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(2)保存的治療とその問題点 [特集:再発させないためのイレウス治療]

No.4733 (2015年01月10日発行) P.23

大原泰宏 (埼玉医科大学消化器一般外科)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-14

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  • 保存的治療とは腸管安静,腸管減圧,輸液管理である

    イレウスの治療では通過障害をきたしている原因を検索しつつ,原因によって起こる病態の治療を進めていくことが重要である

    保存的治療の限界とは手術治療介入であり,その適応は可及的速やかに見きわめる

    1. 腸管減圧と輸液管理が保存的治療の中心

    わが国におけるイレウスとは腸管内容の肛門側への輸送が障害されたことによって起こる病態の総称であり,欧米で言うところの機能的通過障害とはやや異なる。
    イレウスの原因は種々あるが,その中でも多く遭遇するのは癒着性イレウスである。癒着によるイレウスの原因は過去の開腹手術がほとんどであり,単回手術歴で発症することも多く,開腹歴が多いほど発症の誘因になるとは言いがたい1) 。病歴聴取と腹部診察,画像評価によって適切な治療を選択することが肝要である。
    治療に関しては,閉塞解除を目的とした手術または腸管減圧が主体である。癒着性および機能的イレウス以外は手術加療されることが多い。保存的治療とは腸管減圧による閉塞解除と脱水補正のための輸液管理のことで,その後の維持療法までを含める。
    本稿では,保存的治療を中心にイレウス治療の進め方を述べる。

    2. イレウス治療の考え方

    イレウスと診断されたら,どのように初期治療を進めていくべきなのか。

    1 原因によって起こる病態を見きわめる

    イレウスは単に通過障害を起こすだけではない。腸管通過障害によって起きる病態を知っておくことが必要である(表1)。

    (1)便 秘

    通常,腸閉塞の症状として便通障害が多く,便秘を訴えて受診するケースが多い。大腸癌などの腫瘍による閉塞での便通障害もあるため,便秘に対しての安易な下剤処方や浣腸施行は避けるべきである。

    (2)腹 痛

    間欠的な痛みなのか,持続性の痛みなのかを確認する。
    開腹歴があり間欠的腹痛,腹膜刺激徴候がなく,腸管麻痺がない腸管通過障害のある症例については癒着性イレウスを疑う。しかし,上記の条件がそろう症例にはよく遭遇し,原因として腫瘍性,異物などの可能性もあるため,安易に判断してはならない。X線所見だけでは診断困難なこともあるため,CT検査も考慮する。
    持続性の痛みについては,腹膜刺激徴候があるのかどうかを見きわめる。イレウスの原因として腸捻転や内ヘルニア,腸管血栓症などによる血流障害や虫垂炎,消化管穿孔などによる汎発性腹膜炎から生じる麻痺性イレウスを鑑別する必要がある。腹膜刺激徴候があれば緊急開腹が必要となることがあるため,外科医へコンサルトする。緊急手術が困難であれば適切な施設への転院を検討する。

    (3)嘔 吐

    通過障害が原因で腸管内容が口側に戻ってくることが原因で起こる。高齢患者については誤嚥性肺炎のリスクとなりうるため,注意が必要である。腸管内容が逆流してくるため,内容を吸引・減圧する目的で経鼻胃管またはイレウスチューブが必要になってくる。

    (4)脱 水

    通常,1日に分泌される消化液(唾液,胃液,膵液,胆汁,腸液)は7~10Lで,イレウスの際にはこれらの再吸収障害をきたす上に腸管内や腹腔内への水分移行が進み,急速に脱水に陥る。小腸が閉塞すると,24時間以内に循環血漿量の50%が腸管内に移行すると言われており,適切な輸液を行うことが重要である。輸液量については通常成人の維持量に加え腸管内に移行した量を補充する必要がある。

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