日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン」が6年ぶりに改訂されたのを機に、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と高血圧の関連性について専門家らが意見交換するシンポジウム「睡眠時無呼吸と高血圧~最新のガイドラインとエビデンス~」(共催:第47回日本高血圧学会総会/レスメド株式会社)が10月17日、都内で開かれ、重症SASが引き起こす治療抵抗性高血圧などにCPAP療法が有効であることを確認した。(取材・編集:日本医事新報社)
シンポジウムでは、自治医科大学循環器内科学教授の苅尾七臣氏、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学准教授の葛西隆敏氏、上海交通大学医学部附属瑞金医院教授の王継光氏が登壇。
SASが夜間血圧のサージを引き起こす

日本高血圧学会理事長の苅尾氏
日本高血圧学会理事長を務める苅尾氏は、今年8月に公表された高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSHガイドライン2025)に沿って、高血圧とSASの関係について概説。
「SASは夜間血圧のサージ(急上昇)を引き起こし、変動の大きいnon-dipper型・riser型の夜間高血圧、治療抵抗性高血圧を形成する」とし、SAS治療の柱であるCPAP療法(持続陽圧呼吸療法)は「重症SASにおける夜間血圧や早朝血圧のサージを改善し、non-dipper型の是正に寄与する」と指摘した。
「隠れ無呼吸」の可能性を念頭に診療を
苅尾氏は「JSHガイドライン2025でも睡眠時血圧の測定が推奨されている」としながら、これまで研究レベルでのみ扱われていた睡眠時の夜間血圧を自動で測定する機器(ホースレス上腕睡眠血圧計)が10月から市販されていることも紹介。
「一般の人が測定して夜間血圧が高かったと相談してきたときに、無呼吸が隠れている可能性を頭に入れて診療していただきたい」と述べ、現場の臨床医に対し夜間血圧が家庭で測定できる時代への対応を求めた。
CPAP療法のアドヒアランス維持が課題

日本循環器学会の睡眠呼吸障害に関するガイドラインで班長を務めた葛西氏
日本循環器学会の「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(2023年改訂版)」で班長を務めた葛西氏は、特にCPAP療法の良い適応となるのは「眠気の症状が強い高血圧患者」や「治療抵抗性高血圧の患者」と指摘。
CPAP療法は「使用時間が4時間以上だと血圧が下がる方が多くなるが、4時間切ると血圧が下がらず、むしろ上がる人もいる」として、遠隔モニタリングなどの活用によりアドヒアランスを維持することの大切さを強調した。
アドヒアランスの維持が困難な患者に対しては、ARBをベースにβ遮断薬などを組み合わせる薬物療法でコントロールしていることを報告した。
王氏は「SASは治療抵抗性高血圧の素因となることが多く、心血管疾患のリスクを高める」としながら、今後の課題として高血圧患者におけるSASの検出率向上などを挙げた。
保険適用の基準がCPAP導入のネックに
苅尾氏と葛西氏はシンポジウム終了後、取材に応じ、新しい夜間血圧の測定機器が市販されたことで、SASの診断を求める高血圧患者の増加が見込まれる中での課題に言及した。
葛西氏は「日本はSASの簡易検査へのアクセスが非常に良いが、CPAPの適用基準『無呼吸低呼吸指数(AHI)40以上』が欧米に比べて高い。簡易検査をいくら頑張ってもCPAP治療に結びつかない。中等症以上の要治療レベルの患者は日本に900万人以上いると推計されているが、算定ベースで保険が適用されている患者は70万人程度にとどまっている」と述べ、簡易検査で「AHI 40以上」などの基準がCPAP導入のネックになっていると指摘。
苅尾氏も「そこが治療抵抗性の高血圧を生み出している可能性がある」として、高血圧管理の観点からもCPAP療法の保険適用基準の緩和が必要との認識を示した。

上海交通大学の王教授(中央)を交えて行われたシンポジウム