GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA、セマグルチド)経口剤は、注射剤と同様、心腎高リスク2型糖尿病(DM)例の心血管系(CV)イベントを抑制する。これはランダム化比較試験"SOUL"で明らかになっている(2025年3月米国心臓病学会[ACC]報告)。
ではこの作用は「試験開始時のHbA1cやBMIの高低」、さらに「試験開始後におけるそれらの変動」に影響を受けるのか。この点を解析した後付解析が、9月15日からウィーン(オーストリア)で開催された「欧州糖尿病学会」(EASD)第61回学術集会において、Silvio E. Inzucchi氏(イエール大学、米国)から報告された。
「意外な結果」だったのではないだろうか。
【SOUL試験概要】
SOUL試験の対象は、CV疾患高リスクの2型DM 9650例である。日本を含む世界33カ国から登録された。これら9650例は、GLP-1RA経口剤群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で平均47.5カ月間観察された。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞(MI)・脳卒中」(MACE)のGLP-1RA経口剤群におけるハザード比(HR)は、プラセボに比べ、0.86(95%CI:0.77~0.96)の有意低値となった(治療必要数[NNT]は「167/年」)。対照的に、2次評価項目である「複合腎イベント」リスクは、両群間に有意差を認めなかった。
【EASD追加解析】
・「試験開始時HbA1c高低」とMACE抑制
今回報告された後付解析では、まず試験開始時「HbA1c」の高低が、GLP-1RA経口剤によるMACE抑制に及ぼす影響が検討された。するとその結果、試験開始時「HbA1cが低い」ほど、GLP-1RA経口剤における「MACE抑制は減弱」していた。
すなわち、対プラセボ群HRは、開始時HbA1c「>8.0~≦9.0%」であれば「0.68」(95%CI:0.54~0.84)だったものの、「>7.0~≦8.0%」では0.89(同0.74~1.08)、さらにHbA1c「≦7.0%」ならば、1.10(同0.85~1.43)だった(交互作用P=0.037。ただしHbA1cを連続変数として扱うと、交互作用は有意とならず。「統計をどう解釈するかという問題だ」とInzucchi氏)。
・「試験開始時BMI高低」とMACE抑制
一方、試験開始時の「BMI高低」は、GLP-1RA経口剤によるMACE抑制に何ら影響を与えていなかった(交互作用NS)。BMIではなく「体重」の中央値(86.0kg)の上下で2分しての比較でも同様だった(高低による有意な交互作用なし)。
「(GLP-1RAは)肥満度が高いほど有効かと思っていたがバイアスだった」とはInzucchi氏のコメント。GLP-1RAの減量作用に注目すれば、そう予想するのがむしろ当然だろう。
・「試験開始後の肥満・HbA1c改善」とMACE抑制
意外なデータはさらに続く。「試験開始後のBMI変化」と「MACE抑制作用」の関係である。
GLP-1RA経口剤群におけるBMI低下中央値(13週間経過時:0.34kg/m2、52週間経過時:0.55kg/m2)いずれの上下で2群に分けても、GLP-1RA経口剤による「CVイベント抑制作用」に差はなく、また有意な交互作用も認められなかった(BMIでなく体重で検討しても同様)。つまり「肥満改善の大小」(減量作用)と無関係に、GLP-1RA経口剤はMACEを抑制していた。
この結果はSELECT試験(対象は非DMのCV高リスク肥満例)の追加解析と軌を一にする。同試験でもGLP-1RAによる減量の有無はMACEリスクに影響を与えていなかった(2024年6月米国糖尿病学会[ADA]報告)。
それだけではない。HbA1cでも同様の現象が観察された。すなわち「試験開始後HbA1c低下幅の大小」も、GLP-1RA経口剤による「CVイベント抑制作用」に影響を与えていなかった。
そうなると、代謝異常例に対するGLP-1RAのMACE抑制作用は、何が主な機序なのだろうか―。さらなる解析が待たれる。
SOUL試験はNovo Nordisk A/Sから資金提供を受けて実施された。また今回報告著者14名中、5名は同社社員だった。