イムノクロマト法による迅速診断キットでは,A型インフルエンザウイルスの亜型同定はできない
A型インフルエンザウイルスの亜型は,遺伝子検査により同定することが可能である
遺伝子検査は非常に高感度であるため,偽陽性が出ないようコンタミネーションには十分に留意しなければならない
2009年にブタインフルエンザウイルスを起源とするA(H1N1)pdm09によるパンデミックが起こった際,医療現場では迅速診断キットが多用され,治療のみならずパンデミック対策にも大いに役立ったと考えられている。しかしながら,国内で製造販売承認を受けて市販されていた迅速診断キットは,A型およびB型インフルエンザウイルスの検出しか行えず,それまで流行していたAソ連型のA(H1N1)亜型とA香港型のA(H3N2)亜型の季節性インフルエンザウイルスとの区別はできなかった。
当時,国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター(感染研)では,reverse transcription polymerase chain reaction(RT-PCR)法を用いた遺伝子検査法を構築し1),A(H1N1)pdm09出現の報告から1週間ほどで,全国の地方衛生研究所と検疫所に検査キットを配布して全国規模の検査体制を築いている。2009年4月29日に,「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,「感染症法」)において,このウイルス感染症が「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられ,全数把握対象疾患となった。
しかし,迅速診断キットではこのウイルスを同定できないため,全数把握が解除される2009年7月24日まで全国の地方衛生研究所と検疫所で遺伝子検査による確定診断が行われることとなった。2013年には,中国でH7N9亜型の鳥インフルエンザウイルスによる初のヒト感染例の報告があり2),新型インフルエンザの発生が危惧された。このときも2009年と同様に全国で検査できる体制を整えたが,2016年10月現在,輸入感染例を除き中国以外でのヒト感染例の報告はなく,パンデミックには至っていない3)。
◆A型インフルエンザウイルスの亜型と宿主
A型インフルエンザウイルスは,ウイルス表面に存在するヘマグルチニン(赤血球凝集素,HA)とノイラミニダーゼ(NA)の抗原性の違いにより,HAはH1~18,NAはN1~11の亜型に分類される。現在,ヒトではA(H1N1)pdm09とH3N2が流行しているが,ヒト以外にもブタ(H1N1,H1N2,H3N2,H3N1など),ウマ(H3N8,H7N7),イヌ(H3N8),アザラシ(H7N7,H4N5,H4N6,H3N3など),クジラ(H13N2,H13N9など),オオコウモリ(H17N10,H18N11)などの哺乳動物,野鳥や家禽(ニワトリ,ウズラ,アヒルなど)からウイルスが分離されている。特にカモなどの水禽類からH1~16およびN1~9亜型のウイルスが見つかっており,A型インフルエンザウイルスの自然宿主は水禽類であると考えられている。
かつてヒトで流行したAソ連型のA(H1N1)亜型や現在も流行しているA香港型のA(H3N2)亜型におけるHAおよびNAは,もともとは鳥インフルエンザウイルスに由来し,それまでヒトで流行していたウイルスとリアソータント(遺伝子再集合)したことで出現したウイルスである。また,2009年に出現し,現在も流行しているA(H1N1)pdm09はブタ,トリ,ヒト由来のインフルエンザウイルスのリアソータントにより出現したウイルスである4)。
H7N9亜型の鳥インフルエンザウイルスのヒト感染例については前述したが,それ以外にも最近では,高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1,H5N6)3)やブタインフルエンザウイルス〔H1N1v,H1N2v,H3N2v(「v」はvariantを意味し,ブタの中で循環しているウイルスを示す)〕などのヒト感染例も多く報告されており5),これらのウイルスを起源とするパンデミックの発生が危惧されている。
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