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【インタビュー】全国医学部長病院長会議 山下英俊会長(山形大医学部長)「“公共財としての医療”を支える人材を育てていきたい」

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  • 地域枠でも一般枠と同じ入試レベルを

    ──臨時的に定員増加を認める“地域枠”が、2020年度入試から別枠方式に限定されますが、地域枠の入試はどうあるべきでしょうか。

    山下 これも規範に明示しています。地域枠であっても、卒業時には一般枠の学生と遜色ないように医師としての質を担保する必要があります。そのため入試の科目を減らしたりするのではなく同じレベルで行い、性差についても一般枠と同様の規範を当てはめなくてはいけません。ただし浪人年数については、社会に説明可能な範囲で、入試要項に明確に記載すれば実施可能と考えます。

    ──地域枠が創設された2008年以降に入学した医師が医療現場にどんどん入ってきています。

    山下 女性医師における課題と同じように、地域でキャリアを積める制度設計がカギになります。医師であれば地域にいてもいろいろな専門を学びたいはず。専門医を取れる環境を保証しながら、地域医療に従事してもらう仕組みが大切になると思います。

    しかし医師の自主性に依拠しているだけでは医師不足は解消されません。地域医療には、やはり“医局医療”が求められているのではないでしょうか。医師の生涯にわたるキャリアを見通した上で、「あの地域の病院に3年間行ってください」と派遣する。戻ってきたら国内・海外留学など希望を叶えてあげるような仕組みがないと回っていかないと思います。誰かが100%背負うのではなく、みんなで少しずつ負担を分け合うことが大切なのです。

    ──それを形にしたのが蔵王協議会ということでしょうか。

    山下 「山形大学蔵王協議会」は嘉山先生が医学部長時代の2005年に山形大が中心となって立ち上げました。地域医療構想に基づき、医師を教育しながら適正に配置し、地域に定着させていく取り組みを行っています。例えば地域からの医師派遣要請は、各医局ではなく大学が一括して受けた後、第三者も加えた協議会で地域の患者数や県内全体の医師配置などを考え、対応する形をとっています。

    「救急当直が任せられる医師」を育てる

    ──医学部教育はどのように変わっていきますか。

    山下 重要なのは、どのような医師を育てていくのかということです。そのためにAJMCは2018年5月、卒前卒後のシームレスな医学教育の実現が必要として、診療参加型臨床実習の比重を高めるため学生が行う医行為を法的に担保したりすることなどを求め、日本医師会と合同で提言しました。

    提言では、医学部卒前教育における学生の到達目標を「患者の全身を診ることができ、病態を理解し緊急対応を含め必要な措置が取れること」と定義しています。もちろんいろいろな医師のあり方はあっても構いませんが、医師である以上目の前で苦しんでいる患者さんに的確な対応ができなくてはいけません。完璧な救命処置を求めているわけではなく、救急の当直医を任せても大丈夫な医師を育てていこうという大原則です。

    入試はとても大事なことですが、医師は卒業してから本当の勉強が始まると言っても過言ではありません。経済学者の故宇沢弘文先生が指摘されていたように、国全体が医療を“公共財”として捉え、医療制度も人も大事に育てていくことが大切なのです。そうした視点で医学部を運営し、医学部入試というものも考えていく必要があると思います。

    サイエンスとしての医療にも注目を

    ──日本医事新報の読者には受験生のお子さんを持つ世代の医師も大勢いらっしゃいます。最後に、医学部を目指す学生と保護者の皆さんに向けたメッセージをお願いします。

    山下 医師である親御さんの姿を見て、自分も同じ道を目指そうということは素晴らしい。ぜひ頑張ってほしいですね。そこで大切なのは、“公共財としての医療”を支えていく意志と覚悟です。医師は大変な仕事ですが、患者さんに「ありがとう」と言われることが何よりも嬉しい、というメンタリティを持った人に医師を目指してもらいたいと思います。

    一方で、日本の医療の強みの1つは、医師が基礎研究をしてきたことでした。最近は皆忙しく、へとへとで学位を取る人が減っており、非常に残念です。サポートする仕組みを考えなくてはいけませんが、生命科学を使って人類の役に立つ研究に取り組むというのはとても夢のあることです。サイエンスとしての医療にもぜひ目を向けてほしいと思います。

    (本インタビューが掲載された日本医事新報特別付録「医学部への道2020」の全文はこちらからダウンロードできます)

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