検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

看取り患者の急変[先生、ご存知ですか(91)]

登録日: 2025.09.25 最終更新日: 2025.09.25

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

お気に入りに登録する

死期がせまるにつれてみられる変化

在宅で患者を看取る場合には、医療スタッフと家族との間で十分な連携をとる必要があります。医療スタッフは家族に対して、死期がせまるにつれて起こりうる症状などを十分に説明し、死期が近くなってきたら、それを告げる必要があります。

また、家族は患者の不安定な呼吸状態や喘鳴などに驚いて、救急車を呼んでしまうことがあります。そうなると、患者は病院へ搬送されてしまいますから、終末期であっても在宅看取りはかないません。

私たちが、県内の訪問看護ステーションを対象に行った調査では、過去1年以内に、在宅看取りのはずであった患者が救急搬送された経験がある施設は7割もありました。その原因としては、家族による救急搬送の希望が最も多く、48.4%でした。したがって、家族は、死期がせまった際にみられる患者の変化を理解し、勇気をもって見守る必要があります。

予期せぬ急変

医療従事者は、死期がせまっている状態を把握しており、観察した内容をもとに家族にその旨を伝えます。チェーン・ストークス呼吸、意識レベルの低下、経口薬が飲めなくなることなどは、3日以内の死を予測できる状態です。

一方で、死期がそれほどせまっていないにもかかわらず、状態が急に悪化して死亡することがあります。

多施設を対象にした研究では、急変のパターンを、「急に状態が悪化して1~2日で死亡する」「主治医がこの時期に死亡することを驚いた死亡」「主治医が予期しなかった死亡」「身の回りのことを自分でできる状態から1週間以内の死亡」に分類しました。「急に状態が悪化して1~2日で死亡する」の頻度が16.8%と最も高く、全体では約3割でした。諸外国の報告では急変の発生頻度は約2割とのことです。したがって、決して稀ではなく、家族には「急変して亡くなることもあります」と伝えることが重要です。

急変の原因ですが、単施設で調査された研究によると、肺炎(誤嚥)、消化管出血、心疾患などが多かったです。最近行われた多施設を対象にした研究では、68%が原因不明とのことでした。この多くは病的変化かと思われます。しかし、何らかの診療行為が原因と考えられたり、外傷の可能性がある際には、調査が必要です。

虐待なども念頭に

近年は施設での看取りも増えています。施設の患者の看取りのために医師が訪れたところ、患者の体に外傷(皮下出血など)が複数認められたという例がありました。転倒による全身の打撲や、職員による虐待などの可能性があります。このような例では、何らかの異状があることになりますので、医師法に基づいた異状死の届出が必要です。

虐待には、身体的虐待だけでなく、患者の面倒をみないで放置するネグレクトもあります。看取りを前提とした患者が急変した場合には、あらゆる可能性を考えて対応しなければなりません。必要に応じて解剖(異状死の場合には法医解剖)を行って、死因を明らかにする必要があります。

看取りを達成できなかったことで、家族の悲嘆や落胆も強くなりますので、看取りに関わる医療従事者は、ぜひとも、家族に対するグリーフケアをお願いします。


1