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パーソナリティ障害

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  • ■治療の考え方

    長期にわたる外来治療が基本であり,入院は危機介入や身体管理などで考慮されるが,その場合は短期入院が望ましい。

    初期治療では,現実志向的・短期的な目標(併存する精神障害の症状改善,自傷行為の自制など)を立て,患者と共有する。

    中期~長期治療では,社会的なスキルの向上が目標となる。

    パーソナリティ障害の診断名で保険適用のある薬剤はないが,併存する精神障害,認知・知覚障害、衝動・攻撃性の制御には一定の効果が期待できる。

    特殊精神療法(認知行動療法,力動精神療法など)は,治療動機や内省力の高まりがあれば導入を検討する。

    ■治療上の一般的注意&禁忌

    【注意】

    治療目標や治療上の約束を患者と言葉で共有し,適宜確認する。

    医療現場でスタッフが巻き込まれ,混乱をきたすことがある。一貫した対応を心がけ,過剰な依存や退行を促さないようにする。

    薬物治療はあくまでも補助的治療であることを認識し,単剤投与を心がけ,漫然と投与しない。

    過量服薬や薬物依存の危険性がある場合には,処方日数を短くする,家族に服薬管理を頼むなど,それを防ぐ方法をあらかじめ患者と取り決める。

    【禁忌】

    ベンゾジアゼピン系薬剤は脱抑制を起こして攻撃性や衝動性を増悪させ,依存形成の危険があるため,使用は控えるべきである。

    選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬でも,時に攻撃性や衝動性が増悪するので投与は慎重を期する。

    ■典型的治療

    【薬物治療】

    〈認知・知覚症状や精神病症状が認められる場合〉

    非定型抗精神病薬の有効性が期待できるが,その投与量は統合失調症患者への投与量より少量にする。高用量では脱抑制の危険が高まる2)。保険適用外である。

    一手目:リスパダール®1mg錠(リスペリドン)1回1錠 1日1回(夕食後,3mg/日程度まで漸増)

    二手目:〈処方変更〉セロクエル®25mg錠(クエチアピン)1回0.5錠 1日1回(就寝前,300mg/日程度まで漸増)

    〈攻撃性・衝動性制御不良,情動不安定などが認められる場合〉

    境界性パーソナリティ障害の衝動性制御不良や攻撃性に対して,非定型抗精神病薬のジプレキサ®(オランザピン),エビリファイ®(アリピプラゾール)の有効性が複数のシステマティックレビューで認められ安全性も高いため第一推奨薬であるが,保険適用外である。抗てんかん薬のデパケン®R(バルプロ酸ナトリウム),ラミクタール®(ラモトリギン),トピナ®(トピラマート)も衝動・攻撃性の制御に対する有効性が認められているが,安全性の観点からこれらは次善の薬剤である2)~4)

    一手目:エビリファイ®3mg錠(アリピプラゾール)1回0.5錠 1日1回(夕食後,6mg/日程度まで漸増)

    二手目:〈処方変更〉デパケン®R200mg錠(バルプロ酸ナトリウム)1回1錠 1日1回(夕食後,600mg/日程度まで漸増)

    〈入眠・熟睡困難などが認められる場合〉

    パーソナリティ障害の過覚醒による睡眠障害に有効な薬剤はなく,生活指導が基本である2)。生活リズム障害の是正にセロクエル®(クエチアピン)が有効なことがあるが,エビデンスに乏しい。

    一手目:セロクエル®25mg錠(クエチアピン)1回0.5錠 1日1回(就寝前,300mg/日程度まで漸増)

    二手目:〈一手目に追加〉ルネスタ®2mg錠(エスゾピクロン)1回1錠 1日1回(就寝前),またはロゼレム®8mg錠(ラメルテオン)1回1錠 1日1回(就寝前)

    *いずれも食事時および食直後は避ける

    【非薬物療法】

    〈衝動的・自己破壊的行動が顕著である場合〉

    心理教育,経済的・社会的サポート体制の強化,家族への支援などを考慮し,場合によっては短期入院による安全の確保を検討する。

    弁証法的行動療法(dialectical behavior therapy:DBT)は,自己破壊的行動に対する有効性が報告されているが,わが国では保険適用はなく,各治療者がその裁量で中心的な技法〔承認(validation),など〕を治療にとり入れている。

    〈自己破壊的行動は顕著ではなく,治療動機や内省力が強い場合〉

    認知行動療法,力動的精神療法などの個人療法,集団療法などの導入を考慮する。

    〈社会機能の向上を目標とする場合〉

    デイケア,作業所などへの通所や就業を通して社会機能の向上をめざす。なるべく社会との接点を絶やさないようにする。

    ■併存症・合併症への対応

    何らかの精神障害を併存していることが多い。併存障害が存在する場合は,その障害の治療も併せて行う。

    パーソナリティ障害の症状として出現する過量服薬や自傷行為などが生じた際は,とがめるのではなく,患者にとっての"意味"を考えようとする姿勢を示し,その契機や心的軌跡を患者と話し合うようにする。

    ■ケアおよび在宅でのポイント

    患者の状態に一喜一憂しない。

    患者の過大な要求に対して,できることとできないことをはっきり伝え,なるべく一貫した対応を心がける。自宅で言いにくいようであれば,外来で主治医の協力を得る。

    患者の顕著な興奮や暴力行為の出現に対しては,警察に通報する。

    家族自身も孤立しないように,家族外の支援を積極的に探すようにする。

    ■文献・参考資料

    【文献】

    1) 高橋三郎, 他, 監訳:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 2014, p636-76.

    2) Herpertz SC, et al:World J Biol Psychiatry. 2007; 8(4):212-44.

    3) Lieb K, et al:Br J Psychiatry. 2010;196(1):4-12.

    4) Ingenhoven T, et al:J Clin Psychiatry. 2010; 71(1):14-25.

    【執筆者】 岸川淳子(大谷地病院精神科)

    【執筆者】 平島奈津子(国際医療福祉大学三田病院精神科教授)

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