近年,循環器領域におけるプレホスピタルケア,救急外来での初期対応,さらには急性冠症候群,急性心不全,そのほかの急性心血管疾患といった病態に対して,以前にも増して迅速かつ的確な診断と治療が求められる時代となりました。こうした背景のもと,これらの重篤な疾患に対する専門的医療を担う場として,循環器集中治療室(cardiovascular intensive care unit:CICU)の重要性がますます高まっています。
日本では,1973年に日本医科大学付属病院において,いち早くクロースドシステム(high-intensity care unit)としてのCICUが開設されました。その後も,同病院の関係各位は,一般社団法人日本集中治療医学会との連携を通じて,日本の急性期循環器医療を力強く牽引してこられました。
このたび,日本医科大学付属病院心臓血管集中治療科ならびにそのご高名な同門の先生によって編纂された『循環器集中治療CICUテキスト』(日本医事新報社)が上梓されましたことは,まことに意義深いことと存じます。
本書を拝読し,まず全体を通読した上で,次に図表やコラムに注目しながら診療の実際を想像しつつ読み進め,さらに3度目には各章の文献を確認しながら,改めて深く学ばせて頂きました。各章は体系的かつ論理的に構成されており,ストーリー性をもって読者を導いてくれます。
冒頭の第1章では,人員配置,教育カリキュラム,多職種カンファレンスなど,CICU運営において必須の知識と実践が紹介されており,現場で働くすべてのスタッフにとって有益な情報が網羅されています。第2章以降では,CICUにおける検査や治療手技,プレホスピタルおよび救急外来での初期対応,さらには急性冠症候群,急性心不全,難治性不整脈,大動脈疾患,劇症型心筋炎,感染性心膜炎など,重要病態の各論へと展開され,全9章の構成となっています。
とりわけ注目すべきは,循環器疾患の診療にとどまらず,血液,脳,呼吸,腎機能,感染症および敗血症,消化器,さらには肥満,妊娠,高齢といった患者背景までを含めた,全身管理の視点から記述がなされている点です。これにより,CICUにおける集中治療を包括的かつ統合的に学ぶことができます。
また,図表の充実ぶりも特筆すべき点です。私たちは専門医試験などの問題作成に際し,信頼できる図表からの情報を重視しますが,本書はその意味においてもきわめて有用な資料となるでしょう。書籍の厚さは約21mm,横断面には約15mm幅の9つのブルーラインが施されており,まるで「9章それぞれをじっくりと読み込んでほしい」との編著者からのメッセージのようにも感じられます。
読み進める順序や方法は読者それぞれでよいかと思いますが,いかなる読み方をしても,本書は,循環器領域の全身管理に携わるすべての医療従事者にとって,確かな指針となる基盤的テキストであると確信しています。ここに,心より推薦申し上げます。ぜひ一冊,お手元におそろえ頂きたく存じます。
