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(レイノー症状/手足の冷えや痛み+寒冷刺激で悪化)×当帰四逆加呉茱萸生姜湯[漢方スッキリ方程式(103)]

登録日: 2025.10.24 最終更新日: 2025.10.31

杉本真理子 (帝京大学医学部附属病院ペインクリニック科准教授)

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レイノー現象は,寒冷刺激や種々のストレスで誘発される,四肢末端の細動脈の一過性の末梢循環障害で,基礎疾患のないレイノー病と,膠原病など他の疾患が原因となるレイノー症候群に分類される。

漢方医学的には,「外寒」(寒冷刺激)と「肝鬱」(精神的ストレス)が関与する「瘀血」(末梢循環障害)と解釈できる。レイノー現象の治療では,寒さやストレスなどの誘因を避ける,禁煙,薬剤投与(カルシウム拮抗薬,プロスタグランジン製剤,ビタミンE,セロトニン拮抗薬,血小板凝集抑制薬など)がある。

漢方では当帰四逆加呉茱萸生姜湯が第1選択となる。慢性炎症(瘀血)状態と考えられる膠原病では桂枝茯苓丸などの駆瘀血剤を併用した方が効果的とされる1)。精神的ストレスには柴胡剤(抑肝散柴胡桂枝湯など),手指の関節痛には桂枝加朮附湯,体力消耗時には補剤(補中益気湯十全大補湯人参養栄湯など)も使用する2)

レイノー症状にはまず当帰四逆加呉茱萸生姜湯

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は,しもやけの薬として知られている。構成生薬の当帰・桂皮・細辛は末梢血管を拡張し血行を良くして四肢の冷えを温め,桂皮は上半身の血行を良くし,当帰は下半身の血行を改善し,細辛は体を温め鎮痛作用もある。腹部内臓を温める呉茱萸・生姜も加味され,内臓まで冷えて腹痛,嘔吐などもあり慢性的に冷えがある,冷え症,しもやけ,頭痛・腹痛・腰痛,月経痛,下痢などに用いられる。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は,冷え症患者の皮膚温上昇・末梢血流量増加,膠原病患者の難治性レイノー現象に有効3),抗リン脂質抗体症候群のプレドニン忌避例で紫斑消失・抗カルジオリピン抗体低下などの報告がある2)。低価格で副作用も少ないため,まず試してみるのもよい。

膠原病のレイノー現象では,当帰四逆加呉茱萸生姜湯単剤で著効しなくても,末梢循環障害(瘀血・血虚)に対し桂枝茯苓丸当帰芍薬散,虚労(気虚)に対し十全大補湯人参養栄湯補中益気湯,ステロイド使用に伴うむくみ(水滞)対し当帰芍薬散柴苓湯などを併用することで,効果を得られることもある4)

冷えが病状の悪化や病態の根本にある場合には附子末を足す,桂枝加朮附湯(上半身の冷え),真武湯(全身・消化管の冷え),八味地黄丸(老化に伴う腰痛・夜間頻尿など諸症状),苓姜朮甘湯(腰から下の冷え),大建中湯(腸管の動きが悪い,イレウス)を併用するなど,冷えの部位に応じて漢方の温浦剤を用いると良い。


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