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【一週一話】ロボットスーツHALによる歩行改善効果の可能性

No.4691 (2014年03月22日発行) P.50

中島 孝 (国立病院機構新潟病院副院長)

登録日: 2014-03-22

最終更新日: 2017-09-12

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随意運動障害の改善

随意運動障害をきたす病気には脳血管障害,脊髄損傷や神経・筋難病があり,根治療法の開発のみならず,ambulation disorder(歩行不安定症)の治療方法を研究する必要がある。
随意運動は人が内的環境を自ら整え,主体的に生きる際の重要な機能であり,その治療法として,脳卒中モデルをもとにした反射階層理論(Brunnstrom,1970),ポリオモデルをもとにした固有受容性神経筋促通法(PNF),脳性麻痺モデルから導かれたBobath法などが古くからあるがエビデンスは十分ではない。新しい理論と方法に促通反復療法(Kawahira,1997),機器を使った方法にTES/FES(治療的/機能的電気刺激)や,本稿で扱う筑波大学の山海嘉之教授の提唱するcybernics(サイバニクス)がある。サイバニクスでは運動プログラム理論(Bernstein,1967)で想定された理想的な神経・筋系の再プログラミングを現実に行うことができる可能性がある。

サイバニクスとは何か?

サイバニクスはcybernetics,mechatronics,informaticsを融合し,装置と人の身体/脳がリアルタイムに情報交換して人を支援する技術概念であり,それに基づく装置が,生体電位駆動型装着型ロボット,すなわち皮膚表面に表れる生体電位信号(bioelectric signal)から装着者の随意運動意図を解析し,各種センサー情報と運動パターンのデータベースを参照し,適切なモータトルクで随意運動を増強するHAL(hybrid assistive limb)である。補装具としてのHALは健康な人の身体機能を増強する特徴があり,普通は持ち上げられない重い物を持ち上げることができる。

山海はiBF仮説(interactive bio-feedback hypothesis)すなわち,“動作意思を反映した生体電位信号によって動作補助を行うロボットスーツHALを用いると,HALの介在により,HALと人の中枢系と末梢系の間で人体内外を経由してインタラクティブなバイオフィードバックが促され,脳・神経・筋系の疾患患者の中枢系と末梢系の機能改善が促進されるという仮説”を提唱しており,そこからHALによる随意運動回復訓練が考えられた。脳・脊髄・運動神経・筋の障害から来る歩行不安定症に対して,患者がHALを装着して定期的に歩行練習を行うことで,HALを脱いだ後の歩行改善効果(neuromuscular plasticity)が期待されている。

HALの動作メカニズムと実装

HALは,装着者の随意運動意図に基づき動作するサイバニック随意制御(CVC),HAL内部の運動データベース(例:起立,歩行,走行など)を参照し生体電位信号が不十分でも運動を完成させるサイバニック自律制御(CAC),装着者に重さを感じさせないサイバニックインピーダンス制御(CIC)により構成されている1)

HAL下肢用(NON–MEDICAL)とHAL下肢用(MEDICAL)はサイバーダイン株式会社で開発・製造されており,前者は日本国内の医療または福祉施設で利用することができる。後者は,神経・筋疾患などで特徴的な生体電位信号(運動単位として微弱でまばらな電位)の検出・処理機能が実装され,最も難度の高いと思われる疾患に適合させることで,脳卒中や脊髄損傷を含む脳・脊髄・神経・筋疾患によるあらゆる歩行不安定症に対応している。医療機器品質保証のための国際標準規格ISO 13485に基づいて製造され,EUの医療機器としてのCE0197を取得している(2013年8月)1)2)

HALの臨床応用と今後

脳卒中片麻痺患者に対して,HAL下肢用(NON–MEDICAL)の臨床研究が行われ,10m歩行テストでスピード,ケイデンスの有意な改善効果が認められた3)。ドイツでは不全脊髄損傷に対する,HAL下肢用(MEDI CAL欧州モデル,HAL–ML05)を使った歩行練習によって歩行改善効果が得られ,労災保険適用が認められた2)
日本でも同様のモデルを使用して,厚生労働省難治性疾患等克服研究事業において,薬事法に基づく多施設共同医療機器治験「希少性神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るための新たな医療機器,生体電位等で随意コントロールされた下肢装着型補助ロボット(HAL–HN01)に関する医師主導治験─短期効果としての歩行改善効果に対する無作為化比較対照クロスオーバー試験:NCY–3001試験」が2013年3月から行われている。

この目的は緩徐進行性の希少性神経・筋難病患者の歩行不安定症が短期間,間欠的にHAL–HN01を治療的装着することで改善するという有効性・安全性を検証することである。対象疾患例としては,脊髄性筋萎縮症,球脊髄性筋萎縮症,下肢症状が緩徐進行性のALS,シャルコー・マリー・トゥース病,遠位型ミオパチー,封入体筋炎,先天性ミオパチー,筋ジストロフィーおよび診断が確定していないが,上記病態と同等とみなされるものである2)

脳血管障害や脊髄損傷など急性疾患では図1のように,通常リハビリでは歩行再獲得が不可能であっても,HALを使えば使うほど,歩行が早期に再獲得できる可能性がある。進行性の病態に対して,薬剤とHALを複合療法(combined therapy)として使うことで,さらなる改善を得られる可能性がある2)

図1 HALを使った回復曲線の想定(脳血管障害,脊髄損傷モデル)
図は通常リハビリでは歩行を再獲得できないが,HALを使えば使うほど,より早期に歩行が再獲得できる可能性を示すシミュレーション例


●文 献

1) 中島 孝:保健医療科. 2013;60(2):130-7.

2) 中島 孝, 他:治療. 2013;95(12):2088-93.

3) Kawamoto H, et al:BMC Neurol. 2013;13:141.

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