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学会レポート─2022年欧州心臓病学会(ESC)[J-CLEAR通信(148)]

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  • TOPIC 3 降圧薬「就寝前服用」の優越性を否定:RCT“TIME”

    夜間血圧非低下(non-dipping)は、心血管系(CV)イベントの大きなリスクと認識されている。そのため、夜間血圧を低下させると考えられる就寝前の降圧薬服用は、起床後服用に比べより大きなCVイベント抑制作用が期待されてきた。

    事実、高血圧1万9084例を登録したランダム化比較試験(RCT)“Hygia Chronotherapy Trial”では、就寝前服用により、起床後服用よりも、CVイベント抑制作用は有意に大きかった6)。ただし同試験には、方法論上の問題点などが指摘されていたため、より大規模なRCT“TIME”の結果が待たれており、本学会でTom MacDonald氏(ダンディー大学、英国)が報告した。しかし、降圧薬就寝前服用の優越性は認められなかった。

    TIME試験の対象は、英国公的医療機関で、既に1日1回型降圧薬を処方されていた、高血圧患者2万1104例である。ウェブサイトで患者自身に参加を呼びかけた。この方法により健康意識の比較的高い患者が集まった可能性をMacDonald氏は指摘している。

    平均年齢は65.1歳、男性が57.5%を占めた。13.0%にCV疾患既往を認め、試験開始時の家庭血圧は135/79mmHgだった。なお、上記Hygia試験でも、試験開始時の覚醒時の自由行動下血圧平均値は136/81mmHgだった(診療所血圧は149/86mmHg)。

    これら2万1104例は、現在処方されている降圧薬を維持したまま、「就寝前服薬」(20時以降)群(1万503例)と「起床後服薬」(6~10時)群(1万601例)にランダム化され、非盲検下で5.2年間(中央値)観察された。

    その結果、1次評価項目である「心筋梗塞・脳卒中・CV死亡」の発生率は、「就寝前服薬」群:3.4%(年間0.69%)、「起床後服薬」群:3.7%(同0.72%)で有意差を認めなかった(ハザード比:0.95、95%信頼区間:0.83-1.10)。また、1次評価項目イベントを個別に比較しても有意差はなく、「総死亡」や「心不全入院」「脳卒中」のリスクにも有意差はなかった。

    さらに、年齢、性別、BMI、CV疾患既往の有無などで分けたサブグループ解析でも、「就寝前服薬」が有用な集団は見つからなかった。MacDonald氏は、夜間non-dipperが多いとされる糖尿病合併例7)(全体の13.8%)でも有意差とならなかった点に、落胆を隠さなかった。

    一方、有害事象は、若干だが、「就寝前服薬」群で「転倒」が少ない傾向を認めた(21.1 vs. 22.2%、P=0.05)。ただし骨折発生率には、両群間でまったく差がなかった。

    このように降圧薬の「就寝前服薬」でCVイベントが減らなかった原因を、MacDonald氏は「大きな謎」としたが、指定討論者であるRhian Touyz氏(グラスゴー大学、英国)は、就寝前降圧薬服用による早朝低血圧リスク増加の可能性を指摘していた[出典非提示]。

    さて、先述のHygia試験では「夜服薬」群で「朝服薬」群に比べ、「就寝時血圧」が有意に低値となっていたが(114.7/64.5 vs. 118.0/66.1mmHg)、本試験では不明である。ちなみに、RCT“HARMONY”では、降圧薬を就寝前に服用しても、夜間血圧は低下しなかった8)

    なお、米国心臓協会発行のHypertension誌には昨年9)、また、欧州高血圧学会発行のJ Hypertension誌も一昨年10)、降圧薬就寝前服用はCVイベント抑制作用を増強しないとする論説を掲載している(前述Hygia試験批判にも言及)。

    本試験は、British Heart Foundationからの資金提供を受けて実施された。

    TOPIC 4 アスピリン・スタチン・ACE阻害薬配合剤で、通常薬剤治療に比べ心血管系イベントを有意に抑制:RCT“SECURE”

    心血管系(CV)疾患1次予防例では、「スタチン+降圧薬(含レニン・アンジオテンシン系阻害薬)配合剤」と「アスピリン」の2剤併用による、プラセボを上回るCVイベント抑制作用が、ランダム化比較試験(RCT)“TIPS-3”にて報告されている11)12)。では、2次予防における有用性はどうか。

    この点を検討すべく、心筋梗塞例を対象に、「アスピリン・スタチン・ACE阻害薬」配合剤の有用性を、通常の薬剤治療と比較するRCT“SECURE”が実施された。結果はポジティブ。Valentin Fuster氏(マウントサイナイ・ヘルスシステム、米国)が報告した。

    SECURE試験の解析対象は、欧州7カ国から登録された、65歳以上の高リスク心筋梗塞亜急性期2466例である。心筋梗塞発症からの日数は中央値で8日、平均年齢は76歳、31%が女性、99%が白人だった。

    当初2499例が「アスピリン・スタチン・ACE阻害薬」の3剤配合「ポリピル服用」群と、これら3剤を別個に用いる「通常薬剤服用」群にランダム化されたが、脱落例を除いた2466例が解析対象となった。追跡期間中央値は3年間で、盲検化はされていない。

    その結果、「ポリピル服用」群では、「通常薬剤服用」群に比べ、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中・緊急冠血行再建術」リスクが有意に低くなっていた(9.5 vs. 12.7%、ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.60-0.96)。両群の発生率曲線は、試験開始直後から乖離を始め、試験終了時まで開き続けた。「より長期に観察すれば、さらに大きな有効性が確認できただろう」とFuster氏はコメントしている。

    また2次評価項目ではあるが、「冠血行再建術」を外した「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」のみで比較しても、「ポリピル服用」群における有意なリスク低下を認めた(HR:0.70、95%CI:0.54-0.90)。

    これらのうち、リスク減少が最も著明だったのは「CV死亡」である(同:0.67、0.47-0.97)。一方、「総死亡」リスクは両群間に差を認めず(9.3 vs. 9.5%、同:0.97、0.75-1.25)、その背景には「ポリピル服用」群における非CV死亡の増加傾向があった(5.4 vs. 3.7%、同:1.42、0.97-2.07)。

    さて、「ポリピル服用」群における、上記1、2次評価項目減少の要因を探ると、同群における有意に良好な「服薬アドヒアランス」が明らかになった。しかし、それにもかかわらず、観察期間中のLDL-C値、収縮期血圧、拡張期血圧は、両群間に有意差を認めなかった。

    この点につき、座長のStephan Achenbach氏(フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク、ドイツ)は、「通常薬剤服用」群のほうがより高用量・高力価スタチンを服用していた患者が多かった点に注目した。にもかかわらずLDL-C平均値が「ポリピル服用」群と同等だとすれば、「通常薬剤服用」群におけるLDL-C値変動がより大きかったのではないかと考察した。「LDL-C値変動の増加は、CVイベントリスクだったはずだ」と述べた。確かにRCT“IDEAL”の追加解析では、心筋梗塞後LDL-C値変動「大」に伴うCVイベントリスク増加が報告されている13)

    本試験は、European Union Horizon 2020(EUにおける研究費提供プログラム)から、資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで論文も公開された14)

    TOPIC 5 心房細動常時観察の有用性は、重症脳卒中のみでも認められず:RCT“LOOP”追加解析

    スマートウォッチが(正確性はともあれ)心房細動(AF)を検出できるようになり、患者自らがAFの存在に気づくようになった。AFを見つけた患者は当然、不安に感じ医師に相談するだろう。では、そのような自由行動下で検出されたAFに対し、抗凝固療法を開始すれば、脳卒中リスクは下がるのだろうか。残念ながら、昨年の本学会で報告されたランダム化比較試験(RCT)“LOOP”では、ループ式心電計植え込みによる「積極的AF検出・抗凝固療法開始」は、通常観察に比べ「脳卒中・全身性塞栓症」を減少させなかった2)15)

    しかし、上記試験で比較された評価項目は「脳卒中・全身性塞栓症」であり、AFに起因する「心原性脳塞栓症」のみへの影響は不明だ。

    そこで今年の本学会では、「心原性脳塞栓症」が別名「ノックアウト型」と呼ばれる点に注目し、「重症脳卒中」のみなら「ループ式心電計植え込み」によりリスクが低減しているという仮説のもと、さらなる解析が実施された。Lucas Yixi Xing氏による報告から紹介したい。

    LOOP試験の対象は、AF診断歴なく、かつ高血圧、糖尿病、心不全、脳卒中既往の少なくとも1つを認めた、70歳以上の6004例である(結果としてCHA2DS2-VAScスコア≧2)。その結果、91%に高血圧、29%に糖尿病、18%に脳卒中既往を認めたが、心不全は5%弱のみだった。

    これら6004例は上述の通り、ループ式心電計を植え込む「常時観察」群と、「通常観察」群にランダム化され、「常時観察」群では、6分間以上持続するAFが検出されると、抗凝固薬開始が検討されることになっていた。観察期間中央値は64.5カ月である。

    しかし今回の追加解析でも、「重症脳卒中」(mRS≧3)の発生リスクは、「常時観察」群で相対的に31%の減少傾向にとどまり、有意差には至らなかった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.44-1.09。1.5 vs. 2.2%)。なおAF検出率は、「常時観察」群:32%、「通常観察」群:12%だった。

    さらに「心原性塞栓症・潜因性脳梗塞」を比較しても、同様だった(HR:0.78、95%CI:0.50-1.22)。なおXing氏は、「重症脳卒中」の差が有意とならなかったのは、「検出力不足」(脳卒中発症数が想定よりも少ない)が理由である可能性を指摘していた。

    このように、今回も仮説の確認には至らなかったが、その一方「脳卒中既往」の有無が、「ループ式心電計植え込み」の有用性に影響を与える可能性は示唆された。すなわち、探索的解析の結果、試験前「既往なし」の4948例では「常時観察」群における「重症脳卒中」のHRが0.54(95%CI:0.30-0.97)の有意低値となっていたのに対し、「既往あり」(1056例)では、「常時観察」群と「通常観察」群間に「重症脳卒中」リスクに差はなかった(ただし、脳卒中既往の有無による交互作用P値は0.12)。

    なお全体で脳梗塞類型(TOAST分類)別の発生率を比べると、最も多かったのはラクナ梗塞(40%)、ついで「他原因・原因不明」(25%)だった(「アテローム血栓性」と「心原性」はいずれも15%前後のみ)。Xing氏はこのラクナ梗塞多発を「興味深い」と評価した。ラクナ梗塞例におけるAF検出率は未解析だという(質疑応答)。

    本試験は研究者主導で実施され、Innovation Fund DenmarkやThe Research Foundation for the Capital Region of Denmark、Medtronicなどから資金提供を受けた。また報告と同時に、JAMA Neurol 誌ウェブサイトで公開された16)

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