ハンドスプリントの実際~早く・正しく・美しく~
目次
2章 疾患別(症状別)スプリントの実際
1 骨折
1 橈骨遠位端骨折
2 中手骨,基節骨骨折
2 末梢神経損傷
1 手根管症候群
2 尺骨神経麻痺
3 橈骨神経麻痺
3 関節疾患/関節損傷
1 母指CM関節症
2 変形性関節症
4 腱
1 屈筋腱損傷
2 伸筋腱損傷
3 狭窄性腱鞘炎
5 拘縮
1 Dupuytren拘縮術後
2 軟部組織性拘縮
索 引
序文
手指の障害は,思った以上に頻発する疾患であり,日常生活に支障をきたすことが多くあります。その障害の中身は疼痛であったり,可動域の低下であったり,局所の腫れであったりします。外来受診の多い疾患は,手指にしびれをきたす手根管症候群,肘部管症候群,変形と疼痛に悩まされる変形性関節症〔へバーデン結節,ブシャール結節,母指手根中手関節(carpometacarpal joint;CM関節)症など〕,そして外傷(骨折,靱帯損傷など)があります。人間の身体は,障害(腫れや疼痛)が生じると可動域が低下し,自己防御を働かせ,同時に,損傷された組織の修復を開始します。どうしても使いたい人間の意思に反して,身体は自分を防衛するかのように,疼痛,腫れ,発赤を生じて人間に警告を発します。それでも使い続けると変形は進み,疼痛が長引くことになるのです。けがをしても必ず治るように, 人間の身体には自然治癒力があります。不便さもありますが,障害部位に必要な環境を整えれば,勝手に治ってくれるのです。その環境を整えてくれる方法のひとつがスプリントです。
本書の構成は,まずハンドスプリントの目的や進め方,プログラムなどを紹介しています。続いて,日常で出会うことの多い疾患(骨折,末梢神経疾患,関節疾患,腱損傷,拘縮)順に,疾患の概要,病期における治療上の目標,スプリントの目的,適応となるスプリント,スプリントプログラム,スプリント作製方法を解説しています。手に関わる医師,作業療法士の先生方に,スプリント作製のノウハウやコツを凝縮したものとなっています。
スプリントの必要条件のひとつに,装着時の快適さがあります。数日~数週間の装着が必要となるため,どうしても細部にこだわる必要があるのです。また,一度作ればそれで終わりではないのもスプリントの特徴です。環境が整い障害が改善してくると,身体は局所の腫れを軽減させ,発赤をなくし,周径が細くなってきます。必然的に,当初合っていたスプリントが合わなくなり(当たる,緩む),修正,再作製が必要となります。フィッティングの良いスプリントを装着していると長期間にわたる着用が可能となり,必ず症状は改善します。
本書を手にしたその日から,ぜひスプリント作製を始めてみてください。繰り返し作製していくと必ずうまくいくものです。そして,1人でも多くの患者さんの笑顔が取り戻せるように,頑張ってほしいと思っています。
2025年10月
田中利和
おわりに
OTになってから約40数年間,ハンドスプリントとともに歩んできました。私の臨床では常にハンドスプリントがストラテジーの中心にあり,いかに「早く・正しく・美しく」作製するかにこだわり続けてきました。そのような意識のもと作製されたスプリントは,対象者の生活に寄り添う形で機能してきたと自負しています。
私がまだ新人の頃,勤めていた病院でリウマチの高齢者の女性を担当したことがありました。彼女の両手は重度のムティランス変形を呈しており,物の把持などに困難を生じていました。そこで母指を他の指と対立位に固定するスプリントを作製して対象者に渡したのですが,その女性から「こんなものをつけていたら余計に手が使えない」と言われ,非常にショックを受けました。そのときは,「つけられるときにつけて下さい」と言うのが精一杯でした。しかしそれから数カ月後にその方から連絡を頂きました。
「あのスプリントが壊れてしまった。あれがないと手が使えない」と。
どうやら,受け入れは悪かったのですが,使い続けてくれていたようで,生活に役立っていたことに感動を覚えました。また,20年前に担当した別の対象者から「同じものを再度作製してほしい」とスプリントの作り直しの依頼を受けることもあります。その対象者の持ってきた手関節スプリントは,長年使い続けていたようでガムテープで修正されていました。ほんの一部かもしれませんが,スプリントがそれぞれの対象者の生活に寄り添い続けていたのかもしれない,と思うとスプリントの持つ力を再確認できます。そしてこのことが自分にとってスプリントを作り続ける原動力となっています。
現在, 保険診療の体制も大きく変化し,OTの臨床では限られた時間内に評価や治療,訓練を行わなければいけません。それゆえに,臨床現場では慣れていないと時間がかかるハンドスプリントの作製が敬遠されがちな現状も垣間見えます。しかしハンドスプリントのノウハウがあれば,治療訓練のストラテジーは大きく変わり,より効果的になるのです。
最後に本書を執筆する機会を与えてくださった田中利和先生,なかなか原稿が進まず,多くの時間を辛抱強くお待ちいただいた日本医事新報社の横尾直享氏には深く感謝いたします。
私をこの道に導き,成長を見守っていただいた故椎名喜美子先生に本書をお見せできなかったのがとても悔やまれますが,いまを生きる現役のOTに,本書を通じて椎名先生の匠の技を受け継いでいただき,多くの対象者に寄り添うハンドスプリントを作製していただければ望外の喜びです。
2025年10月
仲木右京
レビュー
酒井昭典 (日本手外科学会理事長/産業医科大学整形外科学教授)
実際的で日常臨床に役立つ,スプリント作製のバイブル『ハンドスプリントの実際~早く・正しく・美しく~』【書評】
本書は,手外科を専門とする整形外科医である田中利和先生の手外科臨床歴33年の知見と,匠の技をもつ作業療法士である仲木右京先生のハンドスプリント歴40年の経験をふんだんに盛り込んだ内容となっています。作業療法士はもとより医師や理学療法士にもぜひとも手に取って,ハンドスプリントの可能性を感じて頂きたいと思います。
手の疾患や障害は,直接的にその患者の日常生活に大きな影響を及ぼします。そのため,治療を専門的に進めていく必要性があり,ハンドスプリントはひとつの大きなストラテジーになります。対象疾患は,骨折,神経麻痺,関節疾患/関節損傷,腱損傷/腱鞘炎,拘縮などです。ハンドスプリントの目的は,固定による局所安静,アライメントの保持,関節可動域の改善,機能の補助・代償,筋の再教育など,多岐にわたります。したがって,スプリントは,治癒の促進だけではなく,炎症の鎮静化,痛みの軽減,障害された手の機能の補完や代償に貢献することができます。対象者の生活に寄り添い,生活の質を向上させることが可能です。
本書は,日常診療で遭遇する頻度の高い代表的な疾患別にスプリントの作製方法が記載されているので,読みやすく,また,実際に患者が来院した際に調べやすいものとなっています。疾患解説をコンパクトにまとめ,それを受けて,スプリントの目的,適応となるスプリントの作製手順とコツ,スプリンティングプログラム,フィッティングチェックのポイントについて,わかりやすく解説されています。素材の選び方,表面温度のチェック,トリミング,スムージング,フレアリングなど,まさにスプリントのレシピ本になっています。治療目的に適した美しいハンドスプリントを効率よく上手に作製したいとお考えの作業療法士や,治療する上で納得のいくスプリントを作製したいとお考えの医師や理学療法士にお薦めいたします。田中利和医師と仲木右京作業療法士のコンビネーションだからこそ生み出すことができた,臨床現場ですぐ活用できるノウハウが詰まった必携の一冊です。