肺エコーのABC【電子版&動画付き】
肺は超音波で聴け!
70本超の動画とポイントを絞った解説で、肺エコーのキモを教えます!
目次
はじめに
肺エコーの歴史
肺エコーの基本
Q 1 超音波とは何ですか?
Q 2 なぜゼリーが必要なのですか?
Q 3 肺エコーで用いる超音波の設定はどうすればよいですか?
Q 4 リニア型プローブの特徴を教えてください
Q 5 コンベックス型プローブの特徴を教えてください
Q 6 セクタ型プローブの特徴を教えてください
Q 7 マイクロコンベックス型プローブの特徴を教えてください
Q 8 肺エコー描出において, 決まったプローブの持ち方はありますか?
Q 9 プローブはどのように当てていけばよいのでしょうか?
Q 10 フリーズとは何ですか? どのような意味があるのでしょうか?
Q 11 ゲインの設定について教えてください
Q 12 視野深度(デプス)について教えてください
Q 13 フォーカスについて教えてください
Q 14 オリエンテーションマーカーとインジケーターの役割は何ですか?
Q 15 画像描出の方位には決まったルールがありますか?
Q 16 肺エコー実施時に気をつけたいアーチファクトを教えてください
Q 17 胸壁の正常構造はどのようになっていますか?
Q 18 bat signとは何ですか?
Q 19 肋骨の描出のコツを教えてください
Q 20 肋軟骨の描出のコツを教えてください
Q 21 胸骨はエコーでどのように見えますか?
Q 22 lung slidingとは何ですか?
コラム ─ 自分の手でできる! bat signとlung sliding
Q 23 sea shore signとは何ですか?
Q 24 lung pulseとは何ですか?
Q 25 Mモードでlung pulseを観察するとどのようになりますか?
Q 26 A-lineとは何ですか?
Q 27 A-lineができるしくみを教えてください
Q 28 B-lineとは何ですか?
Q 29 B-lineの見えるしくみを教えてください
Q 30 comet tail artifactとは何ですか?
Q 31 curtain signとは何ですか?
コラム ─ curtain signの先進部は横隔膜ではない!
Q 32 spine signとは何ですか?
コラム ─ 胸筋の見え方とPECSブロック
コラム ─ 傍脊椎ブロック描出のコツ,ご紹介します
コラム ─ 肋間神経ブロックでは局所麻酔薬中毒に注意!
気 胸
Q 33 気胸を診断するための描出部位はどこが適切ですか?
Q 34 気胸を否定できる所見とは何ですか?
Q 35 stratosphere signとは何ですか?
コラム ─ ゼリーでできる! stratosphere sign
コラム ─ バーコードサインと呼ばないで?
Q 36 気胸を確定できる所見とは何ですか?
コラム ─ lung pointではなくheart point?
Q 37 皮下気腫はどのように見えますか?
コラム ─ 中心静脈穿刺では穿刺前後に気胸もチェック!
Sonographic interstitial syndrome
Q 38 multiple B-linesとは何ですか?
Q 39 diffuse multiple B-linesとは何ですか?
Q 40 sonographic interstitial syndromeとは何ですか?
コラム ─ ”間質症候群”の名称はなくなる⁉ 間質症候群の名前の由来
Q 41 肺炎,心原性肺水腫,ARDSの鑑別方法を教えてください
コラム ─ なぜ“間質”でないのか:放射線科の視点
コラム ─ なぜ“間質”でないのか:呼吸器内科の視点
胸 水
Q 42 quad signとは何ですか?
Q 43 sinusoid signとは何ですか?
Q 44 胸水の量の評価方法を教えてください
Q 45 胸水の質の鑑別方法を教えてください
Q 46 エコーを利用した胸腔ドレーンの留置方法を教えてください
Q 47 無気肺はどのように見えますか?
Q 48 無気肺のjellyfish signとは何ですか?
横隔膜
Q 49 zone of appositionとは何ですか?
Q 50 横隔膜機能の評価(Tdi,TF,TR)について教えてください
Q 51 横隔天蓋のexcursion法とはどのような評価法ですか?
Q 52 横隔神経麻痺について,小児での評価方法を教えてください
Q 53 横隔神経麻痺について,EXdiやTFは実際の麻痺例ではどのようになっていますか?
胸壁腫瘍・肺炎
Q 54 肺エコーで胸壁の病変はどのように観察されますか?
Q 55 胸膜の病変はどのように観察されますか?
Q 56 肺エコーの血流診断にはどのようなものがありますか?
Q 57 肺エコーの血流診断は何に役立ちますか?
Q 58 肺の造影エコーとはどのようなものですか?
Q 59 単純肋骨骨折や病的肋骨骨折はどのように観察されますか?
Q 60 胸膜に接する肺内病変(胸膜下病変)はどのように観察されますか?〈良性病変〉
Q 61 胸膜下病変はどのように観察されますか?〈悪性病変〉
Q 62 肺エコーにおいてconsolidationやair bronchogramはどのように観察されますか?
小児の肺エコー
Q 63 小児での肺エコーは成人とどのように違うのですか?
Q 64 小児の肺炎診断において,X線ではなくエコーでフォローするメリットを教えてください
Q 65 どのような場合に,肺炎を疑って超音波スクリーニングをすればよいですか?
Q 66 小児で肺炎を疑わせるようなエコー所見とはどのようなものですか?
Q 67 小児における肺炎のフォローアップの実際を教えてください
Q 68 慢性肺疾患のフォローアップにエコーは有効ですか?
肺エコーを含むプロトコール
Q 69 FAST,E-FASTとは何ですか?
Q 70 BLUEプロトコールとは何ですか?
Q 71 FALLSプロトコールとは何ですか?
Q 72 SESAMEプロトコールとは何ですか?
コラム ─ 肺エコーを手軽に学べる講習会
序文
世の中には、心エコー、頸動脈エコー、甲状腺エコー、乳腺エコーなど、各臓器に特化した名前のついた超音波手法が存在する。しかし、心エコーがあるのに対し、一蓮托生で結ばれる“肺”の超音波手法、いわゆる“肺エコー”という名前が浸透してきたのはきわめて最近になってのことであろう。今、肺エコーは急速に社会的地位を確立し、初期研修医レベルで実際に利用する者が出始めるなど、爆発的な広がりを見せている。
筆者が肺をエコーでみる必要性に駆られたのは、 救命センターに所属し、 ドクターヘリ活動などでも遭遇する外傷の初期対応であった。『外傷初期診療ガイドライン(JATEC)』においては、ショックの鑑別のために、外傷で頻度の高い出血性ショックと閉塞性ショックを診断するためのFAST(focused assessment of sonography for trauma)というプロトコールがある。プローブを当てて、胸腔や腹腔など体腔内の出血を検索し、また心タンポナーデにもあたりをつけ、循環不全の重要な原因を探して即座に対処する。FASTは「出血があるのか?」という問いに対して“YES or NO”の二者択一の答えを提供してくれるパワフルな手法で、循環血液量減少性ショックと、閉塞性ショックの心タンポナーデのほとんどを見出してくれる。しかし、外傷時に同様に遭遇する緊張性気胸に関しては、JATECでは視診、聴診、触診、打診など評価者の主観に基づく判断で迅速に対応することが求められている。とはいえ、肥満患者などではそもそも聴診も打診も所見としてはっきりしないことも多々ある。
当時、胸腔ドレナージの経験が浅い自分にとっては、自分だけの考えに基づいて治療を決定することにどうしても自信が持てず、誰の目にも明らかで客観的な、しかもその場にいるスタッフの誰もが同時に情報を得てゴーサインをもらえるようなツールが欲しかった。たとえば、はじめは循環異常をきたさない単なる気胸が経時的に悪化して緊張性気胸に至ることもある。そこで、「FASTでおなかを見るついでに、超音波で気胸があるかないかもみられないのだろうか?」と考えるようになった。しかし、当時は“気胸”“エコー”など日本語で検索しても論文が見当たらなかった。ベテランの救急医なら“五感”で判断し、「気胸が予想される患者で陽圧換気が必要なら予防的なドレーンもあり」というスタンスで、「X線で緊張性気胸を撮影するのは、自分がおバカな医者だという証拠写真を残すに等しい」という風潮であった。つまり、他の臓器では当たり前に行われる画像診断プロセスの中で、肺だけは「超音波で観察する」というオプションが存在していなかったのである。
そこでまず、自然気胸等の手術のために病院に紹介されてくる場合など、病棟に直接入院させてもよい患者を、「入院検査一式などを出す手伝いをします」という名目で、わざわざ救急外来で引きとめることにした。術前のX線やCTが揃っている“答えがある状態”で、超音波で左右を見比べるのが目的である。しかし、短い時間で所見をじっくりとることはできず、しかもそのような患者が頻繁に来院するわけでもないため、きわめて効率が悪かった。
次に取り組んだのが、肺の手術を行う患者での経過観察であった。手術前に肺を超音波で観察し、開胸している最中、洗浄液が入っている状態、傷を閉じる前、と見比べていると、胸膜の動きが変化すること、気胸の際にはA-lineという多重反射が際立つことなどがようやく理解できるようになった。そこで、多重反射のA-lineに対して「“ミルフィーユサイン”と名づけようか?」など同僚と相談していた頃、ある救急医とのメールのやり取りの中で「海外ではずいぶん前から気胸のエコーについての論文があったはずだ」との意見をもらった。これがきっかけで、LUCI(Lung Ultrasound in the CriticallyIll)の大家であるLichtensteinの論文と出会うことになった。「自分が発見した!」と考えていた所見のすべて、それどころかそれ以外の肺の詳細な観察に対しても、彼はほとんど名前をつけ終えるほど“lung ultrasound”というものが確立されていたことを知り、落胆どころか感嘆を覚えたことは今でもはっきりと覚えている。その点で残念な気持ちはあったものの、彼の論文や著書は私の超音波を“単なる我流”から裏づけのある系統的なものに変えてくれ、救急で肺エコーにいそしむ生活はより充実していった。こうして書籍や講演会で紹介する機会が増え、肺エコーの書籍なども刊行するに至る。
そんな折、北海道で開かれた日本超音波学会の学術集会において急性期超音波と肺エコーを紹介する講演を行った際に、札幌医科大学大名誉教授の名取 博先生に呼び止められた。わが国では、筆者が生まれた頃から“呼吸器超音波”が行われてきたことを聞かされ、またも感嘆することとなった。
たまたま必要に駆られて実施した肺エコーが、 その後、 東西両横綱とも言えるDr.Lichtenstein、名取先生をはじめ、全国でLUCIや呼吸器超音波に携わる人々との出会いをもたらしてくれた。結局、肺エコーで新しい知見を見出したのでもなく、たまたま肺に関する超音波の存在を世に知らしめるきっかけとして「“小さな起爆剤”くらいにはなれたのかなぁ」というのが現在の心境である。温故知新の諺の通り、今でも目新しいようなことが、過去のLUCI、呼吸器超音波で既に示されており、学ぶべきことは多い。同時に、世界でも並行して新しい肺エコーの取り組みが進行している。
自分自身も追いつけないスピードでめまぐるしく世の中が変わっている中、本書では肺エコーの新しい情報をお伝えできれば幸いである。
レビュー
稲田英一(順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座主任教授)
エコープローブを思わず胸壁に当てたくなる本
10数年も前のことになるだろうか。「超音波機器を聴診器のように使いこなすべきである」という話を聞いたことがある。超音波機器は、多くの診療領域において使用されている。しかし、編者が述べているように、肺エコーの歴史は古く60年近くも遡ることができるものの、肺エコーに関するまとまった書籍はなかった。近年の肺エコーの広がりを考えれば、本書はまさに今求められているものである。 本書では、初心者にもわかりやすく肺エコーの基本について多くの図や写真と共に解説されている。電子版の動画も参照すれば、さらに理解しやすくなる。72のクエスチョンに対して、箇条書きにされたポイントと、豊富な図を含む解説、そして描出のコツとピットフォールからなっている。最初の32のクエスチョンは、肺エコーの基本についてのものであり、超音波プローブの当て方や持ち方、最適な描画を得るための調整などについて、初心者にも理解しやすく解説されている。肺エコーは、「聴診のかわりに超音波で聴くにすぎない!」「“ざっくり全体像把握”と“気になる所の詳細観察”、この2段階で考えよう」といった記述を読むと、肺エコーを親しみやすいものに感じられる。欧文の名称も多いが、読み進めるうちに画像や動画の視覚情報と合体して、すんなりと記憶できる。 本書のタイトルは「肺エコー」だが、内容は、肺の病変(肺炎、間質症候群、肺水腫、急性呼吸促迫症候群など)だけでなく、胸壁、肋骨、胸膜(腫瘍や肥厚)、胸腔(気胸、胸水、膿胸)、肺血流の評価にまで及んでいる。エコーを理解するための教育法や、肋間神経ブロックや傍脊柱ブロックに関するコラムや、胸腔穿刺や生検などの治療に関する記載も有用である。 あなたも本書を読めば、早速明日にはエコープローブを胸壁に当てたくなること間違いなしである。
正誤表
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
〈誤〉→〈正〉
p91の図1,図2に誤りがございました。修正したPDFをこちらからダウンロードできます。
修正点は以下の通りです。
図1:
左上に表示されるべきオリエンテーションインディケーターが逆側に表示されていたのを修正しました(「lung slidingあり」「lung slidingなし」の矢印が指す位置は変わりません)。
図2:
lung slidingあり→lung slidingなし
lung slidingなし→lung slidingあり
(「lung slidingあり」「lung slidingなし」の表示が上下逆になっていたのを修正しました)
図1タイトル
〈誤〉tissue-like sign→〈正〉jellyfish sign