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学会レポート─2025年欧州心臓病学会(ESC)[J-CLEAR通信(182)]

登録日: 2025.10.23 最終更新日: 2025.10.23

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

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8月29日からマドリード(スペイン)にて、欧州心臓病学会(ESC)学術集会が開催された。参加者は、医療従事者だけで169カ国からの3万3000人以上に及んだという。報告された研究は論文同時公開だけでも200近くを数えたが、ここでは慢性期治療に関する興味深いRCTを紹介したい(9月上旬Web報告を整理)。

TOPIC 1
MI後「EF>40%」例へのβ遮断薬でCV転帰は改善するのか? 2つのRCTで異なる結果に:BETAMI-DANBLOCK/REBOOT-CNIC

「心筋梗塞(MI)後にはβ遮断薬」─。常識のように語られてきた言葉である。

しかしこの根拠とされるエビデンスは、2000年より前のデータである[ランダム化比較試験(RCT)メタ解析、1999]。再灌流療法はまだ一般的でなく、スタチンやレニン・アンジオテンシン系阻害薬などの心保護薬の使用率も低かった。もっともその後、MI後に左室駆出率(EF)が低下していれば、β遮断薬が心血管系(CV)転帰を改善することがRCTで示された[CAPRICORN. 2001]。一方、EFが保たれた「MI後EF>50%」例には無効だった[REDUCE- AMI. 2024]。

ではMI後にEFが軽度低下した例(EF>40%)まで含めた場合、β遮断薬は有用だろうか。本学会では、この点を検討したRCTが2つ報告された。2つの試験結果は真逆となったが、その理由に対する考察も含め、紹介したい。

【BETAMI-DANBLOCK試験】

最初は、「β遮断薬」を「有用」と結論したBETAMI-DAN BLOCK試験(以下、BETAMI)である。オスロ大学(ノルウェー)のDan Atar氏が報告した。

・対象と方法

BETAMI試験の対象は、MI発症後14日以内でEF≧40%だった北欧在住の5574例である。ノルウェーとデンマークにて登録された。全例、MIに対し冠血行再建術が施行されている。ただし「MI以外にβ遮断薬の適応がある」と担当医に判断された場合は除外された。年齢中央値は63歳、84.7%が「EF≧50%」だった。
これら5574例は全例、MIへの標準治療実施の上、β遮断薬「追加」群と「非追加」群にランダム化され、非盲検下で3.5年間(中央値)観察された。

β遮断薬の「種類」と「用量」は担当医の裁量に任された(結果的に95%がメトプロロール持効錠を服用。開始時用量中央値は50mg/日。狭心症に対する最小用量は100 mg/日。MI後維持期に対しては100mg×2/日が標準)。

・結果

その結果、β遮断薬「追加」群では「非追加」群に比べ、1次評価項目の「死亡・重篤CVイベント(MACE)」ハザード比(HR)は0.85の有意低値となっていた(95%CI:0.75~0.98)。治療必要数(NNT)は「48」である。

MACEの内訳は「MI・緊急冠動脈血行再建・脳梗塞・心不全(HF)・悪性心室性不整脈」だが、リスク減少幅が特に大きかったのは「MI」だった(HR:0.73、95%CI:0.59~0.92)。

本試験はデンマーク心臓財団とノボ・ノルディスク財団、南東健康研究プログラム(ノルウェー)から資金提供を受けた。また報告と同時にNEJM誌ウェブサイトで論文が公開された。

【REBOOT-CNIC試験】

一方、β遮断薬追加の有用性を確認できなかったのが、REBOOT-CNIC試験である(以下、REBOOT)。ヒメネス・ディアス財団大学病院(スペイン)のBorja Ibanez氏が報告した。

・対象と方法

REBOOT試験の対象は、MI後退院時に「EF>40%」だった8438例である(95%が血行再建術施行)。スペインとイタリアにて登録された。BETAMI試験同様、「MI以外にβ遮断薬の適応がある」と担当医が判断した例は除外されている。平均年齢は61歳、EF平均値は57%だった。

これら8438例はMI標準治療にβ遮断薬「追加」群と「非追加」群にランダム化され、非盲検下で3.7年間(中央値)観察された。

β遮断薬の「種類・用量」はBETAMI試験同様、担当医が決定した(その結果、86%がビソプロロールを服用。開始時用量中央値は2.5mg/日。なお、高血圧に対する標準用量は2.5~5.0mg/日。HFrEFには1.25~10mg/日)。

・結果と追加解析

その結果、1次評価項目である「死亡・MI・HF入院」リスクは、両群間に差を認めなかった(β遮断薬「追加」群におけるHRは1.04[95%CI:0.89~1.22])。この結果は、BETAMI試験にてβ遮断薬「追加」群でリスク著明減少を認めた「MI」のみで比較しても、同様だった。「追加」群におけるHRは1.01(95%CI:0.80~1.27)である(vs. 「非追加」群)。

ただしREBOOT試験では、β遮断薬「非追加」群の27.9%が、試験開始4年後にはβ遮断薬を服用していた。このクロスオーバーにより、群間差が実際よりも小さく見えている可能性も否定できない。

そこで、β遮断薬「追加」「非追加」群ともプロトコール遵守例のみでの比較を試みた。しかしやはり、「追加」群における「死亡・MI・HF入院」HRは、1.01(95%CI:0.85~1.20)だった(vs. 「非追加」群)。

またポジティブだったBETAMI試験で最も多く用いられたメトプロロール服用例のみ(n=309)で検討しても、β遮断薬「追加」群におけるHRは1.20(95%CI:0.79~1.82)だった。

本試験は、スペインの国立心臓血管研究センター(CNIC)と心血管疾患生物医学研究ネットワークセンター(CIBE RCV)から資金提供を受けた。また報告と同時にNEJM誌ウェブサイトで論文が公開された。

【考察】

なぜBETAMI試験とREBOOT試験では、同様のデザインながら正反対の結果となったのか。質疑応答では以下が指摘された。

まず、対象のCVイベントリスクに、両試験間には差が見られる。すなわち、両試験の観察期間は同等ながら(中央値でおよそ3.5年間)、β遮断薬「非追加」群における「MI」発生率は、ポジティブだったBETAMI試験では6.7%であり、REBOOT試験(3.4%)の2倍近い高値である。「HF」も同様だ(1.9% vs. 1.0%)。BETAMI試験の対象はより高リスクだったため、β遮断薬「追加」の有用性が大きく出た可能性がある。

このような差が生じた理由の1つとして、指定討論者であるグラスゴー大学(英国)のJohn GF Cleland氏は、除外基準である「MI以外にβ遮断薬の適応あり」の担当医解釈に差があった可能性を考えているようだ。

ちなみにポジティブに終わったBETAMI試験では、導入基準に合致した1万2326例のうち30%が、「MI以外にβ遮断薬の適応あり」として除外されていた(REBOOT試験では不明)。

これらRCT 2報の個別患者データを用いたメタ解析が待たれる。

TOPIC 2
AFアブレーション後1年間再発なしでOAC中止可能?:RCT“ALONE-AF”

心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーションの成績は、改善されつつある。しかしアブレーション成功例において経口抗凝固薬(OAC)を中止できるや否やについては、各国ガイドラインを含め、まだコンセンサスがない。しかし患者からすれば、「せっかくアブレーションを受けてAFが治ったのに、なぜ出血リスクのある薬剤を続けなければならないのか」という不満は残るだろう。

本学会では、AFアブレーション成功例におけるOAC中止の安全性を検討した、ランダム化比較試験(RCT)“ALONE-AF”が、延世大学(韓国)のBoyoung Joung氏により報告された。

良好な結果となったが、細かく見ると疑義も残った。

【対象】

ALONE-AF試験の対象は、AFアブレーション施行後1年間、「AF再発」を認めなかった韓国在住の840例である。全例がOACを服用していた。CHA2DS2-VAScスコア「0」男性、「≦1」女性は除外されている。「AF再発」は「24~72時間ホルター心電計」で確認した。

平均年齢は64歳、男性が75%を占めた。AFは68%が「発作性」、CHA2DS2-VAScスコア中央値、HAS-BLEDスコア中央値はいずれも「2」だった。またアブレーションは87%が「ラジオ波焼灼術」だった。全例が「肺静脈隔離術」である。

【方法】

これら840例はOAC「継続」群と「中止」群にランダム化され、非盲検下で2年間観察された。

【結果】

その結果、1次評価項目である「脳卒中・全身性塞栓症・大出血(ISTH基準)」発生率はOAC「中止」群で「継続」群に比べ、絶対リスクで1.9%の有意低値となっていた(P=0.02)。2年間の治療必要数(NNT)は「53」である。

両群間の差が著明となったのは「大出血」だった(「中止」群:0% vs. 「継続」群:1.4%)。ただし、両群のカプランマイヤー曲線間の差が大きく開くのは、試験開始後18カ月以降だった。一方、「脳卒中・全身性塞栓症」の発生率には両群間で有意差を認めなかった(同0.3% vs. 0.8%)。

亜集団解析の結果、OAC「中止」群における「脳卒中・全身性塞栓症・大出血」リスク減少は「AF類型(発作性 vs. 持続性)」だけでなく、「CHA2DS2-VAScスコアの高低」や「HAS-BLEDスコアの高低」を問わず、認められた(有意な交互作用を認めず)。

【考察】

さて「脳卒中・全身性塞栓症」発生率は、有意差に至らないとはいえ、OAC「継続」群で「中止」群に比べ高かった。奇妙ではないだろうか。

この点に疑義を呈したのが、エレブルー大学病院(スウェーデン)のMadelene Carina Blomstrom-Lundqvist氏である。同氏は、ランダム化時点で既に、OAC「継続」群のほうが「脳卒中・全身性塞栓症」高リスクだった可能性を指摘した。具体的には「AF burden」(心房細動負荷:心電計測定時間に占めるAF出現時間の割合)の群間不均衡の可能性である。ALONE-AF試験では開始時の「AF burden」が評価されていない。

AF burdenは近時、その高値に伴い脳卒中や心不全リスクが上昇するため、新たなリスク因子として注目されている[2023年総説]。

ALONE-AF試験は韓国政府機関と三真製薬から資金提供を受けた。また報告と同時に論文が、JAMA誌ウェブサイトで公開された。

TOPIC 3
スコアを用いた「DAPT期間個別化」で「12カ月間DAPT」よりNACEは減少: RCT“PARTHENOPE”

PCI施行後の至適「抗血小板薬併用」(DAPT)期間をめぐっては、様々な検討が行われてきた。しかし臨床現場の感覚としては、「患者のリスクに応じ、最適な期間を設定したい」が本心ではなかろうか。

PCI後の血栓症・出血リスク評価ツールとしては、既にDAPTスコア(後述)が報告されている[JAMA. 2016]。しかし意外なことに、同スコアを用いたDAPT期間個別化が転帰に及ぼす影響を検討したランダム化比較試験(RCT)はなかったという。

本学会では、この点を初めて検討したRCT“PARTHEN OPE”が報告され、DAPT期間個別化の有用性が示された。報告者は、ナポリ大学(イタリア)のRaffaele Piccolo氏。

【対象】

PARTHENOPE試験の対象は、PCIを施行した急性冠症候群(ACS)/慢性冠症候群(CCS:旧来の安定冠動脈疾患)2107例である。76%がACS例で、DAPTスコア中央値は「2」だった(59%が「≧2」)。

【方法】

これら2107例を、通常のDAPT「12カ月継続」群と、「DAPTスコア」の高低に応じてDAPT期間を決めるDAPT「期間個別決定」群にランダム化した。「期間個別決定」群ではDAPT期間を、「DAPTスコア」が「>2」ならば「24カ月」、「≦2」ならば「ACS例は6カ月」、「CCS例は3カ月」とした。

なおDAPTスコアは、12カ月以上にわたるDAPTのリスク/ベネフィット評価のために開発された(−2点~10点)。算出には年齢に加え「喫煙、糖尿病、来院時心筋梗塞(MI)、MI/PCI既往、パクリタキセル溶出ステント、心不全/左室駆出率低下、静脈グラフト」の有無と「ステント径」が用いられる[JAMA. 2016]。

【結果】

2年間観察の結果、1次評価項目である「死亡・MI・緊急責任血管血行再建(TVR)・脳卒中・BARC要措置/大出血」(有効/有害評価項目[NACE])発生率は、DAPT「期間個別決定」群が18.6%で、「12カ月継続」群の22.2%に比べ有意低値となっていた。

両群のカプランマイヤー曲線は、1年過ぎまで「12カ月継続」群が下を走っていたが、その後逆転し、「期間個別決定」群のほうが下方に回った(比例ハザードの前提崩壊)。しかし比例ハザードを前提としない解析でも、両群間には有意差を認めたという(オッズ比:0.80、95%CI:0.64~0.99)。

内訳を見ると、両群間の差が著明だったのは「MI」と「緊急TVR」だった。一方「BARC要措置/大出血」は、「12カ月継続」群で0.4%の高値傾向を認めたのみだった。

なお亜集団解析からは、75歳以上であれば、DAPT「12カ月継続」群のほうが「期間個別決定」群よりもNACEリスクは低い可能性が示唆された(年齢による交互作用P=0.002)。

本試験はナポリ大学から資金提供を受けた。外部からの資金提供はないとのことである。また論文は報告と同時にJACCウェブサイトに掲出された。


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