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米国ニューヨーク市ハーレム地区でのレジオネラ症のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(39)]

登録日: 2025.09.26 最終更新日: 2025.09.25

石金正裕 (国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

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◆タイトル 米国ニューヨーク市ハーレム地区でのレジオネラ症のアウトブレイク[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(39)] ◆執筆

石金正裕 (国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

◆内容

●レジオネラ症とは1)

レジオネラ症(legionellosis)は,水や土壌に存在するレジオネラ属菌による細菌感染症です。その病型は劇症型の肺炎と一過性のポンティアック熱があり,市中肺炎の原因の2~9%とされています。50種類以上の菌種が発見されており,20菌種でヒトへの感染が確認されています。

Legionella pneumophilaが最も一般的な菌種で,さらに15種類の血清型が発見されており,タイプ1がレジオネラ感染症の70~80%を占めるとされています。

感染のリスクは,環境面では浴場施設・冷却塔,宿主面では慢性肺疾患,喫煙です。2〜10日間の潜伏期を経て,39℃以上の高熱(比較的徐脈が多い),消化器症状,中枢神経症状を伴い,呼吸器症状は軽度である点が特徴となります。炎症反応の上昇,肝機能異常,低ナトリウム血症,横紋筋融解症,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC),糸球体腎炎を示します。胸部X線では,典型的には大葉性肺炎像や多発性病変を,胸部CTでは,非区域性に分布する浸潤影とその周囲のすりガラス陰影を示しますが,一定しません。

診断方法は,尿中抗原(感度80%,特異度97~100%)とBCYEα培地での喀痰培養検査(感度20~80%,特異度100%)が基本となります。尿中抗原は感染の2〜3日後から検出され,一度抗原陽性になると2週間持続します。その他の補助診断としては,血清抗体価や尿,血清,咽頭ぬぐい液などのPCRがあります。

治療は細胞内移行性を考慮し,ニューキノロン系(2〜3週間),マクロライド系(10日間)の抗菌薬が選択されます。βラクタム系やアミノグリコシド系は無効です。

予後は,適切な治療がなされない場合は60~70%の死亡率ですが,適切な治療でも10~20%の死亡率とされます。

全数報告対象(四類感染症)であり,診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要があります。

●米国ニューヨーク市ハーレム地区でレジオネラ症のアウトブレイクが発生2)

2025年7月にニューヨーク市保健局は,中央ハーレムにおけるレジオネラ症の集団発生に関する情報を発表しました。2025年7月25日〜8月4日の間に,このクラスターで58例がレジオネラ症と診断され,うち2例が死亡しました。

地域内で稼働中の冷却塔を対象とした初期の環境検査で,レジオネラ症を引き起こす細菌L. pneumophilaの陽性反応を示した冷却塔11基が特定され,それらへの対策措置が実施されました。

ニューヨーク市の保健局は,特に重症化リスクの高い(50歳以上,喫煙者,慢性肺疾患または免疫機能低下がある)住民に,症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診するよう,引き続き強調して呼びかけています。

レジオネラ症の予防として,循環式浴槽(追い炊き機能つき風呂・24時間風呂など)は,定期的に洗浄および消毒をし,庭仕事や農作業などの土壌で作業をする際は,マスクなどで鼻と口を覆い,土ぼこりなどを吸い込まないようにすることが大切です。

【文献】

1) 国立健康危機管理研究機構:レジオネラ症.(2025年8月16日アクセス)

2) NYC Health:New York City Health Department Provides Update on Community Cluster of Legionnaires' Disease in Central Harlem.(2025年 8月16日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。


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