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コンゴ民主共和国での16回目のエボラウイルス病のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(40)]

登録日: 2025.10.28 最終更新日: 2025.10.28

石金正裕 (国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

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●エボラウイルス病とは1)

エボラウイルス病は,Orthoebolavirus zairenseという種に属するエボラウイルスによって引き起こされる重篤な疾患です。

感染した野生動物の血液や分泌物との密接な接触によってヒトに感染し,その後,感染者の体液や臓器,汚染された物質との直接的な接触によってヒトからヒトへの感染が広がります。

潜伏期間は2~21日ですが,通常は7~11日です。潜伏期間中は感染力はなく,初期症状で感染力を持つようになるため,感染リスクは臨床症状の発現時から始まり,重症化するにつれて高くなります。
平均的な死亡率は50%ですが,過去の集団発生では25〜90%の死亡率が報告されています。

非特異的な症状・徴候(腹痛,食欲不振,疲労,倦怠感,筋肉痛,咽頭痛など)を伴う発熱の急性発症が特徴的で,通常,数日後に吐き気,嘔吐,下痢,時に多彩な発疹が続き,重症化すると,出血症状,脳症,ショック,多臓器不全などが起こることがあります。

回復しても後遺症(関節痛,神経認知機能障害,ぶどう膜炎,時には白内障の形成など)が長期化することがあり,免疫の優位な部位(中枢神経系,眼,精巣など)で臨床的感染および不顕性持続感染が起こることがあります。家族,医療・介護従事者,埋葬儀式の参加者など,死者と直接接触する人々は特に危険です。

日本では,全数報告対象(1類感染症)であり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がありますが,これまで感染例の報告はありません。

●コンゴ民主共和国のカサイ州でエボラウイルス病のアウトブレイクが発生1)

2025年9月1日,WHOはコンゴ民主共和国(DRC)保健省から,同国カサイ州ブラペ保健区域におけるエボラウイルス病疑い例に関する報告を受け取りました。最初の疑い患者は,妊娠34週の妊婦で,発熱,血性下痢,嘔吐,無力症,多臓器不全の症状を呈し2025年8月20日にブラペ総合病院に入院,8月25日に死亡しました。この患者と最初に接触した医療従事者2人も同様の症状を呈し死亡しました。

2025年9月4日時点で,ブラペ保健区域内の3つの地域とムウェカ保健区域から,15例の死亡を含む合計28例の疑い患者が報告されています。疑い例の約80%は15歳以上です。

5例の疑い例から5つの血液サンプルが,また1例の死亡例から鼻咽頭ぬぐい液が採取され,2025年9月3日にキンシャサの国立公衆衛生研究所で検査したところ,エボラウイルスが確認されました。

今回の事例は,1976年以来,DRCで16回目のエボラウイルス病の発生となります。今回の流行は,同国で約3年間エボラウイルス病の流行が確認されることなく経過した後に発生しました。

WHOは,現在のエボラウイルス病の流行がもたらす公衆衛生上のリスクは,国レベルでは高く,地域レベルでは中程度,世界レベルでは低いと評価しています。日本ではこれまでエボラウイルス病の報告はありませんが,都市部などに感染拡大すると日本でも感染者が報告される可能性があるため,今後の動向に注視が必要です。

【文献】

1) WHO:Disease Outbreak News. Ebola virus disease - Democratic Republic of the Congo.(2025年9月25日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。


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