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(16)リハビリテーション医学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.82

正門由久 (東海大学医学部専門診療学系リハビリテーション科学教授)

登録日: 2016-09-01

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  • ■リハビリ科専門医の必要性

    リハビリテーション(以下リハビリと略す)医学講座を持つ大学は全国的にまだまだ少なく,残念ながらリハビリ医学教育が十分になされる環境にないのが現状である。それゆえにリハビリ科専門医を養成することが難しく,いまだ専門医が全国に充足する状況にはなっていない。さらに,講座がなければ科学的研究が十分に行える状況ではない。質の高い臨床能力を備え,エビデンスに基づいた効率的・効果的なリハビリ医療を実践できる,教育・研究・診療のバランスがとれたリハビリ科医師を育てなくてはならない。
    このような現状でありながらも,徐々にではあるがリハビリ科専門医も増え,科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)にリハビリ医学分野ができて,研究も徐々に盛んになってきている。また,わが国からの研究成果も世界に発信されてきている。つまりリハビリ医学は,以前はしっかりとした基盤を持った学問領域ではなかったものの,徐々に障害の軽減につながる先進的治療法の開発などの領域を確立しつつある。すなわち,リハビリ治療法についてのevidenceレベルの高い臨床的研究,基礎的研究が盛んに行われてきている。
    最近の医学・理工学などの発展・進歩の恩恵により,様々な方法(機能画像や神経生理学を用いた脳機能の解明など)でこれらを解明すること,また障害を改善することが現実のものになっている。高齢社会を迎え,リハビリ医学・医療の果たす役割は大きいと考えられ,科学的基盤を持った医学・医療分野として,リハビリ医学・医療はますます発展が期待される分野である。

    TOPIC 1

    リハビリテーション医療連携

    2000年4月介護保険導入にあたって厚生労働省は,リハビリ前置主義を唱えて医療の中で十分なリハビリを行い,患者を自立または介護の程度を軽減させてから介護保険に移ることを薦めている。それには,医療の中でまずリハビリ医療が必要かつ十分に提供される体制が必要である。医療提供体制の変革,特に診療報酬制度におけるリハビリに対する点数の改定,入院期間の短縮,回復期リハビリ病棟の設置など,リハビリ医療を取り巻く環境は劇的に変化し続けてきた。
    リハビリ治療は,専門的臓器治療と平行して廃用症候群や合併症の予防を目的とした「急性期リハビリ」,急性期治療後に残存する障害の改善から在宅復帰やできれば職業復帰をめざす「回復期リハビリ」,生活の安定・QOL(quality of life)の向上をめざす「維持期(生活期)リハビリ」に大きく分けられる。急性期リハビリは救急・急性期病院で,回復期リハビリは亜急性期医療の場としての回復期リハビリ病棟などで,そして維持期(生活期)リハビリは慢性期医療の場としての在宅・施設などで提供される。これらにより,医療機関が担う役割・機能を明確にし,連携することによって生活が再構築されていくという体制(機能分化と連携)が重要となる。
    急性期から回復期のリハビリは主に医療保険で,維持期(生活期)でのリハビリは主に介護保険によって行われている。しかし,それには医療保険から介護保険までに至るスムーズな流れができ,そのどの過程でも必要かつ十分な質の高いリハビリが提供される“連携体制”が作られることが必要である。2007年第5次医療法改正では,医療提供施設相互間の機能の分担および業務の連携を推進するために必要な事項を定めることなどの方針が打ち出され,医療を受ける者の利益の保護および良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図ることが計画された。
    リハビリにおいては,2000年回復期リハビリ病棟の創設,2006年疾患別リハビリの導入ととともに標準的算定日数上限が定められた。2008年回復期リハビリ病棟に,質の評価としての在宅復帰率,日常生活機能評価による重症患者の受け入れ割合などが試行的に導入された。2010年改定では成果指標に加えて,プロセス指標が導入され,「休日リハビリ提供体制加算」,「リハビリ充実加算」が追加された。2012年には回復期リハ病棟はスタッフなどの充実度により3段階へと変更された。2014年3月回復リハビリ病棟病床数は全国で6万8000床余りとなっている。2014年4月診療報酬改定では,急性期病棟におけるリハビリ専門職の配置に対する加算,回復期リハビリ病棟の評価の見直しなどが変更されている。これらは,厚生労働省が高齢化の進行に対して,医療保険,介護保険だけではなく,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を実現しようとしているためである。2025年を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築が推進されている。
    以上のように高齢社会に向け,医療ばかりでなく介護においても,脳卒中などの各時期を担う施設や法の整備が行われてきた。しかし,それらの機能分化と有機的な連携がなければ,リハビリはスムーズに進まない。急性期からの一貫したリハビリ医療を効率的・効果的に提供しうる診療体制の構築が不可欠である。さらには,地域の保健・福祉資源との連携・ネットワーク化によりリハビリ医療の流れをつくる必要がある。
    このような背景のもと,2006年大腿骨頸部骨折に限定して導入されていた地域連携クリニカルパスが2008年脳卒中へと拡大された。脳卒中地域連携パスを用いた急性期病院と回復期リハビリ病院との連携パスが開始され,2010年より地域連携パスは,維持期(生活期)での医療を担う地域の診療所などに拡大された。つまり,回復期などの病院を退院した後の療養を担う医療機関・介護施設等との連携を含めた3段階の地域連携診療計画とされた。病院を退院後に通院医療・在宅医療を担う病院・診療所やリハビリなどの医療系サービスを担う介護サービスまでに連携を行うことが,新たに評価されることとなった。各施設・病院への機能分担と連携強化を図り,総合的にリハビリ医療が展開できるネットワークシステムを確立することが必要である。

    【文献】
    1) 石川 誠:月刊保険診療. 2010;65(6):28-30.
    2) 日本リハビリテーション医学会, 日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会, リハビリテーション連携パス策定委員会:脳卒中リハビリテーション連携パス 基本と実践のポイント. 医学書院, 2007.
    3) 日本リハビリテーション医学会, 日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会, リハビリテーション連携パス策定委員会:リハビリテーションと地域連携・地域包括ケア. 診断と治療社, 2013.

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