株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

肝臓病学[特集:臨床医学の展望2014]

No.4688 (2014年03月01日発行) P.26

荒井邦明 (金沢大学大学院医学系研究科環境医科学専攻恒常性制御学講座)

金子周一 (金沢大学大学院医学系研究科環境医科学専攻恒常性制御学講座教授 )

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-11

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

C型肝炎治療の転換期

2013年は相次ぐDAA(direct acting anti-viral agents)の開発でC型肝炎の治療法が大きく転換していくことを予感させる1年となった。DAAはC型肝炎ウイルスの感染ライフサイクルの基礎的知見に基づいて設計され,ウイルスのNS(non-structural)蛋白を標的として抗ウイルス効果を発揮する薬剤である。現在DAAは,NS3を標的とするプロテアーゼ阻害薬,NS5Bを標的とするポリメラーゼ阻害薬,ウイルス粒子の形成を阻害するNS5A阻害薬の3種を中心に開発が進められている(図1)。



DAAはインターフェロン(IFN)と併用して抗ウイルス効果を高めるのみならず,複数のDAAを併用することで,IFNを用いることなくウイルス排除を目指す治療法としての開発も急速に進みつつある。第2世代のNS3プロテアーゼ阻害薬であるシメプレビルは2013年に世界に先駆けて我が国において保険適用となり,これを受けて日本肝臓学会編『C型肝炎治療ガイドライン』が改訂され,第2版となった。また,IFNを使わずに複数のDAAを併用することによるC型慢性肝炎治療の第Ⅱ相,第Ⅲ相試験のポジティブな結果も学会ならびに学術雑誌に発表され始めている。

C型慢性肝炎のみならず,2013年はB型慢性肝炎,肝細胞癌のガイドラインも公開・改訂された年となった。肝細胞癌に対する分子標的薬の第Ⅲ相試験において,ここ数年ポジティブな結果を出した薬剤はなく,ソラフェニブ以外の新規分子標的薬が使用可能となる見通しは立っていない。また,B型慢性肝炎に対する核酸アナログの新規承認も,ここ数年見られてはいない。しかし,この現状により既存の薬剤の実臨床での知見が蓄積され,適応,治療効果,副作用などが明確になったことで,整理された形でガイドラインに反映されたと考えることもできる。

C型肝炎,B型肝炎,肝細胞癌の3疾患は,現在の肝疾患治療において最も治療必要度の高い疾患であり,その治療内容に関して熟知しておくことが望ましい。本稿では,2013年に新たに治療成績が発表された薬剤,適応となった薬剤や,新しい治療薬の登場によるガイドラインの変更点を中心として,5つのトピックスを選定し,それぞれについて概説する。

最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1/シメプレビル導入による『C型肝炎治療ガイドライン』の改訂
治療効果が高く,重篤な副作用が少ない第2世代プロテアーゼ阻害薬シメプレビルの国内第Ⅲ相試験の発表と保険適用を受けて,シメプレビルを併用したペグインターフェロン,リバビリン療法が1型高ウイルス量の抗ウイルス療法の標準的治療法となった。
この1年間の主なTOPICS
1 ‌シメプレビル導入による『C型肝炎治療ガイドライン』の改訂
2 ‌DAAによるIFNを使用しないC型肝炎治療の開発
3 ‌『科学的根拠に基づく肝がん診療ガイドライン 2013年版』の発表
4 ‌肝性腹水・浮腫に対するバソプレシンV2受容体拮抗薬
5 『B型肝炎治療ガイドライン』の発表

TOPIC 1▶‌シメプレビル導入による『C型肝炎治療ガイドライン』の改訂

難治例である1型高ウイルス量症例に対して,2011年に第1世代プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビル(TPV:テラビック®)が保険適用となり,ペグインターフェロン(PEG-IFN)α2bおよびリバビリン(RBV)と併用することで治療成績は飛躍的に改善し,初回治療例では約70%の高いウイルス排除(sustained virological response;SVR)が可能になった。しかし,TPVは貧血,血小板減少をはじめとする血球減少,腎障害,高尿酸血症,消化器症状など,副作用が高度であり,またStevens-Johnson症候群,薬剤性過敏症症候群などの全身症状を伴う重篤な皮膚障害の発現のおそれがあることから,使用条件として皮膚科専門医と連携した肝臓専門医が治療を行うこととされ,使用できる施設が限られていた。

2013年6月の日本肝臓学会総会にて第2世代プロテアーゼ阻害薬であるシメプレビル(SMV:ソブリアード®)の国内第Ⅲ相試験の結果が発表され1)~3),9月に承認された。SMV+PEG-IFNα+RBV3剤併用療法の国内臨床試験では,従来のRBV併用PEG-IFN療法と比較して,治療期間が24週に短縮されたにもかかわらず,初回治療例,前治療再燃例において約90%の高いSVR率が得られ,副作用も差を認めなかった。この結果に基づき,『C型肝炎治療ガイドライン(第2版)』4)ではSMVについての項が追加され,1型高ウイルス量症例に対する推奨ならびに治療フローチャート(図2・3)が大幅に改訂された。1型高ウイルス量症例では,初回治療,前治療再燃,前治療無効のいずれの条件においても,忍容性が許せば,SMV+PEG-IFNα+RBV3剤併用療法が第一選択として推奨されることになった。



SMVはTPVのように治療施設の制限がないことから,より多くのC型慢性肝炎症例に対して抗ウイルス療法による恩恵がもたらされると期待される。一方で,SMVは世界に先駆けて日本で承認されたことから,治験段階で判明していなかった合併症が市販後に明らかになる可能性も危惧され,この点を考慮した慎重な対応が肝臓専門医に求められるであろう。

◉文 献
1) 泉 並木, 他:肝臓. 2013;54(Suppl 1):A156.
2) ‌林 紀夫, 他:肝臓. 2013;54(Suppl 1):A24.
3) ‌鈴木文孝, 他:肝臓. 2013;54(Suppl 1):A157.
4) ‌日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編:C型肝炎治療ガイドライン(第2版). 2013.
     [http://www.jsh.or.jp/doc/guidelines/HCV_GL3-F.pdf]

TOPIC 2▶DAAによるIFNを使用しないC型肝炎治療の開発

難治性である1型高ウイルス量症例の治療としてIFNを使用しない,プロテアーゼ阻害薬,NS5A阻害薬,NS5B阻害薬など,経口のDAAの組み合わせによる抗ウイルス療法の臨床試験が進捗中であり,2013年には複数のポジティブな第Ⅱ相試験の結果が雑誌に掲載された。

日本人を対象としたNS5A阻害薬daclatasvirとプロテアーゼ阻害薬asunaprevirの併用療法の第Ⅱa相試験の結果が発表1)された。前治療無効あるいはIFN療法不適格・不耐容の慢性肝炎43例を対象とし,24週の内服により無効例90.5%,不適格・不耐容例でも63.6%のSVR率が得られた。副作用として下痢,鼻咽頭炎,頭痛,ALT/AST上昇などを認め,高ビリルビン血症により1例,ALT/AST上昇により2例が治療中止となった。第Ⅲ相試験の結果も2013年のAASLD(米国肝臓学会議)で発表され,無効例80.5%,不適格・不耐容例では87.4%と高いSVR率であった。現時点ではこのDAAの組み合わせが最も早く実地医療で使用可能になると予想されている。

さらに,海外で行われたNS5B阻害薬であるBMS-791325を加えた3剤併用療法の第Ⅱa相試験の結果も発表されている2)。前治療歴のない肝硬変を除く慢性肝炎66例を対象とした検討であるが,3剤の12週または24週併用でSVR率は90%以上と,さらに向上がみられている。

またNS5B阻害薬sofosbuvirとNS5A阻害薬ledipasvirの併用療法の第Ⅱ相試験結果も発表された3)。前治療歴のない肝硬変を除く慢性肝炎60例を対象にした検討では,RBVの有無にかかわらず8~12週間の内服により95~100%の高いSVR率が得られた。プロテアーゼ阻害薬を含むIFN治療で無効・再燃を来した慢性肝炎・肝硬変40例を対象にした場合でも12週間の内服で95~100%のSVR率が達成されている。重篤な副作用は少なく忍容性にも優れていることから,第Ⅲ相臨床試験での結果が待たれる。

プロテアーゼ阻害薬とNS5B阻害薬の併用療法に関しては,プロテアーゼ阻害薬faldaprevirとNS5B阻害薬deleobuvirの併用療法の第Ⅱb相試験4),NS5B阻害薬ABT-333とプロテアーゼ阻害薬ABT-450とritonavirの合剤(ABT-450/r),RBVの4剤併用療法の第Ⅱa相試験5)の報告が見られた。前者では前治療歴のない症例を対象とし,RBVを含むプロトコールではゲノタイプ1bに限るとSVR率は56~85%であった。後者では肝硬変を除く未治療または無効例の慢性肝炎50例を対象とし,12週の内服で初回治療例では93~95%,無効例では47%のSVR率が得られており,今後第Ⅲ相試験での結果が期待される。

2014年以降,様々なDAAの組み合わせによるIFNフリーの抗ウイルス療法の結果が発表され,承認,実地医療における使用への展開が期待される。現時点でC型肝炎症例に対しシメプレビルを併用したIFN療法で治療を開始するのか,IFNフリーの複数のDAAによる抗ウイルス療法の承認を待って治療するのか結論を出すのは難しい。現時点での抗ウイルス療法の適応,肝炎の沈静化や肝癌発癌抑制効果の必要性,DAAによる耐性ウイルスの出現リスクなどを個々の症例に応じて十分に考慮した上で決定することが求められる。

◉文 献
1) Suzuki Y, et al:J Hepatol. 2013;58(4): 655-62.
2) Everson GT, et al:Gastroenterology. 2014; 146(2):420-9.
3) Lawitz E, et al:Lancet. 2013;Nov 1[Epub ahead of print]
4) Zeuzem S, et al:N Engl J Med. 2013;369 (7):630-9.
5) Poordad F, et al:N Engl J Med. 2013;368 (1):45-53.

TOPIC 3▶『科学的根拠に基づく肝がん診療ガイドライン 2013年版』の発表

第2版である『科学的根拠に基づく肝がん診療ガイドライン2009年版』の作成・発表以降,肝細胞癌の診断領域では肝細胞特異性造影剤であるGd-EOB-DTPA(gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriaminepentacetic acid)造影剤(プリモビスト®),超音波造影剤ソナゾイド®が本格的に臨床の場に導入された。また,治療領域では分子標的薬であるソラフェニブ(ネクサバール®)が肝細胞癌に対して適応拡大となり,これらの薬剤に対するエビデンスが集積してきた。2013年版1)ではこの点を踏まえ,CQ(clinical question)や推奨の改訂が行われている。特にGd-EOB-DT PA造影MRIは,多血性である典型的肝細胞癌の前段階である乏血性の早期肝細胞癌結節の描出能を劇的に向上させており,またMRI,CT装置自体の進歩により小結節の段階で検出される症例も少なくない。この現状に照らし合わせ,診断アルゴリズム(図4)1)では,乏血性結節に対してoption検査(Gd-EOB-DTPA造影MRI,造影超音波検査,血管造影下CT,腫瘍生検)で精査を行う腫瘍径が2cmから1.5cmに引き下げられた。



治療アルゴリズムは2009年版では2007年6月までのエビデンスを基に作成されたため,ソラフェニブの生存期間改善効果を示したRCT2)3)は盛り込まれていなかったが,2013年版はこのエビデンスを盛り込んだ治療アルゴリズム(図5)1)に改訂された。ソラフェニブは肝障害度A,腫瘍数が4個以上で,遠隔転移・脈管侵襲を有する肝細胞癌の治療選択肢の1つとして位置づけられた。



また,体幹部定位放射線療法,粒子線療法といった線量集中性の高い治療技術が出現してきたことを踏まえ,放射線療法の項目も更新されている。他の局所療法の適応困難な肝細胞癌,例えば門脈腫瘍栓や下大静脈腫瘍栓,巨大腫瘍などが治療対象候補として挙げられている。放射線療法は治療アルゴリズムに掲載される段階ではないものの,今後治療成績のエビデンスが集積することで,肝癌治療における位置づけが次第に明らかになっていくことが期待される。

◉文 献
1) 日本肝臓学会 編:科学的根拠に基づく肝がん診療ガイドライン 2013年版(第3版). 金原出版, 2013.
2) Llovet JM, et al:N Engl J Med. 2008;359 (4):378-90.
3) Cheng AL, et al:Lancet Oncol. 2009;10 (1):25-34.

TOPIC 4▶肝性腹水・浮腫に対するバソプレシンV2受容体拮抗薬

非代償性肝硬変では,腹水や浮腫を来すことがあるが,塩分制限に加え,抗アルドステロン性利尿薬であるスピロノラクトン,ループ利尿薬であるフロセミドなどの利尿薬が治療の主体となっている。難治例では利尿薬の増量に加え,BCAA(branched-chain amino acids)顆粒製剤,アルブミン製剤の併用も行うが,肝予備能低下例では治療効果は限局的となることも多い。

肝硬変では血漿バソプレシン濃度の上昇が認められ,水排泄障害を来し,稀釈性低Na血症となる病態が知られている。選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬は,遠位尿細管のバソプレシンV2受容体に選択的に結合し,腎集合管における水吸収を阻害するが,選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬であるtolvaptan(サムスカ®)では肝性腹水において強力な水利尿効果が得られ,低Na血症の改善1)のみならず腹水を減少させる効果もあることが報告2)された。

以上の結果を受け,tolvaptanは2013年9月に「肝硬変における体液貯留」に関しても適応拡大となった。通常は抗アルドステロン性利尿薬やループ利尿薬と併用して使用する。一方で,重篤な肝障害の合併や,肝予備能の低下による薬物血中濃度の上昇などを来す可能性もあり,少量から開始し,肝機能検査を頻回に行い,安全性を確認した上で使用していくことが望ましい。

◉文 献
1) Cárdenas A, et al:J Hepatol. 2012;56(3): 571-8.
2) Okita K, et al:J Gastroenterol. 2010;45 (9):979-87.

TOPIC 5▶『B型肝炎治療ガイドライン』の発表

実臨床における肝炎治療の標準化と充実を図るため,C型肝炎に引き続き,2013年に日本肝臓学会より『B型肝炎治療ガイドライン』も発表1)された。慢性肝炎を中心とするB型肝炎ウイルス感染者の治療目標が明記されており,治療対象や治療薬の選択について詳細に記載されている。加えて急性肝炎,劇症肝炎ならびにB型肝炎ウイルスの再活性化への対応も掲載されている。

慢性肝炎の治療の長期目標として,肝炎の沈静化やHBV-DNAの陰性化だけではなく,HBs抗原の消失をめざすことが掲げられている。核酸アナログ製剤であるエンテカビル(ETV:バラクルード®)は副作用が少なくウイルス低下効果が高いことから多くの症例に使用されているが,長期内服が必要なことやHBs抗原陰性化率が低いことなど解決すべき点も残されている。従来のIFN療法では年齢や線維化が治療効果規定因子であったが,2011年にPEG-IFNが承認され治療効果が高まったことから,年齢,線維化と治療効果との関連が乏しくなった。そのため肝硬変へ達していない慢性肝炎状態では積極的にPEG-IFNを用いた抗ウイルス療法を検討していく治療方針(図6)1)が提示されている。近年増加しているゲノタイプAではPEG-IFNの治療効果が高いため特に推奨されている。

◉文 献
1) 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編:B型肝炎治療ガイドライン(第1.2版). 2013.
     [http://www.jsh.or.jp/doc/guidelines/B_Guideline_ver1.2_Sept11.pdf]

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top