株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

化学損傷

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-07-10
関 啓輔 (総合病院回生病院救急センターセンター長・副院長)
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  • ■治療の考え方

    酸やアルカリ,重金属,毒ガスなどの化学物質が皮膚や粘膜などの組織と接触することにより,組織との間に化学反応を生じて組織が腐食され損傷することを化学損傷と呼ぶ。

    救助者,病院スタッフヘの二次被害を発生させないように,防護具などの適切な予防手段を講じる。

    組織に付着した化学物質が組織から除去・消費もしくは中和されない限り,腐食による反応が継続して組織損傷が進行していく。

    付着した原因物質などを払い落とし拭いとった後,大量の流水で洗浄する。疼痛や灼熱感などの消失を目安とし,長時間(6~12時間)行うことが望ましい。

    原則的に中和剤は用いない。ただし,一部の特殊な化学物質は中和剤の使用が推奨されている()。

    01_44_化学損傷

    呼吸や循環に異常がある場合は,呼吸管理や循環管理を優先する。

    嗄声や呼吸困難感があれば,気管挿管による人工呼吸を必要とする。

    皮膚の治療は熱傷に準じるが,水疱の内部には吸収した有害物質が残存している可能性があるため,原則的に内容物を除去し洗浄する。検尿用試験紙などでpHの測定をすることは参考になる。

    眼球の損傷がある場合,大量の生理食塩水で洗浄する。点滴セットと生理食塩水の点滴で,眼球の持続洗浄を行うことも有効である。角膜潰瘍には抗菌薬の点眼も必要となる。眼科専門医の診察が必須である。

    酸・アルカリなど腐食性の化学物質を飲み込んだ際は,食道が腐食されることがある。その場合,催吐や胃洗浄は行わない。牛乳を飲ませて中和稀釈する。消化管穿孔による腹膜炎に配慮する。

    ■病歴聴取のポイント

    【発症様式】

    患者本人が,いつ・何に曝露したかを知っていることが多い。患者本人に意識のない場合は,関係者等からの情報で原因物質を特定する。

    【持続時間】

    付着した化学物質が組織から除去・消費もしくは中和されない限り,腐食による反応が継続して組織損傷が進行していく。

    ■バイタルサイン・身体診察のポイント

    【バイタル】

    呼吸数の増加,SpO2の低下は呼吸障害を示唆する。適切な呼吸管理を必要とする。

    心拍数増加や脈圧の低下は循環血液量の減少が疑われる。血圧の低下をきたす前に適切な輸液療法が必須である。

    【身体診察】

    広範囲の皮膚に化学損傷を受傷すれば,熱傷に準じた輸液管理を必要とする。

    受傷が広範囲であれば,意識レベル,心拍数,血圧,呼吸数,SpO2,体温,尿量,電解質のチェックを必要とする。

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