長引く腰痛はこうして治せ!【電子版付】
患者の痛みから見えてくる腰痛の見極め方
異常所見はないのに痛みが…そんな腰痛を診る・治す!
目次
第1章 腰痛診療は進化したか?―現代腰痛診療の落とし穴―
第2章 腰痛診療の新展開
腰痛の実態と診断法
腰痛治療の新しいアプローチ:腰部痛に対するエコーガイド下fasciaハイドロリリース
第3章 画像では診断しにくい発痛源へのアプローチ
・腰椎疾患
見逃されやすい神経根性腰臀部痛
椎間関節性腰痛
椎間板性疼痛
・仙腸関節障害
仙腸関節障害の診断とブロック治療
仙腸関節機能障害の画像診断と手術(SPECT/CTを中心に)
リハビリテーション①:AKA-博田法
リハビリテーション②:Swing-石黒法
・臀部の靱帯由来の痛み
臀部の靱帯由来の痛みに対するアプローチ
・絞扼性神経障害
臀部での絞扼性神経障害
上臀皮・中臀皮神経障害の治療
第4章 アスリートの腰痛
アスリートの腰痛に対する評価・診断
アスリートの腰痛に対するリハビリテーション
序文
腰痛治療が大きく変わりつつあります。それは,超音波診断装置(エコ―)の進歩により,筋肉や靱帯から発する痛みが少なくないことがわかってきたからです。
これまで,腰下肢痛は腰部神経根の圧迫によるものが多いと考えるのが一般的でした。その原因の一端は,腰下肢痛を専門としてきた整形外科学教育にあったように思われます。X線の発見で外傷学が飛躍的に進歩したことから,整形外科学ではX線画像が大きな位置を占めるようになり,結果として,画像に映らない骨周辺の筋や靱帯は軽視されることになりました。その後にCTやMRIが開発され,軟部組織の描出が可能になったものの,明らかな組織変化が見られない場合には異常を検出できませんでした。
そこに技術革新で画像解像度が飛躍的に向上したエコーが登場し,筋膜や末梢神経などの組織が綺麗に描出されるようになったため,腰痛治療が整形外科だけでなく総合内科,ペインクリニックにも広がりをみせるようになりました。特に,僻地で運動器疾患を治療せざるをえない状況に置かれていた総合診療医が,エコー画像を見ながら先入観を持たずに,腰臀部の筋膜や靱帯,神経周囲に生理食塩水や局所麻酔薬を注入したところ,軽快する慢性腰痛が少なくないことがわかってきたのです。何と言っても,患者さんとエコー画像を見ながら,被ばくせずに発痛源と治療効果を確認できる手法は患者さんを納得させるに十分な力があり,軽快する腰痛症例を積み重さねるなかで,これまでの常識とは異なった,新たな視点からの腰痛の診断・治療体系が生み出されつつあります。
さらに,このエコーを用いた手技のおかげで臀部痛の病態も明らかにされつつあります。これまで臀部中央の痛みというと坐骨神経痛の部分症状と考えられてきましたが,上・下臀神経の臀部での絞扼性障害が少なくないこともわかってきました。また,仙腸関節や仙結節靱帯,上臀皮神経,椎間関節,椎間板も画像診断では見逃されやすい腰下肢痛の重要な発痛源です。
今,長引く腰痛にどのように対処していくかが問われています。画像が優先され,異常が見つからなければ原因不明の腰痛とされ,改善しない痛みに対してオピオイド系の強い薬が開発され,集学的治療が叫ばれます。しかし,画像所見に乏しくとも触れば発痛源のわかる腰臀部痛が多くあることを知って頂きたいと思います。そして発痛源に対処する治療こそ根本的な治療であり,腰痛の患者さんが満足する結果をもたらすものと考えます。
本書では,典型的な椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症による腰下肢痛(神経根圧迫による)への言及が少ない印象をもたれると思います。それは,これらの疾患については多くの書籍が既に発刊されており,本書では「実際は少なくないが,画像診断がされにくいために見逃されて難治性腰下肢痛の原因になっている病態」に力点を置かせて頂きました。今回執筆をお願いした先生方は,“治療効果は患者さんの評価がすべて”との視点で,腰痛治療で成果を上げておられるスペシャリストの方々です。その診断と治療のコツを披露して頂くことで,長引く腰痛に対する新たな視点を読者の方々に提供できるものと確信しています。
2020年2月
JCHO仙台病院 院長
村上栄一
レビュー
山田 宏(和歌山県立医科大学整形外科学講座 教授)
新しい腰痛治療の担い手となるための必読書
本書は現代医療における腰痛診療の問題点を再認識させてくれる良書である。患者が示す様々な訴えに真摯に耳を傾け、詳細に診察所見を取ることで、レントゲン、CTやMRIなどの画像診断に頼らずとも、痛みの原因は見えてくることを筆者は強調する。 ─腰痛のうち、原因が特定できる「特異的腰痛」は15%で、残りの85%は痛みの原因がわからない「非特異的腰痛」である─〔資料出所:What can thehistory and physical examination tell us aboutlow back pain? JAMA 1992;268(6):760-5〕。この今でも実臨床の現場を席巻している「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」の概念が世に出たのは実に四半世紀以上も前のことである。新知見が次から次へと解明され、日々めまぐるしく進化する医学医療の世界で、この既成の概念が真実であり続けることは絶対にないと固く信じてきた私にとって、まさに「我が意を得たり」の本と言える。 「画像異常は必ずしも症候性を意味しない」ことは、医学界の常識である。にもかかわらず、「画像で異常が認められないから、科学的に痛みの原因を説明できない」という誤った固定観念に長年振り回されてきた医療従事者は、本書を熟読することで症候学の重要性を再認識し、明日からの日常臨床に活用しなければいけない。 また本書のトピックスとして、今後、腰痛治療の新しい世界を切り拓くと期待される運動器超音波診療に多くの誌面が割かれている。問診と診察所見から推察される痛みの発生源をエコーで探索し、ハイドロリリースや各種ブロック療法による機能診断で責任高位を同定する新しい治療アルゴリズムは必読である。X線診断できる腰痛疾患より、超音波診断できる腰痛疾患のほうが圧倒的に多いという事実は、読者にきっと衝撃を与えるであろう。 いずれにしても、本書の読者がリサーチマインドを持った明日からの新しい腰痛治療の担い手として一人でも多く育つことで、患者に触れない、画像からしか診断できない医者が医療現場から消えていくことを祈念している。
正誤表
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
図6の左側
〈誤〉(ニューテーション)→〈正〉(腸骨前傾+仙骨後傾)
図6の左側
〈誤〉腸腰靱帯,長後仙腸靱帯の緊張→〈正〉骨盤全体としては過前傾だが,腸骨前傾+仙骨後傾のため長後仙腸靱帯が緊張する
図6の右側
〈誤〉(カウンターニューテーション)→〈正〉(腸骨後傾+仙骨前傾)
図6の右側
〈誤〉腸腰靱帯,仙結節靱帯の緊張→〈正〉骨盤全体としては後傾だが,腸骨後傾+仙骨前傾のため仙結節靱帯が緊張する