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■NEWS 【欧州糖尿病学会(EASD)】GLP-1RA経口剤に伴うCVイベント減少はHbA1cや体重の変化と無関係?:RCT"SOUL"後付解析

登録日: 2025.09.25 最終更新日: 2025.09.25

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GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA、セマグルチド)経口剤は、注射剤と同様、心腎高リスク2型糖尿病(DM)例の心血管系(CV)イベントを抑制する。これはランダム化比較試験"SOUL"で明らかになっている(2025年3月米国心臓病学会[ACC]報告)。

ではこの作用は「試験開始時のHbA1cBMIの高低」、さらに「試験開始後におけるそれらの変動」に影響を受けるのか。この点を解析した後付解析が、915日からウィーン(オーストリア)で開催された「欧州糖尿病学会」(EASD)第61回学術集会において、Silvio E. Inzucchi氏(イエール大学、米国)から報告された。

「意外な結果」だったのではないだろうか。

SOUL試験概要】

SOUL試験の対象は、CV疾患高リスクの2DM 9650例である。日本を含む世界33カ国から登録された。これら9650例は、GLP-1RA経口剤群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均47.5カ月間観察された。

その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」(MACE)のGLP-1RA経口剤群におけるハザード比(HR)は、プラセボに比べ、0.8695%CI0.770.96)の有意低値となった(治療必要数[NNT]は「167/年」)。対照的に、2次評価項目である「複合腎イベント」リスクは、両群間に有意差を認めなかった。

EASD追加解析】

・「試験開始時HbA1c高低」とMACE抑制

今回報告された後付解析では、まず試験開始時「HbA1c」の高低が、GLP-1RA経口剤によるMACE抑制に及ぼす影響が検討された。するとその結果、試験開始時「HbA1cが低い」ほど、GLP-1RA経口剤における「MACE抑制は減弱」していた。

すなわち、対プラセボ群HRは、開始時HbA1c「>8.0≦9.0%」であれば「0.68」(95%CI0.540.84)だったものの、「>7.0≦8.0%」では0.89(同0.741.08)、さらにHbA1c≦7.0%」ならば、1.10(同0.851.43)だった(交互作用P=0.037。ただしHbA1cを連続変数として扱うと、交互作用は有意とならず。「統計をどう解釈するかという問題だ」とInzucchi氏)。

・「試験開始時BMI高低」とMACE抑制

一方、試験開始時の「BMI高低」は、GLP-1RA経口剤によるMACE抑制に何ら影響を与えていなかった(交互作用NS)。BMIではなく「体重」の中央値(86.0kg)の上下で2分しての比較でも同様だった(高低による有意な交互作用なし)。

「(GLP-1RAは)肥満度が高いほど有効かと思っていたがバイアスだった」とはInzucchi氏のコメント。GLP-1RAの減量作用に注目すれば、そう予想するのがむしろ当然だろう。

・「試験開始後の肥満・HbA1c改善」とMACE抑制

意外なデータはさらに続く。「試験開始後のBMI変化」と「MACE抑制作用」の関係である。

GLP-1RA経口剤群におけるBMI低下中央値(13週間経過時:0.34kgm252週間経過時:0.55kgm2)いずれの上下で2群に分けても、GLP-1RA経口剤による「CVイベント抑制作用」に差はなく、また有意な交互作用も認められなかった(BMIでなく体重で検討しても同様)。つまり「肥満改善の大小」(減量作用)と無関係に、GLP-1RA経口剤はMACEを抑制していた。

この結果はSELECT試験(対象は非DMCV高リスク肥満例)の追加解析と軌を一にする。同試験でもGLP-1RAによる減量の有無はMACEリスクに影響を与えていなかった(2024年6月米国糖尿病学会[ADA]報告)。

それだけではない。HbA1cでも同様の現象が観察された。すなわち「試験開始後HbA1c低下幅の大小」も、GLP-1RA経口剤による「CVイベント抑制作用」に影響を与えていなかった。

そうなると、代謝異常例に対するGLP-1RAMACE抑制作用は、何が主な機序なのだろうか―。さらなる解析が待たれる。

SOUL試験はNovo Nordisk ASから資金提供を受けて実施された。また今回報告著者14名中、5名は同社社員だった。


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