「LAAC」群で1例増えていたのみだった(除外前の差は19例)。さらに、AF例へのLAAC有用性を検討する評価項目に「CV死亡」(本試験の最多イベント)を組み込むのが適切かどうか、この点も同氏は疑問視していた。ちなみに「総死亡」リスクは両群間に有意差なく、発生率は「LAAC」群:14.8%/年、「至適薬剤治療」群:13.5%/年だった(HR:1.12、95%CI:0.89~1.40)。
なお、AF例におけるLAACの有用性を薬剤と比較するRCTとしてはこの後、CHAMPION-AF(登録数:3000例、終了予定:2027年末)、ELAPSE(482例、2028年6月)、LAAOS-4(4000例、2029年12月)、CATALYST(2650例、2030年8月)―が控えている。
CLOSURE-AF試験はドイツ心臓血管研究センター(DZHK)から資金提供を受けた。