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明らかになってきた妊産婦の自殺[先生、ご存知ですか(92)]

登録日: 2025.10.22 最終更新日: 2025.10.22

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

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妊産婦死亡の統計は乏しい

妊産婦死亡とは、妊娠中または妊娠終了後42日未満の妊娠もしくはその管理に関連した死亡と定義されています。2023年の妊産婦死亡は23人で、そのうち、妊娠時における産科的合併症が原因で死亡した直接産科的死亡が17人でした。

妊産婦死亡率をみても世界的に低く、わが国の産科医療の質が高いことは疑いがありません。しかし、妊娠中や産後に自殺する人、交通事故で死亡する人がいます。わが国の人口動態統計では、このような妊娠中または産後に外因死する人が集計されていません。少子化時代、胎児を守るためには妊婦の外傷を予防しなければなりません。特に、妊婦が交通事故で死亡したり重傷を負った際には、胎児の命を守ることが困難です。したがって、妊婦の交通外傷予防対策を推進しなければなりません。

しかし、交通事故で死傷した妊婦の数は不明です。また、望まぬ妊娠などで悩んだ末に自殺する妊婦や産後うつなどで自殺する女性もいます。この現状も最近まで明らかではありませんでした。このように、妊婦や子どもを守るための対策を講じるのに必要な統計がないことが憂慮すべき現状です。

明らかになってきた自殺の現状

自殺の判断は、警察の捜査結果に基づきます。最終的には死体検案書における死因の種類によって分類されます。警察が捜査をした結果、自殺が強く疑われるものの、確証がない場合(動機が不明、遺書がない、不慮の事故と判別できない)、死因の種類は「その他及び不詳の外因死」に分類されます。したがって、現在公表されている自殺者数は過小評価とご理解下さい。

2022年より、女性の自殺者について、妊娠中あるいは産後1年以内であることが把握された際には、記録されることとなりました。2022年から2024年の3年間で、妊婦の自殺者は年平均15人でした。これを、出生10万人当たりで計算すると2人になります。もちろん、妊娠初期で、本人が周囲の人に妊娠の事実を伝えていなければ把握できないので、これも過小評価です。

一方で、わが国における人口10万人当たりの自殺死亡率は、20歳代女性で19.3、30歳代女性で18.1です(いずれも2024年)。したがって、過小評価であることを考慮しても、妊婦の自殺死亡率は同年代と比較しても著しく低く、決して妊婦の自殺が多いというわけではありません。

次に、産後1年以内の死亡をみてみます。同様に、3年間の平均で年39人であり、出生10万人当たりで計算すると5.3人です。妊娠中よりは高い数字ですが、同年代の女性の自殺死亡率よりは圧倒的に低いです。したがって、産後1年以内に自殺死亡率が特に高いわけではありません。

現状をもとに予防対策を

少ないとはいえ、妊婦や産後の女性における自殺を予防することが重要です。数字はもちろんのこと、個々の例を詳細にレビューして内容を明らかにし、効果的予防対策を講じる必要があります。今後は妊婦における不慮の外因死など、まだまだ明らかになっていない事象を解明していかなければなりません。


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