【検査所見】
血液検査では,トランスアミナーゼ(AST/ALT)の上昇,血清セルロプラスミンの低下(20mg/dL未満),血清銅(セルロプラスミン結合銅)の低下を認める。その他,尿中銅排泄増加,肝銅含有量増加,超音波検査やCTで脂肪肝や肝硬変を,頭部MRIで基底核病変を,眼科検査でKayser-Fleischer輪を,遺伝子解析でATP7B遺伝子変異を認める,などがある。確定診断には,症状や検査所見をスコアリングして診断する国際診断基準を用いる。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
薬物療法による除銅と銅吸収の阻害,そして銅制限食(銅の多い食品を控える)が治療の基本である。薬物療法には,亜鉛製剤による消化管からの銅吸収阻害と,D-ペニシラミンとトリエンチンといった銅キレート薬による尿中への銅排泄促進の2つがある。食事成分と薬剤が消化管内で結合して,薬効が低下するのを防ぐため,食前1時間もしくは食後2時間以上間隔をあけて内服することが肝要である。特に銅キレート薬では薬効が著しく低下するため,内服時間を厳守する必要がある。銅キレート薬と亜鉛を併用する場合も,同時に服用すると消化管内で結合するため,1時間以上あけて内服する必要がある。D-ペニシラミンは約30%に有害事象が出現し,神経型では治療開始初期に一過性の神経症状悪化が出現することがあるため注意が必要である。
なお,発症前型に対する治療の第一選択は,亜鉛もしくは銅キレート薬の単剤治療である。肝不全(肝硬変)が進行した例では肝移植の適応となる。
▶治療の実際
【発症前型・肝型軽症】
一手目 酢酸亜鉛製剤の単剤投与:ノベルジン®25mg・50mg錠(酢酸亜鉛水和物)成人:75~150mg/日 分2~3,6歳以上の小児:75mg/日 分2~3,6歳未満の小児:50mg/日 分2(空腹時:食前1時間以前または食後2時間以降)
用量は年齢・症状に応じて適宜増減するが,1日最大投与量は250mgとする。ジェネリック医薬品の場合も同様の用法・用量で用いる。
二手目 〈処方変更〉D-ペニシラミンの単剤投与:メタルカプターゼ®50mg・100mgカプセル(ペニシラミン)成人:少量(250~500mg/日)から開始し,4~7日ごとに増量し初期量1000~1500mg/日程度,維持量750~1000mg/日 分2〜3,小児:初期量20~30mg/kg/日,維持量15~20mg/kg/日 分2~3(空腹時:食前1時間以前または食後2時間以降)
二手目 〈処方変更〉トリエンチン塩酸塩の単剤投与:メタライト®250mgカプセル(トリエンチン塩酸塩)成人:初期量1500~2500mg/日,維持量750~1500 mg/日 分2~4,小児:初期量30~50mg/kg/日,維持量15~30mg/kg/日 分2~3(空腹時:食前1時間以前または食後2時間以降)
三手目 〈処方変更〉メタルカプターゼ®50mg・100mgカプセル(ペニシラミン)もしくはメタライト®250mgカプセル(トリエンチン塩酸塩)+ノベルジン®25mg・50mg錠(酢酸亜鉛水和物)の併用投与(用法・用量は一・二手目と同)
【肝型中等症】
一手目 メタルカプターゼ®50mg・100mgカプセル(ペニシラミン),またはメタライト®250mgカプセル(トリエンチン塩酸塩)の単剤投与(用法・用量は【発症前型・肝型軽症】と同)
二手目 〈処方変更〉メタルカプターゼ®50mg・100mgカプセル(ペニシラミン)もしくはメタライト®250mgカプセル(トリエンチン塩酸塩)+ノベルジン®25mg・50mg錠(酢酸亜鉛水和物)の併用投与(用法・用量は【発症前型・肝型軽症】と同)
【神経型・肝神経型】
銅キレート薬による神経症状の初期増悪があるため,酢酸亜鉛製剤を単剤で投与する。
一手目 酢酸亜鉛製剤の単剤投与:ノベルジン®25mg・50mg錠(酢酸亜鉛水和物)(用法・用量は【発症前型・肝型軽症】と同)
二手目 〈処方変更〉メタライト®250mgカプセル(トリエンチン塩酸塩)+ノベルジン®25mg・50mg錠(酢酸亜鉛水和物)の併用投与(用法・用量は【発症前型・肝型軽症】と同)
【肝型重症(肝硬変)・急性肝不全型】
一手目 〈肝移植を検討しながら〉メタルカプターゼ® 50mg・100mgカプセル(ペニシラミン)もしくはメタライト®250mgカプセル(トリエンチン塩酸塩)+ノベルジン®25mg・50mg錠(酢酸亜鉛水和物)を併用投与(用法・用量は【発症前型・肝型軽症】と同)
二手目 〈一手目に追加〉血液透析や人工肝補助療法を行い,改善がなければ肝移植の実施
肝移植後は,ウィルソン病の治療は不要である。
▶患者への説明のポイント
ウィルソン病は早期に診断すれば内科的治療が可能な先天性代謝異常症であるが,生涯にわたり服薬を続ける必要があることを説明する。治療により症状や検査所見が改善した後に問題となるのは,怠薬による悪化が多いため,服薬遵守の重要性をしっかり説明する。また,常染色体潜性遺伝の疾患であるため,同胞を中心とした家族内検索の必要性も必ず説明する。
【参考資料】
▶ 日本小児栄養消化器肝臓学会, 他, 編:日児栄消肝誌. 2015;29 (2):63-119.
https://jspghan.org/guide/doc/wd_gl2015.pdf?20230314
▶ 長尾雅悦:ウィルソン病. 私の治療. 2019-2020年度版. 猿田享男, 他, 監. 日本医事新報社, 2019, p730-1.
▶ European Association for the Study of the Liver:J Hepatol. 2012;56(3):671-85.
水落建輝(久留米大学医学部小児科学講座主任教授)