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医師偏在と医学部進学熱の本質 ─ まずは「地元枠」の拡充を 【有識者に聞く】[特集:地域枠から考える医師養成と偏在問題9]

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  • 「エリート叩き」も背景に

    ─雇用が不安定になり、「手に職」志向が高まったということでしょうか。

    それもありますが、バブル崩壊後の医学部進学熱の高まりには、もう1つ大きな要因があると思います。日本社会によるバブル崩壊のヒステリックな犯人捜し、つまり官僚などに対する「エリート叩き」の風潮です。

    それまでだったら医学部以外の道を薦めた親や、医学部以外を選んだであろう子どもたちが、そうではなくなった。韓国の例からみれば、国が存亡の危機に直面すると「とにかく子どもを医師に」と思うのは、切実な親心なのだろうと思います。

    すると、都会の進学校出身者が全国の医学部を“占拠”することになる。地方の公立校では、10月頃まで運動会などをやっているわけですから、入試段階でかなうはずがない。地方の医学部への進学が「自動車免許合宿」感覚になり、卒後は出身地の都会に戻るために医師配置の都市偏重が進んだ。

    こうした因果関係が、90年代の医学部偏差値の上昇に表れていると考えたわけです。

    ─だから入試段階で何らかの対策が必要ということですね。

    一県一医大構想は入試段階を「自由化」していました。90年代まではそれで問題はなかったけれど、今となっては「無策」というほかない。「医師偏在をどうにかしたいなら教育にまず介入を」ということは、WHOも強く推奨しています(「【解説3】有効な地域偏在解消策は? [特集:地域枠から考える医師養成と偏在問題7]」参照)。

    医師の地方への定着を図るためには、①地元出身の学生を医学部に入学させ、②総合診療医(家庭医)を育て、③若いうちにへき地の医療現場に“留学”させる。エビデンスベースで言えば、偏在対策として打つべき政策技術はこの3つです。

    この3つを、「医学教育」「保険医登録」「管理者要件」の各段階にどう組み込んでいくかが、制度設計の問題になります。

    地域枠は「地元枠」に

    既存の地域枠の多くは奨学金と義務勤務をセットにしていますが、奨学金を返したらよそへ行けるし、学費の高い進学校に通えるような子は家庭が裕福だから、お金で誘導するのは効果が薄い。

    医師の地方への定着を図るには、入学要件を地元出身者に絞った「地元枠」を拡充すればいい。都道府県ではなく、高校学区や2次医療圏単位で枠を設けると効果的でしょう。これは奨学金主体の施策ではないため、行政にとっては節約にもなり、その分を低所得家庭の学生の支援に回すこともできます。

    日本では、地域枠の入学者よりも地元出身者のほうが、臨床研修修了後、大学と同じ都道府県に勤務する割合が高いというエビデンスもある(「【コラム1】地域枠のギモン [特集:地域枠から考える医師養成と偏在問題2]」参照)。そして、2016年度に大学が導入している地域枠1617人のうち、地元枠は約半数程度の783人でしかありません。

    地元出身者が地域枠の100%となれば定着率は高まりますし、同時に、国が今後「慎重に精査する」と言っている2017~19年度の医学部追加増員についても、「その分は地元枠に限るように」と提案したい。

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