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死戦期帝王切開【母体心肺停止時の最終的な救命法】

No.4870 (2017年08月26日発行) P.52

三浦広志 (秋田大学産科婦人科)

寺田幸弘 (秋田大学産科婦人科教授)

登録日: 2017-08-23

最終更新日: 2018-11-28

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3万例に1例の割合で妊婦に心停止が発症し,妊娠時であっても心肺蘇生法は非妊時と同様に施行してよいとされる。妊娠20週以降の妊娠子宮は大動静脈を圧迫するため,全血液量の30%が下肢にうっ滞し,そのままでは有効な蘇生が望めない。妊娠子宮を用手移動することでも大動静脈の圧迫は解除されるが,効果的な母体蘇生および児の予後を考慮した場合,速やかに分娩することが望ましい。

死戦期帝王切開とは,母体心肺停止時に救命を目的として大動静脈の圧迫を解除するために施行する手術のことである。原則として場所は問わず施行すべきであり,蘇生を続けながら,無麻酔で帝王切開を行い,胎児とその付属物を娩出する。母体の循環停止後5分以内の胎児娩出をめざして,蘇生開始後4分間で手術を決定(「4分間ルール」とも呼ばれる)し,1分で娩出すると最良の生存率が得られるとされる。胎児の生存は問わないが,母体心停止から20分以上経過後に分娩し生存した児の報告1)もあるため,可能であれば児の救命も行うべきである。

わが国でも死戦期帝王切開が行われた報告が近年増加している。実際の問題点として,施設における倫理委員会の承認,救急・小児など多くの関連科のコンセンサス,物品準備やシミュレーション,などを要するため,導入には時間がかかる。緊急時に備え,各施設での死戦期帝王切開の体制づくりが望まれる。

【文献】

1) Dijkman A, et al:BJOG. 2010;117(3):282-7.

【解説】

三浦広志*1,寺田幸弘*2 *1秋田大学産科婦人科 *2同教授

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