東大理科Ⅰ類(理Ⅰ)を筆頭に、工学部の人気が“凋落”と呼べるほど落ちているようです。理Ⅰに行くより地方の医学部に行くという時代になってきて、医学部は「一人勝ち」です。この傾向は、経済を長期的に考えた場合、非常にまずい。
現在の日本経済で最も大きなウェイトを占めているのは第3次産業ですが、そこで生活する人たちの生活水準は、「交易条件」の高さに依存します。交易条件とは「輸出物価指数÷輸入物価指数」で求められる指標です。第2次産業の奮闘で日本のブランド価値が高まってこそ良くなる交易条件は、残念ながら年々悪化しています。原油をはじめとした輸入価格の上昇に比べて、日本の製品を高値で売れなくなっているということです。
工学分野や理学分野での人材確保は重要な課題であるはずなのに、人々は医学部ばかり目指している。優秀な人材を医学部だけに集め続けると、早晩、経済が足元からぐらつきます。
医学部にこれほど偏差値が高い人ばかりが集まって良いのかということは、医療関係者に考えてほしい問題です。
今後の医療のあるべき姿は「地域完結型の医療」「地域で治し支える医療」です。地元でずっと育って、心根は優しく、お年寄りとニコニコ話してすぐに友達になる、そんな子に、医師への道をもっと開いてほしいという思いはあります。
地元枠を増やせば、都会の進学校の「とにかく医学部に」という人たちをブロックできる。そうすれば、そういう人たちの目が工学や基礎研究などの分野に向きやすくなる。
医師の地域偏在の問題は、社会全体での人的資源配分の問題であり、経済政策の問題でもあるんですよ。