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肝硬変[私の治療]

No.5234 (2024年08月17日発行) P.42

中西裕之 (武蔵野赤十字病院消化器内科部長)

黒崎雅之 (武蔵野赤十字病院院長)

登録日: 2024-08-19

最終更新日: 2024-08-14

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  • 肝硬変は,肝障害に伴う高度肝線維化により偽小葉形成に至った状態である。原因となる肝疾患の治療に加え,様々な肝硬変合併症(こむら返り,皮膚瘙痒症,浮腫・腹水,肝性脳症,サルコペニア,門脈血栓,食道静脈瘤,門脈肺高血圧症,肝腎症候群,肝肺症候群,肝硬変性心筋症など)に対応する必要がある。

    ▶診断のポイント

    身体所見(手掌紅斑,くも状血管腫,黄疸,浮腫,腹水など),血液検査〔血小板減少,アルブミン(Alb)低値,総ビリルビン高値,PT延長,アンモニア高値,FIB-4 index高値,M2BPGi高値など〕,肝画像検査(腹部エコー,CT,MRエラストグラフィー,fibroscan,超音波エラストグラフィーなど)の結果から,非侵襲的に診断されることが多い。肝硬変合併症については,蛋白低栄養は血中Alb≦3.5g/dLで診断される。肝性脳症は,顕性肝性脳症であれば羽ばたき振戦や失見当識などで診断されるが,不顕性肝性脳症は精神神経機能検査(neuropsychological tests,Stroop test,near-infrared spectroscopyなど)での診断を要する。サルコペニアは,握力測定(男性<28kg,女性<18kg),筋肉量測定(CT法,生体電気インピーダンス法)で診断される。

    その他,心エコー,上部消化管内視鏡検査,腹部エコー,腹部CT,EOB・プリモビスト(ガドキセト酸ナトリウム)-MRIなどを適宜施行して,肝硬変合併症の評価および肝癌のサーベイランスを行う。肝硬変疑いの患者は,定期的に肝臓専門医にコンサルトしながらfollow upするのが望ましい。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    ウイルス性肝炎やアルコール関連肝疾患,MAFLD(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease),自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変など,背景肝疾患への治療介入と並行して肝硬変合併症対策を行う。肝硬変患者の多くが蛋白・エネルギー低栄養状態を呈しており,管理栄養士による栄養状態の評価,栄養治療介入を行う。食事は標準体重当たり25~35kcal/kg/日,蛋白は1.0~1.5g/kg/日,脂肪は総エネルギー量の20~25%とする。塩分制限は目標5~7g/日とし,漬物,みそ汁,ハムなど塩分が多い食品を避け,腹水の有無にかかわらず,減塩食に慣れておく。また,しょうゆなどのアンモニア塩高含有食品の摂取を控え,しょうゆなら出汁割りしょうゆにする。就寝中の飢餓によるエネルギー低栄養状態では,総エネルギー量のうち200kcal程度を就寝前に摂取するlate evening snackを行う。

    肝硬変に伴うこむら返りにおいては,カルニチン欠乏症が存在する可能性がきわめて高い状態であるため,L-カルニチンを投与する。低亜鉛血症に対し酢酸亜鉛製剤を投与する。蛋白低栄養状態による低アルブミン血症では,BCAA顆粒製剤内服を開始する。一般的なかゆみ止め(抗ヒスタミン薬など)によっても治療効果が十分でない皮膚瘙痒に対しては,ナルフラフィンを投与する。高アンモニア血症による肝性脳症に対し,肝不全用経腸栄養剤,ラクツロース,リファキシミンを投与する。カルニチン欠乏症が存在する可能性がきわめて高い状態であるため,L-カルニチンを適宜併用する。肝性浮腫・腹水に対しては,スピロノラクトン,ループ利尿薬を少量のみ内服とし,血管内脱水とならないようBUN 30mg/dL未満にコントロールする。効果不十分であれば入院とし,トルバプタン内服を追加する。門脈肺高血圧症に対してはマシテンタンを内服する。

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