GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、高リスク2型糖尿病例に対する心腎保護作用が証明されている。当初は注射剤のみだったGLP-1RAだが、その後セマグルチド経口剤が登場した。
9月15日からウィーン(オーストリア)で開催された欧州糖尿病学会(EASD)第61回学術集会では、ランダム化比較試験(RCT)"ATTAIN-1"が報告され、新たなGLP-1RA経口剤である「オルフォルグリプロン」の長期「減量」作用が明らかになった。同剤はセマグルチド経口剤に比べ、服薬時の制限が少ないのが特徴とされる。
Sean Wharton氏(マクマスター大学/ヨーク大学、カナダ)の報告を中心に、減量作用のみならず、心血管系(CV)イベント抑制作用を垣間見うるデータも紹介したい。
【対象】
ATTAIN-1試験の対象は、①「BMI≧30kg/m2」、または②「BMI 27~30kg/m2」かつ「肥満関連合併症」(後出)を認めた、3127例である。糖尿病例は除外されている。日本(322例)を含む、9カ国から登録された。
平均年齢は45歳。BMI平均は「37kg/m2」、腹囲径平均は112cmだった。特筆すべきは男性の割合である。「36%」に及んだ。「類似試験のいずれよりも多い」とWharton氏は指摘した。
「肥満関連合併症」で最多だったのは「高血圧」(39.5%)、ついで「脂質異常症」(39.3%)だった。また「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」合併率は「11.0%」だった(「脳心血管障害」は5%以下)。学会報告では触れられなかったが、hsCRPが高い(平均5.7mg/L)のも、この集団の特徴だろう(対象が同様のSELECT試験では中央値四分位範囲が「0.9~4.2mg/L」)。
【方法】
これら3127例は、3用量のGLP-1RA経口剤(オルフォルグリプロン6、12、36mg/日)群とプラセボ群にランダム化され72週間、二重盲検法で観察された。
【結果】
・体重と腹囲径
その結果、1次評価項目である「体重減少率」は、プラセボ群が「2.1%」だったのに対し、GLP-1RA経口剤群では「7.5~11.2%」と有意に大きかった。同様に「腹囲径」減少幅も、プラセボ群の「3.1cm」に対し、GLP-1RA経口剤群では「7.1~10.0cm」の有意高値だった。
なお減量の内訳を140例で調べたところ、GLP-1RA経口剤群では「減量」における「脂肪減少」が占める割合が73%。残りの27%は「除脂肪体重減少」による減量だった(DXA評価)。
・その他
「血圧」などの各種代謝指標も、GLP-1RA経口剤群で有意な改善を認めた。hsCRPも同様で、GLP-1RA経口剤群における低下率は「33.3~43.6%」と、プラセボ群の「14.7%」に比べ有意に大きかった。なお有害事象は、これまでのGLP-1RAと大きな差は観察されなかった。
・CVイベント
ではGLP-1RA経口剤により体重や代謝、炎症がこれほど改善された結果、CVイベントにはどのような影響があったのか。本試験はCVイベント抑制作用を検討するものではない。しかし重篤CVイベント(MACE)を有害事象として、独立委員会が検証の上、集計している。
すると72週間のMACE発生率は、プラセボ群が「0.4%」、GLP-1RA経口剤群も「0~1.0%」と、大差はなかった。臨床イベントを評価項目とした、大規模ランダム化試験の実施が待たれる(スタチンが「治療薬」として広く認められるようになったのも、「4S」や「WOSCOP」などの大規模RCTによる転帰改善作用の証明以降)。
本試験は報告と同時に論文が、NEJM誌ウェブサイトで公開された。
ATTAIN-1試験はEli Lillyから資金提供を受けて実施された。同社は本試験をデザインし、データ収集・解析も担当した。また論文執筆補助者らの費用も、同社が負担した。NEJM論文著者13名中、最終著者を含む6名は同社所属だった。