膠原病徹底考察ガイド-難治症例とその対策-
実例に密着した討議と文献情報で徹底考察!
目次
第 1 章 ループス腎炎
第 2 章 NPSLE ─SLEに伴う神経精神症状─
第 3 章 SLEに伴う血球減少
第 4 章 抗リン脂質抗体症候群
第 5 章 シェーグレン症候群の末梢神経障害
第 6 章 筋炎
第 7 章 強皮症 ─ 皮膚硬化・慢性偽性腸閉塞・強皮症腎クリーゼ─
第 8 章 血管炎
第 9 章 ベーチェット病
第 10 章 成人Still病
第 11 章 膠原病疾患における肺高血圧症
第 12 章 膠原病と妊娠
第 13 章 関節リウマチに伴う呼吸器疾患
第 14 章 膠原病疾患におけるFDG-PET/CTの応用
序文
診療の現場というものは,常に難しい判断を求められ,治療に難渋することもあり,我々も数々の難治症例を克服してきた。膠原病に関する実用的な症例集や解説書はまだ少なく,当科の過去症例で診断・治療に悩まされたものをピックアップし,それについて解説していく症例集を含んだ膠原病解説書ができたら,我々のみならず膠原病診療をしなければならない医
師達にとってどんなに有用かと考えたことが,この本を作成するに至るきっかけとなった。
発端は,我々とともに当科のフェロー・レジデント達が主体に始めた『難治性膠原病疾患の勉強会』から始まっている。たとえば,テーマが「中枢神経ループス(NPSLE)」ならそれで難渋した症例集を私が作成して皆でその経験を共有しながら振り返り, 症例に関する問題点・疑問点を議論し,「髄液検査」「MRI検査」「脊髄炎」「CIPDs(ステロイドサイコーシス)との鑑別」などテーマを挙げ,2週間後までに各々がその各項目について分担して文献で調べられる限り調べつくし,知識を共有しあった。2週間ごとにそのような症例検討,文献考察を繰り返していたら,いつの間にか膨大な資料ができ上がっていた。その中には,膠原病に伴う数多くの呼吸器疾患の画像提示と治療方針を議論したものも含まれていた。これらを世に出さ
ないのは勿体ないと思い,当科に在籍していたフェロー・レジンデントの先生方に共同執筆の依頼をかけたところ,全員が快く引き受けてくれて,ついに発刊に至った。
我々は, 名著『膠原病診療ノート』の著者である三森明夫先生の門下生でもあり, この本は膠原病ノートの症例集版といった側面もあるが,『膠原病診療ノート』とは違った視点から我々が独自に知識と今までの経験を総決算して作成した実用書でもある。どの章も力作ばかりであり,編著を担当させてもらっていた私は査読しながら,その力量にただただ感動するばかりであった。協力してくれた先生方に改めて御礼を申し上げたい。
膠原病診療に携わる先生方が実臨床で困ったときなどに,痒いところに手が届くよう書かれているこの本を参考にして頂き,少しでも現場でお役に立つことができれば光栄である。
2016年10月
国立国際医療研究センター膠原病科医長
山下裕之
レビュー
萩野 昇 帝京大学ちば総合医療センター第三内科学講座(血液・リウマチ)講師
【書評】膠原病という希少病態に対してひとつの指針を与えた良書
今となってはその契機も思い出せないが、ともかく三森明夫先生による「膠原病診療ノート」を研修医のときに繙いてしまったことが、その後の評者の人生を決定したと言っても過言ではない。自分の専門とする科を選ぶことは、医師の人生において大きな、そう何度とない選択であるが、評者は優れた医学書との出会い、そして素晴らしい師匠との出会いによって、最高の選択をすることができたと信じている。 さて、三森先生の薫陶を受けた先生方が、とびきりの膠原病難治症例にどのように対峙したか、その日々の積み重ねが分厚い書物として届けられた。わが国では21世紀初頭に始まった関節リウマチに対する生物学的製剤の使用により「治療の学としての膠原病学」の側面が大きくクローズアップされる中で、本書は膠原病(=慢性・自己免疫性・多臓器・炎症性疾患)という希少病態に対して、現時点で能う限りの文献的考察と自施設での経験をもとに、ひとつの指針を与えている。 全体で14章からなり、特に全身性エリテマトーデス(SLE)については、障害臓器ごとに「ループス腎炎」「NPSLE」「SLEに伴う血球減少」と3章を費やして考察されている。その他、「抗リン脂質抗体症候群」「筋炎」「強皮症」「血管炎」「ベーチェット病」「成人Still病」と疾患群別に章立てされている部分と、「膠原病疾患における肺高血圧症」「膠原病と妊娠」「関節リウマチに伴う呼吸器疾患」のように病態・併存症で章立てされている部分があり、まさに縦横無尽である。これらの章の冒頭には、実臨床で難渋するような症例が提示され、その各々に「三森イズム」の継承者たちがどのように考え、どうアプローチしたかが示されるフォーマットになっている。最終章のFDG-PET/CTを扱った部分は、この著者らでなければ書けなかった内容であり、まさに「徹底考察」の名に恥じない。 筆者らと意見交換したくなる部分が数多くあるのは、すなわち本書が思索を促す良書である所以だろう。たとえばSLEを扱った章全般(特に「ループス腎炎」の章)では、ヒドロキシクロロキンの有用性がもう少し強調されてもよいのではないかと感じた。また、「関節リウマチに伴う呼吸器疾患」の章では、冒頭のいくつかの急性間質性肺炎症例について、β-Dグルカン陰性を理由にニューモシスチス肺炎の診断を棄却しているのが気になった。 今後、評者も、この本の「重み」に十分対抗しうる修練を積み上げていかなければならないと感じた。本稿の執筆中にも、膠原病の分類・治療については次々と新しい知見が発表されているため、それらを盛り込んだ数年後のupdateを期待してもよいだろう。膠原病の臨床に携わる者にとって必携の1冊である。
正誤表
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。
〈誤〉→〈正〉
本書に下記の誤り・変更がございますので,訂正するとともに,謹んでお詫び申し上げます。
頁 | 誤 | 正 |
79頁 上から7行目 |
〜,病初期悪者で450〜550ng/mL,進行期悪者で250〜350ng/mLが〜 |
〜,病初期患者で450〜550ng/mL,進行期患者で250〜350ng/mLが〜 |
頁 | 誤 | 正 |
107頁 3行目 |
ただし,現時点ではIgG,IgMともにわが国で測定する手段は乏しく,測定は困難で特定の大学病院などの施設に依頼するしかない。
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現時点ではIgGは国内の検査会社で測定可能である。IgMはわが国で測定する手段は乏しく,特定の施設や海外に依頼するしかない。 |
頁 | 誤 | 正 |
303頁 5.鑑別診断 |
SLEではHUVと異なりds-DNA抗体や抗Sm抗体は通常陰性である。
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SLEではHUVと異なりds-DNA抗体や抗Sm抗体は通常陽性である。 |
頁 | 誤 | 正 |
474頁 図18、図19 |
図18図説 71歳男性。FDG-PET/CT上,“longitudinal pattern,heterogeneous accumulation, and multiple localisations”を認めた。典型的な自己免疫性膵炎のPET所見である。 図19図説 61歳男性。治療前後で胸部・腹部・鎖骨・腋窩動脈に認めていた著明なFDG集積が消退している。 図18と図19の図説が入れ替わっておりました。
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図18図説 61歳男性。治療前後で胸部・腹部・鎖骨・腋窩動脈に認めていた著明なFDG集積が消退している。 図19図説 71歳男性。FDG-PET/CT上,“longitudinal pattern,heterogeneous accumulation, and multiple localisations”を認めた。典型的な自己免疫性膵炎のPET所見である。 |