丸山ワクチンの社会的評価は二分されている。医療従事者の大多数が,丸山ワクチンを「得体の知れない」「胡散くさい」免疫療法の代表と位置づけている一方,数多くの患者や一部の医師は「驚くべき効果」をもとに,夢の薬として勧めている。1981年に国会を舞台に繰り広げられた論争で無効であると公式に認定されたにもかかわらず,有償治験という形で薬剤の供給が続いている現状が,その位置づけを象徴している。このように,ねじれ現象が起こっている最大の要因は,その有効性を証明した科学的データ,つまり質の高い臨床試験データが欠如しているからにほかならないが,実は,この薬剤に対する科学的なメスは20年以上前から入れられてきているので紹介したい。
対象となった疾患は子宮頸部癌である。最初の臨床試験は,1992年に開始した,子宮頸部扁平上皮癌3B期に対する至適用量設定試験である1)。本試験では丸山ワクチンと同じ成分の薬剤であるZ-100(2μg,20μg, 40μgの3濃度)を,放射線治療と併用して検証したところ,40μgが最も有効であることが示唆された。
次に行ったのはZ-100 40μgの有効性の検証試験である。本来ならば40μgとプラセボとの比較試験を行うべきであったが,この試験を開始した当時(1995年),わが国でがん治療薬の比較試験にプラセボを用いることは社会的に困難であった。そのため,対照(標準治療)群として丸山ワクチンのB液(0.2μg)を用いることとした2)。計221例がランダム化され,5年生存率を比較したところ,Z-100低用量群の58.2%に対し,40μg群は41.5%と有意な低下が示された。しかし,当時の日本産科婦人科学会の調査結果と,同時期に行われた米国での同時化学療法併用放射線治療(CCRT)の有効性を検証する臨床試験結果を総合的に判断すると,40μg群と放射線治療単独群の5年生存率が同等であることがわかり,Z-100を低用量で用いると予後は改善するが,高用量ではその効果が減弱するという,きわめて大胆な仮説を構築することとなった。
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