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95%信頼区間が1をまたいだ試験とその広報─薬事法に基づいた試験であればどんな広報をしても問題はないのか? [J-CLEAR通信(48)]

No.4733 (2015年01月10日発行) P.36

後藤信哉 (東海大学医学部内科学系循環器内科学教授,J-CLEAR副理事長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-14

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  • ┃公表されたすべての論文内容の科学・真実性が担保されている保障はない

    日本では医師主導の臨床試験の質が問題とされている。科学として質の担保が保障されていない医師主導の臨床試験であっても,評判の高い科学雑誌に発表されると研究の質が見かけ上高くなる。「この研究はLancetという評判の高い科学雑誌に公表されたので,結果を信用していいですよ」と製薬企業などの営業担当者に言われると,一般の医師は雑誌の評判と,掲載された臨床試験の質の差異を理解できない。そこで先般,臨床試験の質の担保を求めた臨床研究法制化の議論がなされたと筆者は理解している。
    毎年大量に産生される論文の質にはばらつきがある。一流の科学雑誌であっても,論文の採択を規定する因子は論文内の科学としての質のみではない。科学雑誌であってもジャーナリズムであるから,新規性,話題性なども採択の是非を規定する重要な因子となる。科学雑誌などから情報を受け取る読者は,言論の自由を保障された自由主義社会では,たとえ科学的に一流と評判の高い雑誌であっても,掲載された論文内容の科学性,真実性が担保されている保障がないことを理解すべきである。
    論文の質の低い雑誌は評判が下がり,評判の下がった雑誌の購入者は減る。購入者が減れば出版社は立ち行かなくなるので,各社とも質が高く,話題性のある論文を出版すべく努力するというのが自由競争社会のあるべき姿とも言える。
    筆者は,複数の国際雑誌の編集委員をしているが,どの雑誌であっても,論文を投稿した研究者への立ち入り調査などは行わない。現在の論文査読システムは著者,発表者の正直さへの信頼の上に成立しているからである。質の低い論文を発表した研究者は研究者コミュニティの信頼を失う。研究者コミュニティによる査読システムは論文の採否のほかに研究費申請にも影響する。信頼を失った研究者は,研究費を取得できないので研究者生命を喪失する。つまり,質の高い論文発表は,長期的視点でのビジネスとして出版社にとって重要であり,研究者にも得がある。科学の世界は,相互の信頼が長期的には大切という関係の中で成立している。

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