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【話題1】フェムトセカンドレーザー白内障手術[特集:今、話題になっていること─眼科編]

No.4883 (2017年11月25日発行) P.26

木澤純也 (岩手医科大学眼科学講座)

酒井大典 (岩手医科大学眼科学講座)

登録日: 2017-11-24

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  • フェムトセカンドレーザー手術の過去

    1 フェムトセカンドレーザー(FL)の登場

    フェムトセカンドレーザー(femtosecond laser:FL)は,2001年から角膜屈折矯正手術(laser in situ keratomileusis:LASIK)で臨床応用された。03年に角膜全層移植でも使用されるようになり,その後08年に世界で初めてハンガリー大学(Budapest)のNagyら1)が,FLによる白内障手術(femtosecond laser assisted cataract surgery:FLACS)を行った。FLACSでは,白内障手術の重要な手術手技を自動化することにより,より安全な手術が施行できると報告された1)。その後FLACSは,海外では急速に拡大し,これまでに世界の約50カ国で累計100万眼に施行されている。そこで,これまでの白内障手術の変遷,FLの原理,FLACSの実際とわが国での現状,そして今後のFLACSの展望について解説する。

    2 FLACS登場までの白内障手術の変遷

    白内障手術の歴史は,紀元前1000年頃に水晶体を後方へ脱臼させる手術方法で初めて行われ,以後1600年代までは針などで水晶体を後方脱臼させる術式であった。1700年代後半から水晶体を全摘出する水晶体囊内摘出術(intracapsular cataract extraction:ICCE)(図1a)へ術式が変化した。1900年代になり眼内レンズや手術顕微鏡が開発され,1980年代から水晶体囊を残して水晶体核を摘出する水晶体囊外摘出術(extracapsular cataract extraction:ECCE)(図1b)に進歩し,眼内レンズを水晶体囊内に挿入する術式になった。その後,超音波白内障手術が80年代後半から始まり,切開創は小さくなったが,当時の眼内レンズは直径が6mmであり,眼内レンズ挿入時には切開創を6mmに拡大して挿入していた。90年代にシリコン素材やアクリル素材の折り曲げ可能な眼内レンズや挿入器具の開発により,約3mm切開の小切開超音波白内障手術が可能となった。小切開超音波白内障手術は,以前のECCEよりも安全性と術後の視機能が向上し,術翌日から視機能改善することも可能になった。

         

    2000年代からは2mm以下の切開創による極小切開白内障手術も可能となり,さらに手術器械の開発,眼内レンズの進歩,手術手技の改良により,より低侵襲かつ術後の視機能改善が良好な手術が可能となった(図2)。そのため白内障手術は,ほぼ完成された域に達したとの意見もあったが,術者の経験や技量の差によって難症例の白内障などでは手術侵襲が異なることや,多焦点眼内レンズなどの付加価値眼内レンズの手術成績においては,術者の経験により術後成績に差が生じる問題などがあった。

    3 FLとは

    フェムトセカンドは時間の単位であり,フェムトセカンド=フェムト秒である。フェムトとは10-15(1/1000兆)を表し,フェムト秒は実験的世界や工業分野などで主に使用されている時間単位である。FLはフェムト秒単位での超短時間パルス照射をすることにより,総エネルギーを抑えて狭い範囲にレーザーを照射することが可能である。この強い光エネルギーが分子結合を光切断(photodisruption)し,周辺組織に熱照射することなく組織を切断する(図3)。

    4 FLACS

    (1)組織計測器械の進歩

    FLには焦点が合った部分を正確に切断できる特徴があり,透明な組織である角膜から臨床応用が始まった。LASIKや角膜全層移植の際は,透明な角膜にFL専用のインターフェイスを接触させ眼球を固定しFLを使用するため,角膜の解析は容易であった。しかし,従来のFL器械では,混濁した水晶体となった白内障の解析や,角膜から水晶体前囊までの距離を計測することが困難であった。FLACSを安全に施行するためには,角膜から水晶体前囊までの距離および水晶体厚の計測は必要不可欠であり,これらを計測するために前眼部専用の光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)が開発された。OCTは網膜疾患の分野において,近赤外線レーザーを用いて網膜断層構造の観察と計測を可能にした組織計測器械である。この網膜OCTのスキャンスピードと画像鮮明度などが向上し,さらに進歩した計測方式の開発により,角膜や水晶体を計測する前眼部OCTが登場した。この前眼部OCTによりFLACSが実現可能になった。

    (2)FLの白内障手術での役割

    レーザーだけでは白内障手術は完結不能であり,白内障手術におけるFLの役割は,組織を光切断することである。つまりFLは,レーザー照射の専用器械として,①角膜切開・サイドポート作製時の角膜切開,②水晶体前囊の連続円形切囊,③水晶体核分割(フラグメンテーション)の水晶体核切開,④乱視矯正用の角膜切開,を行う。FLは,切断した水晶体の摘出はできないので,FL終了後別の手術室に移動し,従来の白内障手術と同様に消毒滅菌後,白内障手術器械を用いて水晶体を摘出し,眼内レンズを挿入する。

    ①角膜切開創および角膜サイドポート作製(図4)
    FLACSでは角膜切開創作製の際に,前眼部OCTで計測した結果をもとにして,切開位置,切開角度などの切開デザインを任意に設定できるので,マニュアル法のナイフでは不可能なデザインの切開創をつくることもできる。実際に切開創を作製する際は,FLによる切開部を,超音波白内障手術器械で摘出する直前に鈍針や眼科専用フックなどの手術器具により,鈍的に剝離する必要がある。

    ②水晶体前囊の連続円形切囊(図5)
    理想的な水晶体前囊の連続円形切囊(continuous curvilinear capsulorhxis:CCC)は,瞳孔中心に直径5.0mm前後の正円で行われることである。しかし,マニュアル法でのCCCは,いかに熟練した術者であっても全例で正確に再現することは困難である。FLACSでは,インターフェイスにより眼球に陰圧をかけて固定した状況で前眼部OCTでの計測結果を解析した後にCCCを行うので,理想的なCCCを高精度で行うことができる。初期のFLACSでは,CCCが不完全になったこともあったが,最新の器械はバージョンアップにより問題は改善している。

    ③水晶体核分割(フラグメンテーション)の水晶体核切開(図6・7)
    マニュアル法では,divide and conquer法,phaco chop法,phaco prechop法などで,水晶体囊内で水晶体核を手術器具により4分割または6分割した後,分割した水晶体核を超音波乳化吸引し,水晶体を摘出する。一方,FLACSでは水晶体内にFLを照射することで,マニュアル法で核分割する大きさよりも核をさらに細かく断片化することが可能である。


    水晶体核を断片化する最大のメリットは,超音波乳化吸引する際,使用する超音波エネルギーと時間を最小限に抑えられることである。水晶体核を細かく断片化することにより,症例によっては超音波をまったく使用せずに水晶体核摘出が可能となった。超音波エネルギーが小さく使用時間も短ければ,術後の角膜内皮細胞減少による将来的な水泡性角膜症や,術後の視機能低下に影響する黄斑浮腫の発症が低下することが報告2)~4)されている。これらの報告1)~4)により,FLACSはマニュアル法よりも低侵襲な白内障手術であると広く認知されるようになった。

    ④角膜乱視矯正
    FLACSの角膜乱視の矯正方法として,角膜周辺部を減張切開するlimbal relaxing incision(LRI)や,乱視矯正角膜実質内切開(intrastromal arcuate incision)が可能である。マニュアル法のLRIでは,切開位置のズレ,切開の深さや長さなどにおいて正確な切開線が作製できないこともあり,乱視矯正効果は有効なこともあるが,確実とは言えない方法であった。FLによる乱視矯正は,前眼部OCTにより正確な部位に均一な深さと長さで切開を施行できるので,高い矯正効果が期待されている。

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