「家で死にたい」。これは多くの患者さんが心の奥底で抱く切実な願いです。しかし現実には,病院側から「こんな状態では帰るのは無理」と退院を断られ,ご家族も「病院のほうが安心」と言い,最終的に病院で最期を迎えるケースは少なくありません。
在宅医療に携わる私たちは,日々このような場面に遭遇します。確かに,医学的には困難な状況であることは理解できます。しかし,本当に「帰るのは無理」なのでしょうか。それとも,私たち医療者が「死と向き合う」ことを避け,「最期まで治し続ける」ことにこだわりすぎているのではないでしょうか。
今回は,退院困難とされた患者さんが,最期の1時間を自宅で過ごすことができたケースを通じて,「本人が自宅での看取りを希望しているのに,退院させてもらえない場合」にどのようなアプローチが可能なのかを考えてみます。このケースから学べるのは,「死と向き合うことで,はじめて“帰る”という選択肢が見えてくる」という大切な視点です。