株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

(29) 耳鼻咽喉科学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.134

山岨達也 (東京大学医学部耳鼻咽喉科教授)

近藤健二 (東京大学医学部耳鼻咽喉科 講師)

二藤隆春 (東京大学医学部耳鼻咽喉科 講師)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-11

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • next
  • ■耳鼻咽喉科の現状と課題

    耳科領域では顕微鏡下の鼓室形成術に内視鏡を併用する方法が用いられるようになってきており,内視鏡下耳科手術も鼓膜穿孔や耳小骨離断など,比較的低侵襲性で時間のかからない手術を中心に普及してきている。
    人工内耳は補聴器装用効果の乏しい先天性重度難聴小児において,より早期に装用を開始することの重要性が広く認識されるようになり,2014年2月には日本耳鼻咽喉科学会ホームページに掲載されている小児人工内耳適応基準における手術適応年齢が1歳以上(体重8kg以上)に引き下げられた。また,低音域に実用聴力の残存する高音急墜型感音難聴症例に対して,従来の電気刺激機能に加え音響刺激機能も兼ね備えたハイブリッド型の人工内耳〔残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation:EAS)〕が2014年7月に保険収載された。
    神経耳科領域では近年,前庭誘発筋電位検査やhead impulse testの出現により,耳石器や三半規管の詳細な機能評価が可能となり,またラバー負荷検査による前庭機能障害の簡便なスクリーニングが行われるようになってきている。
    鼻科領域では標準化スギ花粉エキスの薬価収載が2014年8月に承認され,ダニアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法エキスの開発も進められている。
    嚥下機能検査法には嚥下造影検査(videofluorographic examination of swallowing:VF)と内視鏡下嚥下機能検査(videoendoscopic evaluation of swallowing:VE)が保険収載されているが,2014年4月の診療報酬改定で「胃瘻造設時嚥下機能評価加算」が新設された際,医師がVFまたはVEを実施することが算定に必要とされた。
    頭頸部癌は,高齢化に伴い患者数が増加してきている。進行癌では化学放射線治療の成績向上が得られてきており,従来は手術適応とされていた症例でも臓器温存できる機会が増えている一方で,化学放射線治療後の嚥下障害が問題となっている。乳頭腫ウイルスが発癌に関与する中咽頭はわが国でも増加してきており,予後は関与しない症例に比べて良好であることから,治療戦略が見直されてきている。

    TOPIC 1

    人工内耳

    (1)小児の人工内耳適応基準

    人工内耳手術の適応基準は1998年4月に日本耳鼻咽喉科学会から示され,成人は両側90dB以上の重度難聴,小児は2歳以上で両側100dB以上の重度難聴とされた。小児に対する適応基準は2006年1月に見直しが行われ,年齢は1歳6カ月以上に引き下げられ,聴力も両側90dB以上にゆるめられた。その後の症例の集積によって,より早期に人工内耳装用を行う効果と安全性が確認され,2014年2月に小児の適応基準が再改訂された1)。今回の改訂では適応年齢は原則1歳以上(体重8kg以上)に引き下げられ,また聴力についても,①裸耳での聴力検査で平均聴力レベルが90dB,②上記の条件が確認できない場合,6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で,装用下の平均聴力レベルが45dBよりも改善しない場合,③上記の条件が確認できない場合,6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で,装用下の最高語音明瞭度が50%未満の場合,と詳細に記載されている。また,音声を用いて様々な学習を行う小児に対する補聴の基本は両耳聴であり,両耳聴の実現のために人工内耳の両耳装用が有用な場合にはこれを否定しない,という文言も追加された。

    (2)残存聴力活用型人工内耳

    低音域に実用聴力が残存し,中高音域に重度難聴がある症例は,実際には語音聴取が困難でありながら,聴力レベルでは人工内耳の適応とならなかった。このような症例に対しては周波数圧縮型補聴器などが試みられていたが,その成績は芳しくなかった。このような症例に対し,低音域は補聴器と同じく音響刺激を用いて,高音域は人工内耳と同じく電気刺激を用いて補聴を行うEASの有効性が海外を中心に報告され,わが国でも2014年7月に保険適用となり,手術を行うことが可能となった。このEASの適応基準として,①125Hz,250Hz,500Hzの聴力閾値が65dB以下,2000Hzの聴力閾値が80dB以上,4000Hz,8000Hzの聴力閾値が85dB以上の3つをすべて満たす(ただし,上記に示す周波数のうち,1箇所で10dB以内の範囲で外れる場合も対象とする),②補聴器装用下において静寂下での語音弁別能が65dBで60%未満(評価は補聴器の十分なフィッティング後に行う),③適応年齢は生後12カ月以上,④手術により残存聴力が悪化する(EASでの補聴器装用が困難になる)可能性を十分理解し受容していることが挙げられている2)
    EAS手術では補聴器を活用するためには手術後に低音域の聴力を温存することが重要であるが,海外の報告では数%程度において術後聴力が廃絶すると報告されている。また実際に聴力が廃絶しないまでも,術後聴力が完全に温存されず,数~10数dB程度の閾値上昇がみられることは稀ではないため,手術手技や術中・術後の投薬について議論がなされており,また,さらに低侵襲性の電極開発も行われている。このような背景から,人工内耳と同様の実施施設基準のみでなく,実施医基準(人工内耳埋め込み術を10例以上執刀した経験があり,講習会を受講した医師であること)も設けられ,また実施した場合は報告書を手術実施後3カ月以内に日本耳鼻咽喉科学会に提出することが義務づけられた。また,3年後にガイドラインを変更する可能性が示唆されている。

    【文献】
    1) 日本耳鼻咽喉科学会:小児人工内耳適応基準(2014)
    [http://www.jibika.or.jp/members/iinkaikara/artificial_inner_ear.html]
    2) 日本耳鼻咽喉科学会:残存聴力活用型人工内耳EAS(electric acoustic stimulation)ガイドライン
    [http://www.jibika.or.jp/members/jynews/info_naiji.pdf]
    (山岨達也)

    残り3,628文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    関連求人情報

    関連物件情報

    もっと見る

    page top