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ヘリコバクター・ピロリ感染症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-07-13
杉山敏郎 (富山大学大学院医学薬学研究部消化器造血器腫瘍制御内科学教授)
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  • ■疾患メモ

    Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ菌)が関連する病態のすべてを網羅する疾患概念である(表1)。

    H. pylori感染が関連する保険病名疾患としてのH. pylori感染胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胃MALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病は他項を参照。H. pylori感染の成立には特異的受容体構造が必要で,一般的には胃粘膜,胃上皮化生を伴う十二指腸粘膜にのみ存在する。ここでは,その基盤となるH. pylori感染について扱う。

    H. pylori感染は好中球を中心とする炎症細胞浸潤を伴う胃炎であり,内視鏡所見による胃炎とは必ずしも一致せず,内視鏡所見は間接所見である。持続感染の結果,萎縮性胃炎を生じるため,A型胃炎を除くと萎縮性胃炎がある場合はH. pylori感染と診断できる。

    05_22_ヘリコバクター・ピロリ感染症

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    上記のH. pylori関連疾患を除くと,H. pylori胃炎は必ずしも症状はなく,治療目的は慢性萎縮性胃炎進展の阻止,あるいは改善による胃癌予防である。無症状のH. pylori胃炎患者を除菌する場合には,その目的を十分に説明する必要がある。

    【検査所見】

    内視鏡下での組織生検を用いた診断法として,①培養法,②迅速ウレアーゼ試験,③病理組織学的検査,の3法がある。これらの検査法は生検組織に依存する「点の診断法」であり,胃内に広く感染している除菌前診断法としては有用である。除菌失敗後には,H. pyloriは胃内に部分的に残存(patcy distribution)し,生検ではサンプリングエラーを生じるため,成否判定には不適である。培養法は感度が劣るが,他方,抗菌薬感受性試験を実施する場合には必要な検査法である。

    生検によるサンプリングエラーを生じない検査法が「面の診断法」である。特に除菌治療失敗時はH. pyloriは胃内に部分的に残存する(patchy distribution)ため,その成否判定には「面の診断法」である,①尿素呼気試験,②便中抗原法,③抗体測定法,が勧められる。定性的な抗体測定法は,除菌に成功しても抗体半減期が6カ月なので,除菌前が高値の場合には陰性化するまで数年を要するので注意を要し,定量的抗体測定法が勧められる。

    各感染診断法には各々,長所,短所があるので,それらを熟知した上で利用すべきである1)。また,検査結果に影響する薬剤,その休薬期間,影響する病態,たとえば胃内大量出血時の迅速ウレアーゼ試験の偽陰性なども知っておく必要がある。

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    コチラより

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