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わが国の臨床研究の課題─TIMI Study Groupでの経験より[J-CLEAR通信(83)]

No.4879 (2017年10月28日発行) P.34

加藤恵理 (京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターEBM推進部/J-CLEAR評議員)

登録日: 2017-10-26

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  • 米国から遅れをとっているわが国の 臨床研究

    臨床研究は,基礎研究成果のヒトへの応用・実用化の探索,または日常診療における医学的疑問の解決を目的としている。したがって,人間にとって必要不可欠なものであるが,わが国では,いまだ臨床研究注)に対する信頼性の確保が課題となっている。

    一方,米国では2000年代に米国食品医薬品局(food and drug administration:FDA)の心臓・腎臓薬承認審査チームが中心となり,アカデミック臨床研究機関(academic research organization:ARO)体制の見直し,モニタリングの強化,臨床研究の質的向上の強化を行っていった歴史がある。

    本稿では,筆者の留学経験をもとに,わが国における臨床研究のさらなる推進に向けて必要な課題について考えたい。

    TIMI Study Group

    筆者は2013~2015年の間,米国にあるThrombolysis in Myocardial Infarction(TIMI) Study Groupに留学していた。TIMIはliving legendであるDr. Eugene Braunwaldによって1984年に設立され,循環器領域に特化したAROである。設立から33年間で71以上の臨床研究を手掛けており,いずれの結果もNEJM,Lancet,JAMA等の一流雑誌で発表され,FDAからの信頼も厚い。

    TIMIが長年,第一線で活躍し続けることができた要因は,何と言ってもその豊富な人材である。欧米では,国際的大規模臨床研究の責任医師を務めた個人を,尊敬の念を込めて“trialist”と呼ぶが,TIMIは現在9人のtrialistを有する唯一無二のAROである。特筆すべきは,全員が臨床家としても超一流であり,循環器分野を牽引する存在であることである。臨床研究には患者や社会のニーズを把握する能力,そして,実臨床とのギャップに対しての冷静な判断力が重要である。ゆえに,優れた臨床家であることはtrialistにとって重要な資質と考えられている。

    TIMIを含め,欧米では責任医師と所属AROは一体であり,AROが他機関の責任医師のために補助的業務を行う,という概念が基本的にはない。もちろん,大学内の医薬品開発業務受託機関(contract research organization:CRO)という概念もない。このことは,臨床研究に対しての意思決定能力と,目的意識・責任所在を明確に保つ上で重要な点であろう。

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