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Ⅱ 各論 ちょっと迷う場合はこうする!  11 家庭内薬品誤飲・中毒

登録日:
2019-12-03
最終更新日:
2019-12-04

どんな薬品誤飲であっても,基本は「気道・呼吸・循環」の維持をめざすべき
誤飲事故の原因は子どもではなく保護者であり,事故を予防することが最も大切 である
丁寧な問診と身体診察が中毒原因物質の特定に結びつくことがある

症 例

小児の特徴

他の異物誤飲や薬品誤飲と同様に,小児は飲んだら危険なものを判断することはできず,手の届くところにある「3〜4cm以内の口に入る大きさのもの」は口に入れてしまう可能性があると認識しておく必要があります。
また,たばこや口紅などは大人が口にするところを子どもが見ており,口に入れても良いものであると誤解することもありえます。
日本中毒情報センターのウェブサイトでは,「一般の皆さま」向けのページ(https://www.j-poison-ic.jp/general-public/)でたばこや洗剤などの家庭内用品について詳しく無料で調べることができます。事故予防のための映像教材も見ることが可能ですので,ぜひ参照して下さい。

診 療

1 たばこ:ニコチン

厚生労働省が発表した「2017年度 家庭用品などに係る健康被害 病院モニター報告」によると,家庭用品の小児誤飲事故の順位は1位:たばこ23.0%,2位:医薬品14.4%,3位:食品類11.3%の順であり,たばこの誤飲事故は依然多く報告されています。たばこの誤飲の場合は,誤飲に驚いた保護者が連れてくることが多く,実際に食べてしまっていたとしてもニコチンの催吐作用で嘔気・嘔吐を主訴として来院し,致命的な転帰をとる確率は高くありません。ニコチンについては成人で30~60mg,小児で10~20mgが致死量とされています。
たばこ誤飲後に飲み物を飲ませることは,消化管内でニコチン水溶液をつくりニコチンの吸収を促進する可能性がありますので,避けるべきです。初期対応としてニコチン中毒症状が出ていない症例への胃洗浄は必要ではなく,軽症例なら数時間の経過観察後に帰宅可能です。無症状~軽症例での保護者への戒めを目的とした胃洗浄については,意味がないばかりでなく,合併症の危険性から決して行ってはなりません。重症例であっても治療としては気道確保,酸素投与,輸液などの支持療法が中心となり,ニコチンは速やかに尿中排泄されることと,分布容量が大きいために血液浄化法は無効です(表11)


近年,加熱式たばこや電子たばこが日本国内でも販売されています。
「加熱式たばこ」は日本国内ではploom TECHTM(JT),iQOSTM(フィリップモリスジャパン合同会社),gloTM(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)の3つの銘柄がありますが,基本的な原理は一緒で,たばこを燃焼させずに加熱しそのエアロゾルを吸入するものです。ヒートスティックと呼ばれるたばこ部分には,紙巻きたばこと同等の6〜7mg/本程度のニコチンが含有されています。ヒートスティックは容易に小児の口に入るサイズであり,これを誤飲してしまうと急性ニコチン中毒に陥る危険性があります。
「電子たばこ」はリキッドと呼ばれる液体を加熱してそのエアロゾルを吸入するもので,プロピレングリコールや植物性グリセリンが成分の主体です。日本国内で販売されている電子たばこのリキッドには,医薬品医療機器法による規制のためニコチンは含有されていませんが,海外製品にはニコチン含有のリキッドもありますので,個人輸入などをしている場合にはリキッドの誤飲に注意が必要です。
なお,紙巻きたばこのパッケージに表示されたニコチン量は喫煙時の吸入量であり,含有量はその約10倍が目安になります。加熱式たばこや電子たばこには表示義務自体がありません。また,加熱式たばこに貼る,飲料を模したシール(牛乳やいちごミルク柄など)も販売されており,これらは小児の誤認につながりやすいことなどにも注意が必要です。

2 化粧品:アセトン

家庭で用いられる化粧品のうち,口紅や化粧水の誤食・誤飲をしばしば経験しますが,医学的にはほぼ問題ありません。
誤飲で問題となるのはマニキュアの除光液です。除光液は1瓶約50~120mLでアセトンを60~90%含有しており,有機溶剤による粘膜刺激症状や誤嚥性化学性肺炎が問題となります。症状としては咽頭痛,嘔気・嘔吐,角膜上皮障害があり,重度になれば傾眠,運動失調,昏睡に陥ることもあります。初期対応として催吐は誤嚥の可能性があるために禁忌で,適宜気道管理と酸素投与が必要になります。活性炭投与は有効ですが,投与するならば嘔吐を防ぐために気管挿管されて気道が確保されているべきです。排泄半減期が平均28時間と長いため,必ず入院して2日以上は慎重な経過観察を行う必要があります2)

3 洗剤:次亜塩素酸ナトリウム,水酸化ナトリウム

家庭で用いられる洗剤や柔軟剤,石鹸についてはほとんど心配はいりません。大量に飲んでしまったときに,水を飲ませると大量の泡が発生してしまうので呼吸器系の問題を引き起こすかもしれません。牛乳などを飲ませた上で数時間の経過観察が望ましいでしょう。
近年ボール型洗剤(1回分パックタイプ洗濯用液体洗剤)が発売され,ゼリーのようにも見えることから小児の誤食事故が複数報告されています。誤食に伴う重大な合併症はありませんが,嘔吐を誘発することがあり誤嚥などに注意が必要です。
塩素系の漂白剤については注意が必要で,次亜塩素酸ナトリウムや水酸化ナトリウムによる皮膚や粘膜の腐食作用があります。喉の痛みと浮腫による呼吸困難や消化管穿孔を合併することがありますので,何らかの症状がある場合には必ず高次医療機関への搬送を考慮すべきです。

4 銀杏:4’-O-methylpyridoxine

家庭内薬品というくくりからは外れますが,注意が必要です。
痙攣や小児神経を専門にしている医療者にはよく知られていますが,昔から「銀杏は一度に歳の数以上は食べてはいけません。」と言われており,銀杏の過量摂取でも痙攣を引き起こします。銀杏に含まれているメチルピリドキシン(4’-O- methylpyridoxine)が原因で難治性反復性痙攣を起こします。これは熱に安定なので,煮ても焼いても毒性は変わりません。痙攣を誘発するので催吐は禁忌で,ジアゼパムだけでなくピリドキサール8mg/kg静注が有効です。再度痙攣が起こることがあるので,必ず4〜5日程度は入院して経過観察する必要があります3)

ピットフォール

水に溶けたたばこは毒性が高く,吸収も良いために,誤飲してしまうと非常に危険です。灰皿代わりに飲料の空き缶などを使っているときに,中に残っていた液体を飲んでしまうと致命的になることがあります。時に重篤な中毒症状を呈してもたばこの誤飲と気づかれない可能性もあり,小児が口にするものには注意が必要です。

本人,家族への説明で特に注意すること

誤飲事故全般に言えることですが,誤飲したのは小児の責任ではなく,手の届くところに口に入るサイズのものを置いていた保護者の責任です。特に誤飲事故の多い生後6カ月から3歳くらいまでの間は,昨日まで手の届かなかったところに手が届くようになることもあり,家庭環境を常に見直す必要があります。
たばこ誤飲に関しては周囲に喫煙者がいるということであり,副流煙や熱傷の危険性もついて回ることから,これを機に保護者に禁煙を勧めても良いかもしれません。
誤飲事故すべてにおいて言えることですが,呼吸状態が悪化したり,嘔吐を繰り返したり,腹痛が悪化したりするようなら必ず再受診するように伝えます。


1) 日本中毒学会, 編:急性中毒標準診療ガイド. タバコ(ニコチン). じほう, 2008, p338-9.
2) 日本小児科学会:No.008 マニキュア除光液による中毒, No.063 加熱式タバコの誤飲(1)(2). Injury Alert(傷害速報).
[https://www.jpeds.or.jp/modules/injuryalert/]
3) 市川光太郎, 編:小児救急治療ガイドライン. 第3版. 診断と治療社, 2015.


・厚生労働省:2017年度 家庭用品等に係る健康被害 病院モニター報告, 2018.
[http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/katei/hospital/H29.pdf]
Connolly GN, et al:Unintentional child poisonings through ingestion of conventional and novel tobacco products. Pediatrics. 2010;125(5):896-9.
Appleton S:Frequency and outcomes of accidental ingestion of tobacco products in young children. Regul Toxicol Pharmacol. 2011;61(2):210-4.
国民生活センター:乳幼児による加熱式タバコの誤飲に注意. 2017.
[http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20171116_2.pdf]


小児に特化した中毒学の文献は限られており,必然的に成人を含めた記載となっています。

上條吉人:臨床中毒学. 相馬一亥, 監. 医学書院, 2009.
総論・各論ともに著者の「中毒学」に対する熱意の伝わるテキストです。救急外来に1冊置いておくと,各論部分は辞書の代わりとしても使用可能です。
杉田 学, 他, 編: 特集 中毒. INTENSIVIST. 2017;9(3).
集中治療の必要な中毒症例についてまとめられています。記載は主に集中治療専門医に向けて書かれていますが,エビデンスを示して記載されており,治療の一助になります。

石川順一

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