外科感染症診療マニュアル【電子版付】
『まさにこの1冊が欲しかった!』
目次
第1章 総論
1. 外科患者の感染症診療ロジック
2. 術後患者の発熱の診断アプローチ
3. SSIと予防戦略
4. 周術期抗菌薬の使い方
第2章 術後患者でよくみられる発熱の原因(感染症)
1. 中心静脈カテーテル関連血流感染症
2. 末梢静脈カテーテル関連血流感染症
3. 院内肺炎/誤嚥性肺炎/人工呼吸器関連肺炎
4. 尿路感染症(含むCAUTI)
5. クロストリジウム・ディフィシル感染症
第3章 術後患者でよくみられる発熱の原因(非感染症)
1. 結晶性関節炎(痛風/偽痛風)
2. 薬剤熱
第4章 手術別の感染症
1. 一般外科
①胃手術における感染症
②結腸・直腸手術における感染症
③肝胆膵脾手術における感染症
2. 乳腺外科
3. 呼吸器外科
4. 婦人科手術
5. 心臓血管外科
①胸骨創感染と縦隔炎
②人工血管グラフト感染
6. 脳神経外科
7. 泌尿器科
8. 整形外科
第5章 外科手術が必要となる疾患と抗菌薬治療
1. 急性虫垂炎
2. 消化管穿孔
3. 胆囊炎
4. 壊死性軟部組織感染症
第6章 外科患者のワクチン
1. 脾臓摘出術後
2. インフルエンザワクチン
第7章 抗菌薬の投与方法
序文
本書は,現場で働く外科の先生方およびAST(抗菌薬適正使用支援チーム)に携わる医師・薬剤師・看護師を対象に作成しました。
近年では,感染症関連の優れた書籍が多数出版されており,感染症は大分勉強しやすくなりました。しかし,外科感染症に特化した書籍はまだ多くなく,「実践的でユーザーフレンドリーなマニュアルが欲しい」という現場のニーズに応える形で本書の企画がスタートしました。
静岡がんセンターでの感染症コンサルテーションの多くは外科の先生方からの紹介です。紹介理由は「手術後の発熱」で,手術部位感染(surgical site infection:SSI)が原因のことが最も多いのですが,当然,術後の発熱=SSIではありません。
カテーテル関連血流感染症や膀胱カテーテル関連尿路感染症など,あるいは薬剤熱,深部静脈血栓症といった非感染症が原因のことも少なくありません。
本マニュアルでは,外科感染症のスタンダードな考え方をまとめました。当院の感染症内科は外科のレジデントの先生方もローテーションするため, 日頃より, 外科医が何を疑問に思い, 何を知りたいかをヒアリングし, 参考にさせて頂きました。また,各論においては感染症関連の他書では触れられることが少ない診療科別および術式別の感染症についても記載しました。そのため,本書は現場感を感じ取って頂けるような仕上がりになっており,ユーザーにとって受け入れやすい内容になっていると自負します。
本書の執筆は静岡がんセンター感染症内科の現役メンバーとOB/OGで担当しました。執筆者全員が病歴と身体所見を重要視する共通のフィロソフィーを持っているため,全体に“静がんらしい”統一感を出すことができました。さらに,コラムを経験豊富な静岡がんセンターの現役およびOBの外科の先生方に執筆依頼し,自身の経験談,症例に対する思いをコメントして頂きました。
なお,本書は静岡がんセンターの経験に基づくものであり,すべての施設に適応可能ではないプラクティスも含まれることはご承知下さい。
本書が, 感染症のマネジメントで悩む外科の先生方やASTメンバーの感染症診療の一助となり,そして何より感染症で苦しむ患者さんたちに少しでも還元できれば幸いです。
2018年10月
静岡県立静岡がんセンター 感染症内科
伊東直哉・倉井華子
レビュー
岡 秀昭(埼玉医科大学総合医療センター総合診療内科・感染症科准教授)
すべての外科医に向けた画期的なマニュアル
巻頭の絹笠祐介先生による推薦文がこの本の真の価値と意義を的確に表現している。「(大曲貴夫先生から倉井華子先生へと引き継がれた)感染症チームの存在は、我々(評者注:外科医)が手術を行う上で必須でした」「是非本書を参考にして、患者さんのためにも、より良い手術成績をめざして頂きたく思います」。感染症内科医の立場で、外科医からこのような賛辞を頂けることは、これ以上なくとてもうれしいことではなかろうか。 「血液培養を採って下さい」「この患者さんにカルバペネム系抗菌薬は必要なのでしょうか?」。このような介入によって、しばしば、感染症内科医、AST、ICTは多忙な外科医にとって煙たい存在と思われてしまうこともある。しかし感染症内科医と外科医の本来の目標は同じであり、患者さんの感染症をできれば予防し、生じれば速やかに診断し、的確に治療することに他ならない。もし静岡がんセンターのような感染症チームが存在すれば、外科医は本業である手術に集中でき負担も軽減されるのである。 ところがこのような成熟した感染症チームが存在する病院は日本ではまだ稀有であろう。本書はそのために生まれた新しい位置づけの画期的なマニュアルだ。忙しい外科医の先生方が理解しやすいように意識されて編集されていることがわかり、編者の熱い思いが伝わる。各項目が大変に読みやすく、簡潔に、箇条書きでまとめられているが、ぜひすべての外科医の先生にまず第1〜3章を通読して頂きたい。感染症内科医やAST、ICDと思いが通じやすくなるはずだ。それから各専門領域を読み進めてみてほしい。そうすれば、静岡がんセンターのような感染症チームがなくても、それなりに外科医の負担が軽減され、より良い手術をめざして執刀に専念できる状況の一助となるはずだ。 しかし本書の最大の特徴は第4章の「手術別の感染症」と第6章の「外科患者のワクチン」ではないかと思う。各領域別感染症についてこれほど分野別に簡潔にまとめた感染症マニュアルは初めてだ。また外科患者のワクチン接種についても重要であるがしばしば忘れられてしまう。これらの項目において常に拡大、アップデートを心がけている拙著の『感染症プラチナマニュアル』も先手を取られてしまった感がある。そして第4章や第6章は外科医ではなく、感染症内科医や病院総合医にも有用な内容であろう。まだまだ書きたいことが尽きないが、本書を多くの外科医を中心に感染症に関わる他職種に広くオススメしたい。
正誤表
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
表①「閉塞性肺炎・膿胸に対する治療」,表②「縦隔炎に対する治療」内のピペラシリン・タゾバクタムの商品名
〈誤〉→〈正〉
誤:ペントシリン®
正:ゾシン®
2行目
〈誤〉→〈正〉
誤:その後の細胞性免疫低下
正:その後の液性免疫低下
表5 CDIの治療(初回)
〈誤〉→〈正〉