株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

笠貫 宏

登録日:
2023-04-19
最終更新日:
2023-05-01

「医療DXへの医学・医療界の主体的な取り組みを」

2022年は「医療DX元年」となった。6月、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2022」で「医療DX推進本部」(仮称、総理大臣を本部長)の設置が明記された。国家事業としての医療DXの宣言といえる。

しかし医学・医療界では、いまだその内容と意義が十分認識されていないようである。DX (Digital Transformation)とはエリック・ストルターマンが2004年に提唱した、ICTにより社会や生活の形を変化させるという概念であり、医療DXはIoT(Internet of Things)やAI(Artificial Intelligence)などデジタルテクノロジーを活用して医学・医療領域に新価値を創造し、医療変革をもたらすものである。

つまり医療DXは従来の制度を改める「改革」ではなく、新しいものにする「変革」である。わが国の医療制度(国民皆保険制度と医療提供体制)はこれまで多くの「改革」が行われてきたが、少子超高齢人口減少や医療費高騰、働き方改革等の大きな課題を抱える今、求められているのは21世紀のグローバルデジタル社会における医療制度への「変革」である。

2020年からの新型コロナウイルスパンデミックにより、医療先進国と信じられていたわが国で保健・医療・介護情報の共有システムの欠如、つまりは医療DXの遅れが顕在化し、その迅速な実現が喫緊の課題となった。

Medical Excellence JAPANは2021年に医療DXの柱として電子カルテ改革を提言し、2022年3月からは自由民主党の「医療DX令和ビジョン2030」の政策立案(全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化と全医療機関への普及、診療報酬改定DX)に関わってきた。現在、医療DXの実現に向けて国のグランドデザインと工程表の策定が進められている。その実現には、強固な医療DX推進体制の確立(厚生労働省専任組織の設置と関係省庁の連携、ガバナンスの強化、財源の確保、法整備)が不可欠であろう。さらに、マイナンバーカード利用を前提に、オンライン資格確認等システムを拡充した「全国医療情報プラットフォーム」の確立とセキュリティーの強化が重要である。

ここでは、医学・医療の立場からその全体像を俯瞰し、私見を交えて優先度と実現可能性を考慮した道筋を示したい。

その第1は、国の責任で、すべての医療機関に電子カルテを普及させ、診療に必要な情報を共有し、患者・国民が最適な診療を受けられるようにすることである。電子化されたカルテは医療機関内、医療機関間のみならず、医療機関─薬局・介護施設との情報の共有と連携を可能にする。電子カルテの普及率はいまだ50%に過ぎず、二次利活用もOECDの趨勢から大きく遅れている。いずれ患者・国民の基本情報と交換方式が標準化されたクラウドベースの電子カルテの導入は避けられない。標準型電子カルテ(当初は3文書・6情報、HL7FHIR)の迅速な開発・普及と診療報酬改定DXの共通算定モジュールの提供により、医療機関のシステムの変革が期待される。

第2は世界レベルの電子カルテの開発と普及である。AI活用等による医療の質・安全性・合理性・経営力の向上、かかりつけ医機能の強化、在宅医療の推進さらに高度かつ精微な診療情報の二次利活用が可能となる。

第3は国民がマイナポータルを通じ、自ら保健・医療・介護情報を使って生涯自己管理・活用する個人健康記録(personal health record:PHR)の開発と普及である。モバイル生体情報等によるセルフケア、健康増進、健康寿命延伸、疾病予防、医療・介護情報連携が可能になる。さらに、医師と患者間でPHRデータを共有することで「患者・市民参加型医療」という変革が期待される。

第4は全国の医療情報連携ネットワークの構築である。地域医療構想と地域包括ケアシステム、それに地域連携ネットワークの統合が可能になり、各自治体が直面する、超高齢社会における2040年問題にも耐えられる医療体制が実現する。

第5は医療ビッグデータの二次利活用の推進である。ゲノム・オミックス情報と診療情報のビッグデータは個別化医療を可能にする。さらにリアルワールドデータは価値の高い情報資源として、研究機関のデータ駆動型研究・開発や企業の創薬等、行政機関の政策立案・感染症危機管理などに使用され、活力ある経済社会及び豊かな国民生活を実現させる。このため個人情報保護法と次世代医療基盤法の改正といった法整備も進められている。

第6はデジタル技術を利活用したプログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD)等の開発と普及である。オンライン診療や遠隔医療、新モダリティの国際競争力向上等が推進される。

わが国は今、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society 5.0)の実現を目指している。憲法13条(生命権、幸福追求権)および25条(生存権)に貢献するプロフェッションである医師には、その叡智を結集して、Society 5.0時代における医療DXの実現に主体的に取り組むことが求められる。

医療DXは、以上述べてきた医療提供の変革と、医学の知識発見の推進が一体となって展開する。後者につながるものとして今年4月、内閣府の「第3期戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の課題の1つ「統合型ヘルスケアシステムの構築」が始まった。日本の文化と国民性を活かして、日本版「生きがい」のある、人間らしい健康で幸せな社会を目指して、医学・医療界が主体的に未来の医療をデザインしていくことが必要である。

笠貫 宏(Medical Excellence JAPAN理事長、早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所顧問)[医療変革電子カルテの標準化Society 5.0 

ご意見・ご感想はこちらより

過去記事の閲覧には有料会員登録(定期購読申し込み)が必要です。

Webコンテンツサービスについて

過去記事はログインした状態でないとご利用いただけません  ログイン画面へ
有料会員として定期購読したい 定期購読申し込み画面へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい  コンテンツ一覧へ

関連記事・論文

もっと見る

page top