日本医師会の松本吉郎会長は、財務省の財政制度等審議会分科会で社会保障に関する議論が行われたことを受け、11月12日に記者会見を開いた。松本会長は、「財政審は『診療所の適正化』という言葉を用いて医療界に分断を招こうとしている」と強い言葉で批判。病院と診療所は地域医療をともに支える不可欠な存在であり、対立を煽るような議論は適切ではないと強調した。
松本会長は、財務省が示した「大きなリスクは共助中心、小さなリスクは自助中心」という民間保険的な考え方について「大変残念」と問題視。医療は現金給付ではなく現物給付が基本であり、公的皆保険制度のもとでは「必要かつ適切な医療が保険診療によって確保されるべき」という立場を改めて表明した。
松本会長は続けて、財政審の提出資料について、データが実態を反映していないと具体的な反論を展開した。財務省が示した病院・診療所の収益や費用構造、赤字診療所や医療法人の経常利益率の分析、さらには医療提供の効率化に関する論点はいずれも問題があると指摘。とりわけ、収益や費用構造に関するデータは、インフレが医療機関の経営に深刻な影響を及ぼす前の古い時期のものであり、現在の厳しい経営状況をまったく示していないと批判した。また、収益にはすでに存在しない新型コロナ関連の補助金が含まれており、恒常的な収益として扱うべきではないと強調した。加えて、個人診療所の院長の個人収益(約3200万円)について個人経営では、ここから所得税の支払いに加え、建物や医療機器の更新費用に充てる借入金の返済も必要であり、医療法人院長の給与と同列に比較するのは不適切との考えを示した。
診療所の利益率分析を巡っては、財務省が示した医療法人立診療所院長の給与の平均値(2653万円)ではなく、実態を把握するには中央値(2160万円)や最頻値(1000〜1500万円)を重視すべきと主張。診療所院長は診療業務だけでなく経営の全責任を負い、経営が行き詰まれば連帯保証人として個人財産を投入せざるを得ない立場にあることも踏まえる必要があると訴えた。また、利益剰余金が高水準であるとの指摘についても、利益剰余金とは過年度の利益の累積であり、その多くは建物や医療機器の更新、高額な修繕費に充てられるもので、現金として積み上がっているわけではないと明確に反論した。無床診療所の経常利益率についても、中央値が2.5%、最頻値が0.0〜1.0%と低く、年々悪化しているデータを示して説明した。
その上で松本会長は、こうした資料に基づく議論の結果として「診療所だけを深掘りして財源を捻出しようとすることは到底容認できない」と語気を強め、このままでは閉院する医療機関が増え、地域医療の崩壊をもたらしかねないと強い危機感を示した。したがって、財源を純粋に上乗せする対応と、次の診療報酬改定までの2年間を見据えた適切な改定水準の確保が不可欠であると改めて訴えた。
