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小児・成人・高齢者の発達障害における診断・鑑別・治療

子どもから高齢者まで,年齢の壁を越えて診る─発達障害診療の新しいかたち

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「かつての自分が知っていれば」と願った知識を,次の世代の実践力へ。
まずは,はじめにを読んでみて下さい。共感できた精神科医,心理職,教育者にとっての“実務の武器”となる一冊です。

●初診外来で信頼関係と診断精度を両立させる問診のコツ
●WISCの読み解き方と応用のポイント
●小児・成人・高齢者―年齢層ごとの発達障害診療アプローチ
●発達障害専門医だからこそ見える,他疾患への視座

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「かつての自分が知っていれば」と願った知識を,次の世代の実践力へ。
まずは,はじめにを読んでみて下さい。共感できた精神科医,心理職,教育者にとっての“実務の武器”となる一冊です。

●初診外来で信頼関係と診断精度を両立させる問診のコツ
●WISCの読み解き方と応用のポイント
●小児・成人・高齢者―年齢層ごとの発達障害診療アプローチ
●発達障害専門医だからこそ見える,他疾患への視座

佐々木博之 (熊本大学病院 神経精神科 特任助教/熊本県発達障がい医療センター長)
判型B5判 ページ数248 刷色2色部分カラー 版数第1版 発行日2025年06月20日 ISBN978-4-7849-1806-5 付録無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) 診療科
紙の書籍
税込6,270
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目次

第1章発達障害の定義と歴史
1 発達障害の定義
2 診断基準の歴史
3 自閉スペクトラム症(ASD)の歴史
4 注意欠如多動症(ADHD)の歴史

第2章診療の進め方および病歴聴取のコツ
1 入室時から診察開始まで
2 診察開始にあたって
3 具体的な聴取のコツ(患者本人編)
4 具体的な聴取のコツ(保護者編)
5 初診(1回目)から検査(2回目),告知(3回目)までの段取り
6 告知のコツ

第3章子どもの発達障害
1 自閉スペクトラム症(ASD)
2 コミュニケーション症群
3 知的発達症群
4 限局性学習症(SLD)
5 運動症群
6 注意欠如多動症(ADHD)

第4章大人の発達障害
1 子どもの発達障害と大人の発達障害
2 大人の自閉スペクトラム症(ASD)
3 大人の注意欠如多動症(ADHD)

第5章高齢者の発達障害
1 最初の報告
2 “very late-onset ADHD”と認知症
3 今後の研究

第6章WISCの読み取り方

1 WISCから何を得るか?
2 WISCの読み取り方
①VCI (言語理解指標)
②PRI( 知覚推理指標)
③WMI(ワーキングメモリー指標)
④PSI(処理速度指標)
⑤その他のコツ

第7章発達障害の治療
1 環境調整
2 疾病教育
3 薬物療法
①チック症
②自閉スペクトラム症(ASD)
③注意欠如多動症(ADHD)

第8章発達障害の鑑別疾患や近傍領域
1 統合失調スペクトラム症及び他の精神症群
2 双極症及び関連症群
3 抑うつ症群
4 パーソナリティ症群
5 強迫症及び関連症群
6 解離症群
7 食行動症及び摂食症群
8 神経認知障害群

序文

はじめに



筆者が発達障害診療に携わりはじめたのは2010年代初頭なので,かれこれ十数年が経過した。諸先輩方の外来陪席で学ばせて頂くところから始まり,国内留学先では児童思春期病棟にて学ばせて頂いた。また,同時期にペアレントトレーニングのロールプレイにスタッフとして介入させて頂くこともできた。振り返ってみると,最初の数年間の濃密さはかなりのものだったように思う。濃密ではあったが,どちらかというと受動的な時期でもあった。

陪席では,実際に外来診療をするのは諸先輩方である。児童思春期病棟では,外来主治医によって診断や方針がおおむね定まった患者をベテランの指導医のもとで診療にあたった。ペアレントトレーニングも,ベテランの指導者のもと,役割を伝えられて台本をみながらロールプレイした。実は本当に大変なのは,独り立ちしていくこのあとの過程であった。たとえば,外来診療では未知の患者(とその保護者)が初診として来院する。1人に何時間でもかけてよいならば,専門書を片手にすべての症状を網羅的に聴取することもできるかもしれない(病棟の主治医の頃は時間が十分あるので,それも可能であった)。しかし,外来では初診患者のあとには再診患者が何人も待っているのである。限られた時間で信頼関係を構築し,かつ,診断も精度の高いものとする必要があり,さらには様々な治療法の中から最適解を見きわめる必要もある。つまり,要領や効率性が求められるのであって,それまで濃密な経験をさせて頂いてはきたものの,それらでは補えない“まったく別のスキル”が必要とされたのである。

それを持ち合わせていないにもかかわらず,筆者は4~6年目にかけて,2つの病院で児童思春期外来の立ち上げ作業をすることとなった。コメディカルはいるが,児童思春期を専門とする医師は自分だけである。誰にも頼ることはできず右往左往し,当然失敗の連続であった。どのような失敗をし,それによってどのようなことが起きたのかは本書の中で述べたが,失敗するごとに「これを教訓にして同じ失敗を繰り返さないように」と自分に言い聞かせながら,なんとかこなしていた。そうこうしているうちに,しだいに効率と精度の両方が上がっていき,8年目あたりには試行錯誤もあまり必要なくなった。10年以上が経過した現在では,大抵の場合に通用する汎用性の高い,自分なりの診療スタイルができあがったので相当診療が楽になった。

初診を始めた頃の自分が今持っているノウハウを知ることができれば,どれほど助かったことだろうとよく考える。実際,若手たちから相談を受けると,悩んでいることはまさに過去の自分が困っていたことと同じなのである。これは筆者の周りだけでなく,日本全国で同様なのではないだろうか。ちょうどそんな折,日本医事新報社から本の執筆依頼があった。依頼内容は,過去に執筆したいくつかの論文を書籍化することだった。その依頼を聞いて思ったのは,自分の過去の論文をまとめるよりも前述のノウハウをわかりやすく紙面に起こしたほうが,よほど有益なのではないか,ということである。素直にそう伝えると日本医事新報社からも賛同頂いた。次に思ったのは,たかが十数年の自分ではなく,この道30年以上の大ベテランの先生が書かれたほうがよいのではないか,という点である。大ベテランの先生方は,自分とは比較にならないほどの経験値をお持ちであり,むしろ,自分はついこの前までそういった先生方の陪席で学ばせて頂いた身である。そんな自分がノウハウについて書くのは,正直,おこがましいとさえ思った。しかし,よくよく考えてみると,むしろ自分程度が書くからこそ意味があるようにも思えた。

2013年頃に診断基準がDSM-Ⅳ-TRからDSM-5に変更となったが,その目玉の1つが発達障害関連事項の一新であった。広汎性発達障害や高機能自閉症など,乱立していた診断名はASDとしてまとめられた。それまで臨床家を悩ませていたASDとADHDの併記の問題も解消された。臨床家にとっては当然の事実であった大人のADHDの存在も,正式に診断基準上で認められるようになった。DSMだけではない。2016年には発達障害者支援法が改正され,法的な立場から学校教育に新たな要求が提示されはじめた。筆者が汎用性の高い診療スタイルの構築を必死に模索していたのは,日本の発達障害関連事項が激動の変化をしていた,まさにその真っただ中だったのである。その激動の日々の中で構築してきたノウハウだからこそ,現在進行形で困っている若手にとってはちょうど「かゆいところに手が届く」内容になっているようにも感じる。
具体的な本書の特色は以下の①~④である。

① 初めて受診した患者を外来で診る際のコツや流れの解説(第2章)
② 発達障害を「小児」「成人」「高齢者」にわけた全年齢層での解説(第3章~第5章)
③ WISCの読み取り方のコツについての解説(第6章)
④ 発達障害以外の疾患について,発達障害を専門とする視点からの解説(第8章)

今回執筆しながら気づいたことがある。それは,これまでの執筆に比べてストレスが少ないという点である。これまでの執筆の多くは論文だったが,論文には英単語にして3,000~4,000word以内という制限がある。そのため言いたいことをすべて書くことはできず,重要なことだけに絞る必要がある。しかし,今回は論文ではなく書籍,しかも単著なので,字数の制限を設けずに自分の中にある情報を自由に提示することが可能であった。これが予想以上にストレスフリーだったのである。論文の場合,もう1つの制約がある。それは,自分の意見として提示できるのは,その研究で証拠が得られた事柄についてだけなのである。「経験上,絶対間違いない」と自分の中で存在している事実であっても証拠を示せなければ書けないし,仮に書いても査読の段階で「それはあなた1人の意見であり根拠がない」と削除されるだけである。外科ならば「画像上,10cm大の腫瘍が……」,内科であれば「採血上,白血球が5万/μL以上であり……」のように,証拠となる客観的指標(画像や検査数値)を提示しやすい。しかし,精神科の「幻聴を訴えており……」や「気分が落ち込んでおり……」は客観的指標として提示しにくい。つまり,精神科は他科に比べて論文に必要な証拠を挙げにくいのである。しかし,実臨床では証拠を示すことは難しいがほぼ間違いないという事柄は山ほどあり,むしろそれらを知っているがゆえに,ベテランの諸先輩方は上手に診療をこなせているのである。言い換えると,精神科には論文という形にはなかなかできない多くの経験則やノウハウが,日の目を見ずに埋もれているということである。今回は,そういった事柄を可能な限り活字に起こしたつもりである。



ある日,知り合いの院長先生と本書について雑談していたら「じゃあ,うちの病院は10冊買ってあげる」と言って頂いた。それを横で聞いていた研修医がすかさず「じゃあ,その印税で飲みに連れて行って下さい」と述べた。印税生活という言葉があるくらいなので相当収入になるイメージなのだろう。「うん,いいよ」と答えたが,よくよく考えると10冊購入して頂いても,その印税では一次会の飲食代も払えない。このときに「ああ,そういうことなんだな」としみじみ思った。こういった専門書の読者層はごく一部の医療者や教育関係者なので,ベストセラー小説とは違って,収入という面では大したことはない。
これまで様々な大先輩方の書籍で勉強させて頂いたが,おそらく,その先輩方も収入のためではなく,「知識を共有することで困っている患者たちに少しでも益があれば」という思いで書かれたのだろう。
本書の情報の一部でも患者の益になれば幸いである。

2025年5月
熊本大学病院 神経精神科 特任助教
熊本県発達障がい医療センター長
佐々木 博之

レビュー

朴 秀賢 (新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野教授)

【書評】『小児・成人・高齢者の発達障害における診断・鑑別・治療』児童精神科医から一般精神科医まで,すぐに役立つマニュアル

精神科医療の現場では,発達障害患者の受診が増加の一途をたどっている。児童精神科医のみならず一般精神科医にとっても,発達障害患者の診療は今後ますます重要となるであろう。
しかし,残念ながら一般精神科医には発達障害患者の診療を忌避する人が少なくない。その一因として,発達障害の教科書の大部分が,児童思春期の患者を対象としていることが挙げられる。一般精神科医が発達障害の成人患者の診療で困ったとき,すぐに役立つ教科書がほとんどないのである。
本書は,評者の前の職場,熊本大学病院神経精神科において発達障害患者の診療に長年従事してきた,豊富な臨床経験を有する著者によって執筆された。現場感覚が反映された内容と,明快でわかりやすい記述,見やすいレイアウトが魅力的な好著である。特に,第3〜5章では,児童思春期から高齢者まで,年代別に発達障害の特徴を解説している。ここが類書にはない,本書の最大の特徴である。
また,発達障害患者の診察は長時間を要することが多く,一般精神科医を発達障害患者の診療から遠ざける一因となっている。しかし,著者は短時間での適切な診療を実現していた。なぜそのようなことが可能なのか評者は不思議に思っていたが,第2章を読むと著者の診療のコツの一端を理解することができた。本書は,児童思春期の患者をベースに記載してあるが,成人患者にも十分に応用可能な内容であり,一般精神科医にとっても,臨床現場で困ったときにすぐ役立つマニュアルとなるであろう。
評者にとって非常に勉強になったのは,第6章「WISCの読み取り方」である。精神科医にとってこれほどわかりやすく,明快で,臨床現場ですぐに役立つ知能検査の解説はほかにはないと思われる。
本書は著者の熱意が凝縮され,現場感覚が存分に反映された一冊である。ノウハウ型専門書として,精神科医のみならず発達障害に関係するすべての職種の方々にとって,臨床現場ですぐに役立つ内容となっている。