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(2)先天性サイトメガロウイルス感染症の予防,診断と治療[特集:TORCH症候群─母子感染における問題点]

No.4872 (2017年09月09日発行) P.33

谷村憲司 (神戸大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター講師)

出口雅士 (神戸大学大学院医学研究科地域医療ネットワーク学分野特命教授)

登録日: 2017-09-08

最終更新日: 2017-09-06

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  • 先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対する確立されたワクチンや治療法はないため,妊婦CMV抗体スクリーニングは,十分なカウンセリングが行える条件下での実施が望ましい

    抗CMV抗体未保有が判明している妊婦に対しては,妊娠中に初感染を起こさないよう感染予防の啓発を行う

    今後,胎児治療や新生児治療の有用性が明らかになる可能性がある

    1. 先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症

    先天性サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)は,TORCH症候群の中で最も高頻度に胎児感染を起こし,乳幼児に神経学的後障害を残す,きわめて重要な病原体である。CMV抗体陰性妊婦の1~2%が妊娠中に初感染を起こし,そのうち約40%が胎児感染に至る。胎児感染例の20%が症候性,80%が無症候性の先天性CMV感染児として出生する。

    先天性CMV感染児の症状としては,低出生体重,肝脾腫,肝機能異常,小頭症,水頭症,脳内石灰化,紫斑,血小板減少,痙攣などがある。症候性先天性CMV感染児の90%,無症候性児の10~15%が精神遅滞,運動障害,難聴などの後障害をきたす。妊娠前から抗CMV抗体を保有する妊婦であっても,再活性化ないし再感染によって先天性CMV感染や児の障害を起こすことがある(図1)1)

    わが国における先天性CMV感染の発生頻度は,新生児300人中1人で,毎年約1000人の乳幼児が神経学的後障害をきたすと推定される2)3)。さらに,わが国における妊婦の抗体保有率は,1990年頃には90%台であったが,近年70%にまで減少し,今後,先天性CMV感染児の出生数はさらに増加することが危惧される4)

    2. 妊婦CMV抗体スクリーニングの意義

    有効なワクチンや治療法が存在しないため,全妊婦を対象とした血清学的検査などによる妊婦CMV抗体スクリーニングは世界的に見ても推奨されていない。したがって,現時点では,十分なカウンセリングが行える条件下で妊婦CMV抗体スクリーニングを実施することが望ましいと考えられる。

    近年,生後早期から症候性先天性CMV感染児に対して抗ウイルス薬治療を行うことで,難聴だけでなく神経学的予後も改善できる可能性が報告されている5)6)。したがって,出生時に先天性CMV感染児を正確に同定することが重要であると考えられるが,全新生児を対象とした尿CMV-DNA PCR検査による先天性CMV感染スクリーニングは実現していない。このような現状においては,妊娠中に先天性CMV感染児を出産するリスクを有する妊婦を同定し,ハイリスク新生児に対して尿CMV PCR検査を実施するのが現実的と考えられる。また,抗CMV抗体未保有の妊婦に対するCMV感染予防の啓発も,先天性CMV感染症の発生抑制に効果があるとされる7)

    このような背景から,今後,妊婦CMV抗体スクリーニングの重要性が増してくる可能性がある。

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